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医療

「がん哲学外来」が映画に 前を向かせる「言葉の力」

互いを受け止め 医療の隙間 埋める

 患者や家族らがともに語り合う「がん哲学外来メディカルカフェ」に迫ったドキュメンタリー映画「がんと生きる 言葉の処方箋」が、名古屋・名駅のシネマスコーレで上映中だ。映画の主役は全国各地でカフェの運営に携わる医師や患者五人。そのうちの一人は、「がんに悩む子どもの役に立ちたい」と名古屋市内で活動する男子高校生だ。それぞれの立場で対話することから生まれる生きる力とは−。 (編集委員・安藤明夫)

カフェで活動する中村航大さん(奥)が登場する映画の一場面((c)2018がん哲学外来映画製作委員会)

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 メディカルカフェの始まりは二〇〇八年、順天堂大名誉教授の樋野興夫(おきお)さん(65)が同大病院内に設けた「がん哲学外来」。患者一人一人の話をじっくり聞き、個性や症状に合った言葉を掛けることで、孤立を感じがちな心を癒やすのが目的だった。話したところで病が治るわけではない。だが、ひょうひょうとした雰囲気の樋野さんが発する言葉に、気持ちを整理し前向きになる患者たち。活動に共感した患者らによって広がった、お茶を飲みながらの対話の場は全国百五十カ所にもなる。

 通常、医師や看護師は、症状や治療の説明をするので精いっぱい。患者の精神的な苦しみを和らげることには手が回りにくいのが実情だ。樋野さんは映画の中で、カフェの意義を「医療の隙間を埋めること」と話す。「誰でもできるし、無料、副作用もゼロ」

 映画の製作は三年前にスタートした。樋野さんの講演を聴いた監督の野沢和之さん(64)が、「言葉の力」に興味を持ったのがきっかけだ。「なぜ彼らは、がんでも明るいのか」。その後、自らもステージ3の大腸がんを告知された。「製作当初は患者さんとどう接していいか分からなかったが、病気になったことで心を開いて話ができるようになった」と不思議な縁を語る。

ポスターの前で、映画について語る樋野興夫さん(左)と監督の野沢和之さん=東京都中央区で

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 映画に登場するのは樋野さんの他、福井県の病院で患者の相談に乗る外科医、乳がんを体験後にカフェをつくった長野県松本市のシングルマザー、希少な乳がんを患って仲間と苦しみを分かち合うことに使命感を感じるようになった千葉県の女性、そして、名古屋市内で「メディカルカフェどあらっこ」を開く高校二年生、中村航大さん(16)だ。

 中村さんは小学二年で脳腫瘍を発症し、中学二年の時に再発。左半身にまひが残る。別のカフェで樋野さんと出会ったのを機に一七年、「小児がんの子、がん闘病中の親を持つ子が集える場を」と、「どあらっこ」をつくった。

 映画では明るく仲間に声を掛ける中村さんが登場する。「マイナスとマイナスを掛ければプラス。闘病というマイナスを持った人たちが掛け合わさればプラスにできる」「悪い方へばかり考えるのでなく、他の人にはできない特別な経験をしていると思えば?」。経験に裏打ちされた言葉は力強い。集まった同世代の若者からは「来て良かった」と笑顔がこぼれた。

 映画を通じて伝わるのは、正直な思いを言葉にして吐き出すこと、受け止め合うことの大切さだ。

 ある場面では、四十代前半の息子のがんについて声を詰まらせながら話す女性が登場する。「息子は私の一部。いても立ってもいられず毎日拝んでいる。一日でも長く生きて」。思わず涙を流す参加者たち。苦しい胸の内を明かしたからこそ、周りの人も全力で受け止める。

 「使命感があれば寿命は延びる」「がんも病気も単なる個性」「過去を振り返っても明日のことを思い煩っても、人間にはコントロールできない。きょう一日に全力を尽くすしかない」…。映画には、患者の考え方を揺り動かす言葉がいくつも出てくる。

 この十一年間、樋野さんは各地のカフェの開設時に講演はするが、後の運営はそれぞれに任せてきた。映画まで作られたことに「自分の思いを超えて進んでいて、何かに突き動かされている感じ」と手応えを感じている。

 ◇ 

 「がんと生きる」の上映は、二十四日までの毎日午前十時四十分から一回。

 

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