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【元記者の心身カルテ14】言葉はなくても五感で

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 相模原市の津久井やまゆり園事件から三年。元職員の被告は「人間が幸せに生きるために、心のない者は必要ない」と、重度障害者十九人の命を奪った。

 私のもとには、知能指数(IQ)二〇未満の最重度知的障害者が患者として通ってくる。二十一歳の女性は言葉が出ない。特別支援学校を卒業後、障害認定のために来院したのが最初だ。IQ一一。食事や着替え、排せつといった生活全般に介助が必要だ。会話はできないが、診察室の机を繰り返したたいて意思表示する。それに合わせて母親がうなずく。

 自閉症を併せ持つ二十歳の男性も発語はない。レジ袋をちぎるのがお気に入り。道路に突然飛び出したり、自分や相手にかみついたりする行動は冷や汗ものだ。それでも、毎日作業所に通い、ゴム製品の出っ張りを取り除く「バリ取り」を数千回繰り返す。母親は「私の生理二日前に、息子も決まって具合が悪くなる」と、彼の敏感な察知能力について話す。

 被告は、自分の氏名や住所の言えない者は意思疎通のできない「心失者」と決め付ける。だが、たとえ言葉のやりとりがなくとも、五感を介して通じ合う彼らを診察する私には分かる。心を失っているのは重度障害者ではなく、「幸せは金と時間」と考える被告であり、生産性至上主義をひた走る社会のあり方だと。 (心療内科医・小出将則)

 

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