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高齢者に多い大腿骨の骨折 早期手術で寝たきり防止

 転んで大腿(だいたい)骨近位部(脚の付け根)の骨を折る高齢者が増えている。筋力が低下して転びやすいこと、骨粗しょう症で骨がもろくなっていることが主な原因。骨折をきっかけに寝たきりになるのを避けるには、できる限り早く手術を受け、リハビリを始めることが大事だが、対応できる病院は少数だ。(植木創太)

各科の連携態勢がカギ

理学療法士(左)とリハビリをする患者。術後12日で訓練を始めた=富山市の富山市民病院で

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 十月上旬、富山市民病院。八十八歳の女性が、右太ももの付け根の骨を、金属のプレートでつなぎ合わせる手術を受けていた。骨折したのは、この日の午前八時すぎ。室内で踏み台から下りる際、バランスを崩して尻もちをつき、救急搬送された。手術は到着から七時間後に始まり、一時間で終了。翌日からはリハビリを始めるという。

 同病院では十年ほど前から、大腿骨近位部を骨折した六十五歳以上の早期手術に力を入れている。二〇一四年一月〜一八年十二月の丸五年で実施した六百七十八例を見ると、受傷から手術までの時間の平均は一・六日。一六年の日本整形外科学会による全国調査で分かった平均四・二日の約三分の一だ。

 ポイントは診療科を超えた連携態勢。整形外科医はもちろん、高齢者は持病がある場合も多いため内科医や麻酔科医、精神科医、薬剤師、理学療法士ら十四職種のスタッフが携わる。救急から連絡が来た時点で各科が動き始め、普段はどんな薬を服用しているか、手術に耐える体力があるかなどを専用の電子カルテに書き込んで共有。手術までの時間を短縮した。九月下旬に自宅で転び、搬送二日後に手術を受けた女性(82)は、術後十二日で始めた歩行器を使った歩行訓練をしながら「こんなに早く歩けるなんて」と喜ぶ。

 同学会などが一一年に策定した大腿骨近位部骨折の診療ガイドラインは、早期の手術を推奨する。策定に関わった同病院副院長の澤口毅さん(64)によると、筋力や体力の衰えている高齢の患者は、横になっている時間が長いほど元の状態に戻りにくい。寝たきりになれば医療費がかさむほか、家族の介護の負担も増す。

 欧米では受傷から二日以内の手術が一般的になってきているが、国内はまだまだ。「すぐに命に関わることはない」というのが理由の一つで、手術室や麻酔科医の確保の難しさから、後回しにされることも少なくない。同病院のような連携態勢を導入できている施設は全国でもごくわずかだ。

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 ガイドラインなどによると、大腿骨近位部骨折の発生率は四十歳から少しずつ増え、七十歳を過ぎてからは急増。ホルモンの関係で体質的に骨粗しょう症になりやすい女性が患者の七割以上を占める。高齢化が進んでいることを受け、〇七年に十五万人だった患者数は一七年には二十万人近くに。三〇年代には二十五万人に達すると見込まれる。

 骨折を機に寝たきりになると、生活の質(QOL)は大きく下がり、誤嚥(ごえん)性肺炎や免疫機能の低下といった合併症のリスクが上昇。六十歳以上の受傷者の五年後生存率が60%未満だったというデータもある。澤口さんは「高齢者の大腿骨近位部骨折は命に直結する」と指摘。「安全な早期手術をどこででも実施できるよう、多職種連携の手法を広めたい」と力を込める。

骨粗しょう症治療も大切

 日本整形外科学会が二〇一七年に九万人の大腿骨近位部骨折患者を調べたところ、骨折をした場所は「屋内」が71%を占めた。多くが家電のコードにつまずいたり、ちょっとした段差でバランスを崩したりしたことが原因と考えられる。

 こうした小さな衝撃で骨が折れてしまうのは、骨粗しょう症が主な要因。骨密度が下がり、骨がショックに耐えられなくなっているのだ。国内に一千万人以上いるとされる患者は、大腿骨の骨折予備軍。学会では、投薬や栄養管理など早期の治療を呼び掛ける。

 大腿骨近位部骨折の経験者は、再び骨折する確率が高い。富山市民病院では、この部位の骨折で入院した患者に対し、確実に骨粗しょう症の治療薬を処方するよう院内の手続きを見直した。一六年からは患者が退院した後も、術後一カ月、三カ月、六カ月、一年のタイミングで電話をして治療状況を確認。日本骨粗鬆(そしょう)症学会から骨粗鬆症マネージャーの認定を受けた看護師が「薬は飲み続けているか」「最近転んでないか」などと尋ね、再骨折防止につなげている。

 

 

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