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医療

強度行動障害の支援に力 再編の「愛知県医療療育総合センター」

症状別に部屋 地域生活目指す

 五十年余りの歴史を持つ愛知県心身障害者コロニー(春日井市)が三月、「県医療療育総合センター」として生まれ変わった。本館棟に入る小児、障害者専門の中央病院を中心に、心身に障害のある人たちの支援に力を入れる。中でも全国的に注目されるのが、激しい自傷行為や暴力などを繰り返す「強度行動障害」の人が地域で暮らすことを目指す取り組みだ。(編集委員・安藤明夫)

二重窓の部屋。「症状に応じて入院する部屋を選ぶ」と話す吉川さん=いずれも

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 五月半ば、地下一階、地上六階建ての本館棟三階にある知的障害者向けの閉鎖病棟。若い男性数人が、廊下をゆったり歩いたり、所々に置かれた長いすに寝転んだりしてくつろいでいた。病棟の利用者の多くは、強度行動障害によって家庭で暮らすのが難しくなった人たちだ。

 強度行動障害は、知的障害を伴う自閉症の人らの一部に起きる。自分の体をたたく、食べられない物を口に入れる、物を壊すといった問題行動が高い頻度で現れるのが特徴。対応できる技術が医師らにない場合、向精神薬などを過剰に投与されてしまう例も多い。

 中央病院では十年ほど前から、患者を拘束したり、隔離したりすることを減らしてきた。そうした経験の蓄積から、新しい病棟の設計に当たり、児童精神科部長の吉川徹さん(46)らが知恵を絞ったのは、症状に応じて部屋のタイプを分けることだ。病棟は全て個室で全十二床。破壊行為の有無や障害の重症度によって、病室を選べるようにした。

3階の病棟の外側に設けられた運動スペース。患者が安全に遊べる=愛知県春日井市の県医療療育総合センターで

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 まず、病室は全て外から施錠できるが、隔離した状態をできるだけ減らすため、普段は鍵をかけていない部屋が多い。施錠する場合も、患者が内側から開けられるタイプの部屋と開けられないタイプの二つに分けて対応。吉川さんは「例えば、部屋の中では裸でいても、出る時に服を着る習慣があれば閉じ込めてしまう必要はない」。

 トイレは、強い力を加えても壊れにくいステンレス製、通常の陶器製のほか、部屋の外に出て自分で用が足せる人のためにと便器のない部屋もつくった。窓は(1)二重窓、(2)割れにくい強化ガラスに樹脂フィルムを張ったもの、(3)火事などの際に外から割れる通常のガラス−の三種類。(1)は破壊行為の激しい患者用、(2)は音などを楽しむため窓をたたくことがある患者用。(3)は安全面に特に心配のない人が入る。

 安全を守りながら、制約を減らすこうした取り組みは、自由を奪うことによって、入院中、患者が新たな問題行動を身に付けてしまうのを防ぐためだ。病院はあくまでも「仮住まい」。一回の入院は二十日前後にとどめる。吉川さんは「入院が長引くほど、帰れる場所がなくなる」と理由を説明する。病院では常勤の精神科ソーシャルワーカーが入院前や入院中に、家族から何が苦手か、どんな時に混乱するかなど日常の様子を聞き取った上で、退院後に利用できる地域の福祉サービスを紹介している。

 もう一つ、薬を減らすことも重要な課題だ。向精神薬のよくある副作用は眠気やだるさ。薬が効くと関心を持てる対象も狭まってしまう。大事なのは「その薬が症状に合っているか、必要かどうか」と言い、患者をしっかり観察している。

 同病院の取り組みには、全国の福祉関係者が注目。視察も少なくない。県心身障害者コロニーができた当時、支援が必要な障害者は施設で暮らすのが主流だった。吉田太院長は「今は地域で助け合う時代。地域社会で暮らせるよう支援しながら、何かあった時の受け入れ拠点として専門性を高めたい」と話す。

 【愛知県医療療育総合センター】 障害の特性に応じて専門的な医療・療育、福祉サービスを提供する県の施設。敷地面積は約74万平方メートル。2016年に完成した、重症心身障害児らが介護や医療を受けられる入所施設「こばと棟」と、リハビリセンター棟、今年3月完成の本館棟からなる。前身の県心身障害者コロニーは1968年に開設されたが老朽化が進んだため、再編、整備された。こばと棟を含め、病床数は267床。

 

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