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精子・卵子保存 支援を 若年がん患者に不妊の不安 

 医学の進歩で、小児がんや、AYA世代と呼ばれる十五〜三十九歳のがんの治療成績が向上する中、子どもをつくれる可能性「妊孕性(にんようせい)」を残すことが課題になっている。精子や卵子を凍結保存する試みが広がるが、高額な自己負担など問題も多い。患者団体は「若い患者の未来を守って」と募金や署名活動に力を入れる。 (編集委員・安藤明夫)

 寄せられたお金は、締め切りまでの二カ月間で千三百八十六万三千円。目標の一千万円を大きく上回った。卵子や精子を凍結保存するのにかかる費用の一部を援助しようと、全国骨髄バンク推進連絡協議会(東京)が四月から、インターネットで寄付を募った成果だ。

●寄付に理解集まる

 がん治療のため、抗がん剤や放射線の照射、骨髄移植を受けると、卵巣や精巣などの生殖機能に影響が出る。AYA世代の治療中の悩みに関する国の研究では「不妊治療や生殖機能に関する問題」が第五位だ。

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 子どもを望む人は治療前に精子や卵子を凍結保存することが必要。協議会によると、精子の採取・凍結保存の費用は二万〜七万円、卵子は十五万〜四十五万円。保存の継続に精子は年一万〜六万円、卵子は年五万円かかるという。国の助成制度がないため負担が大きい。

 協議会は二〇一三年、有志の協力を得て、卵子と精子それぞれの基金を設置。八十六人を支援してきた。だが基金は目減りするばかり。当初は一人当たり三十万円だった卵子の保存支援の上限額を、昨年から五万円に減らす事態に陥った。

「がん患者の妊孕性の問題を知ってほしい」と話す大谷貴子さん=名古屋市内で

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 「寄付サイトのシンボルに」と、精子の凍結保存によって父親になれた三十八歳の男性は、わが子の写真を提供。サイトの閲覧者は一万五千人に達し、医師らさまざまな人が寄付をしてくれた。中心となった協議会顧問の大谷貴子さん(58)は二十代で白血病を発症、自らも妊娠できなくなった一人。患者の中には、生殖機能を失う可能性の説明を受けないまま、治療に臨む人もいるという。寄付への関心の高さを「この問題を知ってもらうのも目的の一つだったので感激」と喜ぶ。

●保険適用求め署名

 採取や保存に保険の適用を求める動きも。小児白血病などの患者や家族でつくるNPO法人「血液情報広場つばさ」は今月から、会員宅や病院など全国約三千五百カ所に署名用紙を郵送。できるだけ多くの署名を集め、国に提出する予定だ。担当の後藤千英さん(41)は血液がんの経験者。五十万円をかけて卵子を保存したことで、治療中も将来に希望を持てたという。

 凍結保存に独自の助成を行っている自治体もあるが岐阜、三重県など全国で八つ程度だ。後藤さんは「生殖機能を失うことはがん治療の副作用。保険が適用されるべきだと思う」と指摘。「自治体の助成が広がっているが、地域によって差が出るのは不平等」と話す。

がんと染色医療専門医らが連携 岐阜県でネットワーク

 国立がん研究センターによると、四十歳未満でがんと診断される人は年間二万三千五百人。中でも〇〜十四、十五〜十九歳で最も多い白血病は早く治療を始めることが重要で、がん治療医が生殖機能への影響を十分に説明する余裕がない場合も少なくない。

 岐阜県では二〇一三年、病院の垣根を越えて、がん治療医、生殖医療専門医が「岐阜県がん・生殖医療ネットワーク」を結成。患者に対し、連携して説明に当たる態勢を整えている。ネットワーク事務局で、岐阜大周産期・生殖医療センター長の古井辰郎教授は「凍結保存が闘病の支えになる場合がある」と説明。一方で「例えば、卵子の採取には一〜二週間かかるため、治療開始までの猶予がないと保存ができないこともある」とも言う。「患者は難しい判断を迫られる。協力して正しい情報を提供することが不可欠」

 【妊孕性の温存】 体外受精技術の進歩に伴い、がん医療分野では2006年ごろから注目され始めた。日本癌(がん)治療学会は17年、40歳未満の患者を対象に、妊孕性温存に関する診療ガイドライン(指針)を作成。がん治療を優先した上で、不妊の可能性の有無や妊孕性を失わない方法を知らせることを推奨している。

 

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