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医療

【元記者の心身カルテ11】 河野さんの思考学べ

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 オウム真理教による松本サリン事件から二十五年。私たちはどんな教訓を得たのか。

 当時、新聞記者を辞めて信州大医学部で学んでいた私は、サリンのまかれた長野県松本市の現場から数百メートルのアパートに住んでいた。夜風に乗った毒ガスは住民八人の命を奪った。犠牲者には医学部の先輩女性も含まれていた。

 事件は、河野義行さんという冤罪(えんざい)被害者を生んだ。疑われた理由は、現場の隣に住む第一通報者で、化学に詳しく農薬などを持っていたから。だが、所持薬品からサリンは作れないし、動機もない。マスメディアは捜査情報をうのみにし、彼を容疑者扱いした。

 河野さんの破格なのは、それを恨むことなく、淡々と事実の究明を求め、サリンで意識不明となった妻を介護し続けたことだ。二十年後のインタビューで「事件は風化します。その中で残せる教訓を整理することが重要」と答えた。彼にしかできない表現だと思う。

 自らは変化しないが、反応速度などを変化させる物質を、化学では「触媒」と呼ぶ。冤罪被害者となっても動揺を見せず、犯罪捜査や報道の在り方を考えさせる河野さんは、社会の触媒といえる。触媒の「媒」は仲立ちの意味。情報の橋渡しを担う媒体、マスメディアは、彼の思考回路を学ぶべきだろう。記者のち医者の私も、ひとごとではない。(心療内科医・小出将則)

 

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