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「リスト公表」現場は背景は  改革 出ばなくじかれた

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 厚生労働省が九月に明らかにした「再編・統合の議論が必要な公立・公的病院」のリストが、議論を呼んでいる。少子高齢化の影響で膨れ上がる医療費を抑制するのが狙いだが、名指しされた病院や自治体、患者の間では不安や反発が広がる。公表された全国四百二十四施設の一つを訪ね、問題点を探った。(地域医療取材班)

富山の町立病院「現状見て再公表を」

院内に掲げられたメッセージ。「引き続き地域医療を担う」と表明している=富山県朝日町のあさひ総合病院で

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 新潟との県境、富山県の東端にある朝日町。日本海を望む場所に、町立あさひ総合病院はある。

 人口一万一千人。三十年前に比べ七千人も減った。高齢化率は43・5%と県内の自治体で最も高い。そうした町で、昨年度一年間をかけて改修した六階建ての病院はひときわ目立つ。かかった費用は五億円だ。

 厚労省の発表から四日後、正面玄関には院長からのメッセージが掲げられた。「当病院は再編・統合をいたしません」−。十一月には町の広報紙でも問題を特集し、全戸に配布した。

 「高齢者医療の先進モデル」を目標に掲げ、四月に再スタートを切ったばかり。百九十九あった病床を百九に減らす一方、高齢者が地域で安心して暮らせるよう、リハビリや認知症などに特化した施設や設備を新たに設けた。

 今回、厚労省が挙げたのは、手術などが必要な「急性期」で診療実績が少ない、あるいは車で二十分以内の所に類似の機能を持つ施設がある病院だ。背景には、入院単価が高く医療財政を圧迫する急性期の病床を減らし、高齢化を念頭に、リハビリ向けの「回復期」に転換する狙いがある。

 ただ、判断の基にしたのは二〇一七年度のデータ。あさひ総合病院では一八年度まで、医師や看護師不足を理由に四十九床を使っておらず稼働率は五割ほど。難しい症例への対応も少なかった。車で西へ二十〜三十分ほど行った場所には、救急症例も豊富な黒部市民病院がある。事務部長の野口正人さん(53)は「二年前のデータで分析されれば仕方ない」と声を落とす。

 人口が減る中、病院を維持するコストは甚大だ。一八年度までの累積赤字は三十九億円に達する。過去十年間で、町から投入された金額は五十八億円。多くを国の地方交付税交付金で賄うが、予算規模が百億円に満たない町の財政への影響は小さくない。

 そこで、一三年度からスタートさせた改革を巡る議論の中で出てきた高齢者重視の経営は、国の方針に合致する。加えて、昨年末からは黒部市民病院と電子カルテを共有、難しい症例は黒部へ紹介するように。あさひ総合病院は、回復後やリハビリを担うよう、すみ分けた。身の丈に合った経営の結果、四月以降の病床稼働率は九割を超える。

 笹原靖直町長(65)は「改革の出ばなをくじかれた」と怒りをあらわにする。患者の多くは高齢者だ。町内の水野瑠美子さん(78)は白内障の治療で通う傍ら、運転免許のない隣人を病院へ送ることも。黒部市へと向かう電車は通勤時間帯を除けば一時間に一、二本。「近くにないと通院をあきらめる人が出る」と訴える。

 同省が名指しした公立・公的病院の多くは、あさひ総合病院と同様、人口が少なく、交通の便も悪い地方の中小病院だ。民間の参入が望めないからこそ、災害時を含め果たす役割は大きい。住民説明会で改修の意義を訴えてきた東山考一院長(60)は「『つぶれないか?』と患者に聞かれることが多い」と残念がる。

 中部九県でリストに挙がったのは七十四施設。本紙のアンケートでは、回答のあった五十九施設のうち八割が、持続可能な地域医療を展開するため「具体的に取り組んでいる」と答えた。こうした病院側の改革の姿勢とは関係なく名前を公表されたことが、不安と混乱を招いた一因だ。

 病院経営に詳しく、あさひ総合病院の改革の相談にも乗った城西大の伊関友伸(ともとし)教授は「地域ごとに特性があり、一律の基準で統合・再編は進められない」と強調。「公表するなら、現場に入って実情を調べる必要があったのではないか」と疑問を呈する。

 「発表を撤回するか、現状に照らした上での再公表を考えてほしい」と東山院長。現場との隔たりを埋めるには、国側が丁寧な説明をすることが求められる。

高齢社会へ対応促す

医師の効率的配置も狙い

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 厚労省が病院名の公表に踏み切ったのは、将来の需要に見合った医療体制をつくる「地域医療構想」の議論が進まなかったためだ。一七年三月までに各都道府県が策定した構想による推計では、団塊の世代が全員七十五歳以上の後期高齢者となる二〇二五年に必要な病院ベッド(病床)数は計百十九万床に。高齢社会の到来で、高血圧や関節症などの慢性疾患を患う高齢者が増加すると予測。入退院を繰り返す人や、脳卒中後、骨折後などリハビリが必要な人が大幅に増えると見込み、回復期を一五年の十三万床から、三七・五万床に増やすことを目標に掲げた。それに基づき、全国三百三十九区域で、病院間の役割分担や連携を話し合う調整会議を開いてきたが、議論は低調だ。

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 手厚い医療が必要な分、入院単価が高い急性期は収入の柱。地域医療の先行きを危惧する自治体や住民の反発も大きいためだ。回復期の病床数は一八年時点で一七・一万床にとどまる。一方、若い世代の減少でニーズが減ると見込む急性期の削減率は一五年の5%と、目標の三割減にはほど遠い。

 今回、全病院の約七割を占める民間病院が除かれ、公立・公的病院が公表の対象となったのは、経営に多額の公費が使われていることが一因だ。公立病院の多くは赤字で、自治体からの税金投入額は年間で計八千億円にも。日赤などが運営する公的病院も医療に関わる事業は非課税であることに加え、地域の医療を維持したい自治体から補助金を受けている例もある。

 名前が上がった公立・公的病院は、来年九月までに結論を出すことを求められる。同省はさらに、民間病院の診療データも都道府県に提供して議論を促す方針だ。再編・統合が急務なのは、地方を中心とする医師不足がある。二四年度からは、勤務医に残業規制が導入されることが決まっており、労働力の減少も予想される。医療の質を担保するには、再編・統合で医師を効率的に配置することが不可欠だ。同省幹部は「各病院の経営努力は理解するが、二〇二五年、さらにその先への危機感を持ってほしい」と話す。

 

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