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【元記者の心身カルテ6】思い出語り消えた不安

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 改元から四週間が過ぎた。私のクリニックに大正、昭和、平成、令和と四つの時代を生きてきた女性が通っている。今回はその九十五年の人生を振り返る。

 大正十三(一九二四)年、愛知県尾張地方で酒屋の長女として生まれた。幼少時にピアノを習い、大相撲の双葉山がひいき。尋常小五年の時、男性担任に憧れた。女学校を出て、昭和十九(四四)年から地元の小学校で教壇に立った。まもなく、生涯忘れられない体験をする。

 太平洋戦争。職場も空襲を受けた。「死にかけた人が次々と校舎に運ばれてね。何もしてやれんかった」。不思議と終戦の記憶はない。教師を辞めたくはなかったが、縁あって三十八歳で嫁いで退職。その後は平穏な人生を歩んだ。

 年を取っても食欲旺盛だったのに、家族や知人が相次いで鬼籍に入ると、入居先の老人ホームで不安が押し寄せた。内科を開業していたかつての教え子から「心の病気」を理由に当院を紹介された。

 二年前の初診時は、不安に満ちた顔つきだった。付き添い看護師とともに昔話を聴く。回想を続けるうちに表情は緩んでいった。いまや、物忘れはあるが口の達者なおばあちゃんだ。最近の悩みは「(食事時以外にも)おなかがすくこと」。令和時代への期待は「ないよ。成り行き。でも平和がいいね」と目を細めた。 (心療内科医 小出将則)

 

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