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医療

教習所と連携し支援【高次脳機能障害】 運転寿命延ばす試み

リハビリで苦手改善

 七月半ば、愛知県一宮市の尾西自動車学校。実車教習中の男性(66)が、駐車スペースにバックで車を止めようとしていた。同乗するのは同市にある総合大雄会病院の作業療法士、東久也さん(33)ら。途中で車の右後輪が縁石に乗り上げた。「バックミラーだけで後ろを確認したのがいけなかった」と話す男性。東さんは「次回は直接、左右を確認しましょう」と励ました。

作業療法士の東久也さん(右端)らと、縁石に乗り上げた車を見て運転を振り返る男性患者(左から2人目)=愛知県一宮市内で

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 男性は昨年末に脳梗塞を発症し、同病院へ。右手足にまひが出て一カ月半にわたって入院した。まひは良くなったが、判断力や注意力の低下があり、高次脳機能障害と診断された。

 安全確保のため、二〇一四年に改正された道路交通法では、運転免許の申請や更新の際、脳卒中を含め特定の疾患にかかった人は、申告が義務付けられた。運転をするには、医療機関の診断を受け、運転免許センターでの検査に合格することが必要となる。

 近年、高齢者や障害者の運転に対して注がれる目は厳しくなる一方だが、車は重要な移動手段だ。男性の住む地域を走るバスは一時間に一本。仕事もままならず、閉じこもりがちに。「もう人生終わり」。食欲も失う中、元気を取り戻すきっかけとなったのが、同病院の運転支援だった。

 同病院が、脳卒中の後に現れやすい高次脳機能障害の人に対し、運転再開の支援を始めたのは一六年だ。患者の中には、免許更新までの間に自己判断で運転を再開する人がいる一方、命は助かったのに運転をあきらめ、無気力になる人も。国によると、運転免許の保有者が多い十八歳以上、六十五歳未満の高次脳機能障害の患者は約七万人と推定される。リハビリテーション科統括部長の木村隆文医師(61)は「近眼の人が眼鏡を使うように、低下した能力を補う訓練をすれば運転ができる場合がある」と支援の理由を話す。

 プログラムは、認知や運動能力などを調べる十種類の検査からスタート。筆記検査や、運転席を模したアクセルやブレーキ付きの装置を使うなどして、同時に二つのことができるか、左右のどちらか一方にだけ意識が向くことはないかなどを確認する。一度で全項目をクリアできなくても、リハビリで改善が見られれば、不十分だった項目だけ再び検査を受けてもらう。男性も、与えられた文章から特定の平仮名だけを見つける特訓をし、判断力、注意力を改善した。

 検査で問題がなければ、提携する尾西自動車学校での実車教習へ。学校の教官と作業療法士、家族が同乗し、制限速度は守れるか、車線を守れるかなど十五項目を評価。ドライブレコーダーの記録なども併せて支援チームが検討し、問題ないと判断した場合に診断書を出す。同病院によると、診断書を受け取った患者で、運転免許センターでの検査で不合格になった人はいない。これまで支援を受けたのは百十二人。うち約六割が運転が可能になった。

 医療機関が教習所と協力して支援に当たるこうした例はまだ少ない。全日本指定自動車教習所協会連合会(東京)が四月に公表した報告書によると、会員の教習所千二百七十九カ所のうち二百九カ所だ。

 一七年、医療や福祉、行政関係者らでつくる「日本安全運転・医療研究会」が発足した。本年度の会長を務める福井市の福井医療大副学長の小林康孝医師(56)が指摘するのは、診療報酬の問題だ。例えば、総合大雄会病院の場合、実車教習の費用は患者の実費負担。診療報酬は発生せず、作業療法士の人件費や交通費は同病院の負担だ。しかも、運転の可否を判断する国などによる統一的な基準がないため、現場は手探りが続く。「現状では作業療法士の数や財政的に余裕がある医療機関でしか取り組めない」と説明している。

 

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