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対談−患者本位のがん医療とは 支えられ、前向きな人生

 首より上の部分に発症することが多い希少がん、腺様嚢(のう)胞がん(ACC)で舌などを切除した荒井里奈さん(45)=岐阜県下呂市=が本紙で連載中の「舌はないけど」が本になり、十一月一日に出版される。がん患者が適切な治療を受け、自分らしい人生を歩むには? 出版を記念し、肺がんの研究者で愛知県がんセンター総長の高橋隆さん(64)と荒井さんが語り合った。 (司会・編集委員 安藤明夫、構成・生活部医療班)

治療の進化目指し、共に取り組む意義

高橋隆さん(愛知県がんセンター総長)

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 高橋 さまざまな葛藤があったと思いますが、すごく前向き。自分の経験したことを他のがん患者さんと共有、還元しようとする姿勢に感動しました。

 荒井 下あごに強い痛みを感じたのは四十歳の夏です。がんと分かった時は頭が真っ白に。セカンドオピニオンを求めて愛知県がんセンターに行ったんですが、待合室で「ここにいる人はみんながんなんだ」と思うと楽になりました。

 目標は仕事に復帰することでした。でも術後は話せない、食べられない、動けない。すごくつらかったけれど、看護師さんやリハビリに関わる人が「職場に戻るんでしょう?」とくじけないよう励ましてくれた。脳や神経への多発転移が見つかって最終的に退職しましたが、おかげでいったんは職場復帰できました。

荒井里奈さん(がん闘病記「舌はないけど」を本紙連載中)

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■患者会も力に

 −患者自身が目標を設定し、それを医療者のチームが支えたんですね。

 高橋 荒井さんの治療には、頭頸(とうけい)部外科、形成外科、放射線治療など診療科を超えた医師だけでなく、いろんな職種の人が関わっている。良い医療というのは、診断をして手術や薬を投与するだけではない。その前後にも関わり、患者が自分の役割を、家庭や社会で実感できるまでにすることだと思っています。

 荒井 患者会の影響も大きかったですね。どの先生にも、もう話せなくなると言われました。ご飯も流動食だと。でも、舌を切除した人に会ったら、話しているし、ご飯も食べている。頑張ればそうなれるのかと。私は手術前に、(自分の先を行く)患者さんと話をしたかった。今は、患者会の担う部分はそこだと思って活動しています。

■学び合う中で

 −最近は学会に患者が参加する例が増えました。

 高橋 九月末の日本癌(がん)学会学術総会でも、患者さんに話してもらうプログラムがありました。医師と患者が学び合うのは重要です。いろいろながんで研究が進んだのは、患者さんの協力があったから。科学的根拠、エビデンスが積み重なった結果です。荒井さんも遺伝子検査を受け、新薬の治験に参加しようとした経験を書かれています。

 荒井 四年前にACCと診断された時は、治療法もなければ、生存率も良くないといった情報しかありませんでした。患者会が共有する、誰が、どこで、どんな治療を受けているかという情報が全て。 

 でも、今は選択肢が増えた。私が恩恵を受けている治療の裏には、基となる研究をする医療者と患者がいると感じるようになりました。自分の体を治すのが大前提ですが、新しい医療や治療法に結びつくよう患者も医師と一緒に取り組むことに意義を感じます。私の役には立たなくても、誰かのためにはなりますから。

 高橋 うちのような総合がんセンターは、研究所と病院が一体になって新しい診断や治療、予防につながる研究をしている。研究所の人にいつも言うのは「同じ敷地にある病院で治療を受けている患者さんを頭に浮かべて研究して」という言葉。「いつかこの研究を届けるんだ」という気持ちが大事です。

■新しい医療へ

 −最も進行が進んだステージ4でも意欲的に社会生活を送る人が増えています。

 荒井 私もステージ4。今の医療では治りません。「治すぞ」と頑張っている時が一番つらかった。楽になったのは「治らなくてもいいや」と思えた瞬間。がんでも元気に働く人を見たのがきっかけでした。

 治らなくても「あなたらしい人生を送れるよう考えましょう」と医師から一言あるとないでは違います。「治療は終わり」だけでは見放されたようで、根拠の乏しい自由診療や民間療法にすがる人も多いんです。

 もう一つ、がんの疑いがあって受診する最初の段階から、専門的な知識がある人が寄り添ってくれれば。がんの宣告はショックが大きい。痛みもあっていっぱいいっぱいなのに、今後の治療をどうするか判断しないといけない。そうした時にサポートがあれば正しい選択ができるかなと思う。

 高橋 医療が高度化する中、昔に比べて医療者は忙しくなっている。最善を尽くしてはいるが、今後は支援態勢をより強化することが必要だと思います。

 −目覚ましく医療が進歩しています。

 高橋 がんセンターの目標は、新しい医療を開発、社会に還元すること。それには患者さんの協力が欠かせない。検査の結果、がんではなかった人にも採血をお願いし、約二十年にわたりDNAを蓄積してきました。患者の診断、治療が最優先ですが、そうしたデータの積み重ねが、がんの予防につながります。

 荒井 「分からないから、お任せ」でなく、患者も病気や体について知る必要があると思います。そして、何より求められるのは「痛い」とか「助けて」とかをしっかり言える力です。お医者さんを前にすると遠慮してしまう人が多いけれど、言えば感じ取ってくださる。不安や不調を率直に伝えられる雰囲気を、病院と患者が一緒につくっていければと思います。

  ◇

「舌はないけど がんと生きる」 35回分の連載と荒井さんのブログをもとに4年間の闘病、リハビリと現在の日々を紹介。ACCの仲間の体験談やアンケート、専門医のインタビューも加えた。紙面で使っていない写真も多く掲載。四六判、160ページ、1540円。中日新聞社刊。中日新聞販売店からも申し込める。 

本紙連載「舌はないけど」が一冊に

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