トップ > 特集・連載 > 医療 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

医療

平成を語る がん医療 日本対がん協会会長 垣添忠生さん

「特殊な病気」でない

 一生の間に、日本人の2人に1人がかかるとされるがん。治療の進歩によって生存率は向上、平成はがんとともに生きる時代の始まりだった。専門の泌尿器科医の枠を超え、さまざまながんの治療や対策に関わってきた国立がん研究センター名誉総長で日本対がん協会会長の垣添忠生さん(77)に、平成のがん医療について振り返ってもらった。(聞き手・小中寿美)

写真

 医師になった約五十年前、がんと診断されてから五年後の生存率は40%以下でしたが、今は60%を超えています。半数以上が治るようになりました。長生きする人も増えています。

 強く訴えたいのは「『がん=死』ではなくなった」ということ。しかし、依然として、がんと診断された人は、不安や孤立感に苦しんでいるのが現状です。

 昭和まで、がん治療といえば手術で悪い部分を切り取るのが主流。体にかかる負担は大きく、生活にも影響が出ました。でも、平成に入り、手術の技術に加え、抗がん剤が目覚ましく進歩したことで、通院しながら治療が続けられるように。企業側が体力や痛みといった患者の状態を理解して環境を整えさえすれば働くことが可能です。

 一方で、がんと診断された人の三割が仕事を辞めているというデータがあります。がんであることを隠している人もいる。社会では、今も、がんを「特殊な病気」としてとらえる考え方が根強いからです。次の時代へ、そうした差別はなくしていかなければなりません。

 医師が病名を隠さずに伝えることも大事です。私は以前から積極的に告知していましたが、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)という考え方が広まったのは、昭和の終わりごろから。たとえ死が避けられない進行がんでも、残された人生をどう生きるのか、患者がより良い選択ができるよう、医師はちゃんと説明すべきです。

 もちろん、治すのが難しいがんもあります。二〇〇七年の大みそか、妻を小細胞肺がんで亡くしました。最善は尽くしたので、助からなかったのは医学の限界です。患者の遺伝子情報を調べることで、効果的な薬を選んだり、将来的ながん発症の可能性を調べたりするゲノム医療は今後、大きな役割を果たすだろうと期待しています。

 課題はいろいろあります。自宅での最期を実現する支援体制の地域格差、保険適用がなく金銭的に余裕がある人だけしか受けられない治療があるという経済格差…。大切な人を失った人の立ち直りをサポートするグリーフケアも広めないといけません。

 治療中を含め、がんを経験したがんサバイバーは全国に七百万人。大腸がんと腎臓がんにかかった私もサバイバーの一人です。彼らと手をつなぎ、がんが正しく理解されるよう、支援を続けたいです。

 かきぞえ・ただお 1941年、大阪市生まれ。東京大医学部を卒業後、都立豊島病院などを経て75年から国立がんセンター(現・国立がん研究センター)病院泌尿器科に勤務。2002〜07年に総長を務め、03年には天皇陛下の前立腺がん手術を取り仕切った。現在はがん研究振興財団(東京)の理事も務める。著書に「妻を看取る日」(新潮社)など。    

環境整い治療も進化

 昭和五十六(一九八一)年、がんが日本人の死因一位になって以降、対策を進めることが国にとって大きな課題に。節目となったのが、議員立法によって平成十八(二〇〇六)年に成立したがん対策基本法だ。特定の病気を対象にした法律は初めて。患者や家族の声が実現を後押しした。全国どこでも同じレベルの医療を受けられることを目指し、法に基づいた基本計画によって各都道府県に拠点病院が整備された。

手術支援のロボット「ダビンチ」での手術=平成24年、愛知県豊明市の藤田保健衛生大(現・藤田医科大)病院で

写真

 十年後の法改正では、企業の責務としてがんになっても働き続けられるよう配慮することを明記。がんの知識や患者への理解を深めるため、学校などでがん教育を進めることも加えられた。二十五年成立のがん登録推進法を基に、二十八年からは全国がん登録制度がスタート。患者一人一人がどんな治療を受けたか、結果はどうかを把握することで、効果的な予防や治療につながることが見込まれている。

 医療環境が整備される中、治療法も変化。従来の手術、抗がん剤、放射線の三本柱に加え、体に備わった免疫の力を利用する治療法も。効果はまだ限定的だが、昨年、ノーベル賞を受けた本庶佑・京都大特別教授らの発見を基に開発された薬「オプジーボ」が一例だ。手術も臓器を温存する方法が増加。内視鏡手術を支援する「ダビンチ」などロボットの活躍の場も広がっている。

    ◇

元(1989)年

  乳がんの乳房温存手術の開発

9(97)年

  医療法改正により医師の説明義務が明文化。患者への病名告知が次第に広がる

18(2006)年

  がん対策基本法が成立

24(12)年

  手術支援ロボット「ダビンチ」を使った手術が前立腺がんで保険適用

25(13)年

  がん登録推進法の成立

26(14)年

  新薬「オプジーボ」が販売開始

30(18)年

  がんゲノム医療中核拠点病院として国が11施設を指定

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索