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医療

「終末期の意思 共有して」 本紙紹介の患者家族延命治療に後悔も

ACP・事前指示書転院重ね引き継がれず

最期の瞬間をどう生きたいか、事前に医療者や家族らと話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」や、書面にまとめておく「事前指示書」の取り組みが広がっている。課題は、その意思が患者の転院先にきちんと引き継がれるかどうかだ。二〇一七年八月十五日付の本紙医療面で紹介した患者の例をもとに考える。 (出口有紀)

貝谷隆司さんが2017年6月に春日井市民病院で作った事前指示書。最終段階を迎えた場合、心肺蘇生などを希望しないとしている=愛知県稲沢市内で(一部画像処理)

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 「父が事前指示書に書いた意思を、自分は生かせなかったのではないか」。愛知県稲沢市の会社員、貝谷裕之さん(48)は、医師に心肺蘇生を頼んだことを今も時折、後悔する。四月に八十歳で亡くなった父隆司さんは一七年六月、春日井市民病院(愛知県)で人工透析を始めるに当たり、ACPを行って事前指示書を作成。本紙では、その時の主治医や看護師との話し合いの様子を紹介した。指示書には、心肺蘇生や胃ろうなどは望まないと記した。

 約二カ月後、市外の病院に移った時には、やりとりの記録と事前指示書がしっかり引き継がれた。だが、内容が伝わったのは、ここまで。その後暮らした老人ホーム、今年二月から亡くなるまで入院した病院への引き継ぎはなかった。

 最期を過ごした病院でのことだ。狭心症の治療に備えた頸(けい)動脈の手術前、裕之さんは主治医に本紙記事なども見せながら、指示書の内容を伝えた。「これは治療方針に関する父の遺言書のようなもの。万が一、意思表示ができなくなった場合を考えた」と振り返る。

 医師は真摯(しんし)に受け止めてくれたが、こうした取り組みは知らないようだった。看病に追われ、余裕を失っていた当時、終末期の医療をテーマに、一から父の話をするのはしんどかった。命を救おうと頑張っている医師に、患者側から最終段階の話を持ち出すことにも抵抗を覚えた。「あらかじめ病院間で情報を共有してくれていれば」と話す。

 父は手術後少しして、心肺停止に陥った。病院からは「『蘇生はしない』と指示書にありますが、どうしますか」と確認があった。その時考えたのは、「ここを乗り切れば、また元気になれるのではないか」ということ。指示書で想定していた「終末期」とは思えなかった。「少しでも希望があるなら蘇生してほしい」

 隆司さんは一命を取り留めたが、寝たきりに。水さえ口から取れなくなった。「頑張るわ」と言う時があれば、「つらいわー」と叫ぶ時も。経過は思わしくなく、医師からはこのまま亡くなる可能性が高いと説明された。今度は全ての延命治療をしないよう伝えた。「事前指示書があったからこそ、二度目は父の意思を通せた」。半面、「自分のせいで、最期の約一カ月間、苦しみを味わうことになったのでは」とも感じる。

病院側の体制 道半ば

 ACPを取り入れた相談体制づくりは、厚生労働省の一四、一五年度のモデル事業だ。隆司さんが事前指示書を作った春日井市民病院など計十五施設が参加した。同病院では患者の転院の際、事前指示書に加え、対話の内容を記録した文書も引き継ぐ。患者の意思は、その時々の症状や心理状態で変わるため、対話を続けることも依頼している。

 ただ、「それを次の施設へ引き継ぐ“文化”が転院先にないと、そこで止まってしまう」と同病院がん相談支援センター部長の会津恵司さん(47)。厚労省による一七年度の調査では、ACPを実施している病院は二割ほど、ACPを「知らない」と答えた医師、看護師は約四割に上った。会津さんは、地域の医師や看護師、ケアマネジャーらに向けてACPに関する研修を実施。百五十四人が修了し、所属する病院などで活動している。こうした人が増えれば、裕之さんのように、決断を迫られて悩む家族の相談にも乗れるはずだ。

 ACP普及に努める国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の在宅連携医療部長、三浦久幸さん(60)は「事前指示書の作成は、ゴールではない」と指摘。「医師らが指示書を参考にしながら、目の前の本人と話し、その都度、どうするのが一番いいかを考えることが目的」と呼び掛ける。

 

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