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自死遺族の苦悩に寄り添う 名古屋のNPO深夜に電話相談

 家族や恋人、親友ら近しい人を自死(自殺)で亡くした人の苦しみは深い。特に喪失感に襲われやすい夜間に、そうした人たちの声を聞く試みが九月から毎週火曜、名古屋市で始まった。運営するのは同じ経験を持つ遺族らだ。街中が華やぐクリスマスイブのきょうも、電話を通して悲しみに寄り添う。 (植木創太)

深い悲しみ 傾聴を徹底

会員同士でLINE通話し、相談に乗るシミュレーションをする「アフター・ザ・レイン」のメンバー=名古屋市内で

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 「自ら死を選んだ父の最期は、夫にさえ言えなかった」

 自死者の遺族や友人らに向けて深夜の電話相談を始めたNPO法人「アフター・ザ・レイン」(名古屋市東区)の理事長で、心理カウンセラーの高木繭子さん(51)は振り返る。

 「人には言わないように」。母が漏らした言葉には、世間の偏見が詰まっていた。自死は弱い人間がすること−。父がそういう人だと思われるのが怖かった。

 初めて人に告げたのは十年ほど前。心理カウンセリングを学ぶために入学した学校でのことだ。授業で「自分の秘密を話す」という課題を与えられ、心を決めた。父が自殺したのは、高木さんが二十四歳の時。理由は今も分からない。当時、既に十年以上が過ぎていたが、カウンセラー役の同級生を前に話すうち、父の姿を思い出し、涙が止まらなくなった。「ここでは話していいんだ。そう安心できたから泣けたし、初めて父の死に向き合えた」。その体験がアフター・ザ・レインの設立を後押しした。

 法人は東海三県で暮らす自死遺族と活動を支援する大学教員や弁護士、臨床心理士、精神科医ら二十人で構成。英語で「雨上がり」を意味する法人名には「どんなつらさも、永遠には続かない」との思いを込めた。夜間相談は毎週火曜の午後十時〜翌午前四時。電話のほか、無料通信アプリ「LINE(ライン)」の通話でも対応する。相談員は、傾聴の技術を身に付けた遺族と、ボランティアら六人。中には自殺予防の相談窓口「いのちの電話」に関わってきた人も。

 法人によると、自殺に関わる相談窓口は少なくないが、遺族の支援に的を絞ったものは全国でも珍しい。自殺予防を目的とする窓口は、残された人にとってハードルが高いという。「どうしても『もう起きてしまったこと』ととらえられがち」と高木さんは言う。

 しかし、遺族らの悲しみは深く、しかも一様ではない。「なぜ気付けなかったのか」と悔いる人もいれば「私を捨てて死んだんだ」と疎外感を抱く人も。「悩んでいる人に手を差し伸べて」と訴える自殺予防の取り組みが、自分たちを責めているように感じられて怖くなる人もいるという。

 これまでに寄せられた相談は二十件弱。半数は日中は電話がしづらい働き盛りの三十〜五十代だ。大半が三十分以内で通話を終えるが、一時間以上話を聞くことも。相談員の一人で、法人理事の木下宏明さん(65)=岐阜県土岐市=は、自らも妻と息子を自死で亡くした。電話では意見を差し挟むことなく、傾聴を徹底する。「『私も遺族だから』と押しつけず、思いを受け止めたい」と話す。

 厚生労働省によると、二〇一八年の自殺者数は二万八百四十人。〇六年の自殺対策基本法制定以降に対策が進み、過去最多だった〇三年に比べて四割減った。ただ、人口十万人当たりの自殺死亡率は世界ワースト九位で、先進七カ国では最も高い。計算すると、毎日六十人弱が自ら死を選んでいる。

 国の自殺総合対策大綱は、自死遺族支援も柱の一つに掲げるが、助けが必要な人の数に比べ、支援者の数は足りない。高木さんらは来春から電話相談員らの養成講座を開き、支援者を増やしたい考えだ。

 今年は、世間が楽しい雰囲気に包まれるクリスマスイブも大みそかも火曜日。高木さんは「同じ思いを抱えた人とつながれることは、私にとっても支えになる。つらい時はかけて」と呼び掛ける。

 電話相談は0570(017)222。LINEは通話だけで、IDはQRコード、または「aftertherainjapan」で検索。いずれも通話料、通信料は自己負担。

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