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最善目指す「道しるべ」に  透析中止問題 学会提言の意義は

 作成リーダー役渡辺有三氏に聞く 

 公立福生病院(東京都福生市)で昨年八月、腎臓病の女性=当時(44)=が人工透析治療の中止という選択肢を示され、亡くなった問題。中止を決定したプロセスが、日本透析医学会が二〇一四年にまとめた提言に沿っていたかが焦点の一つになっている。しかし、提言はそもそも終末期の患者を想定しているといい、提言作成のリーダー役を務めた春日井市民病院(愛知県)の渡辺有三院長(68)は「提言を読み、内容をよく理解してほしい」と話している。 (小中寿美)

人工透析治療について話す春日井市民病院の渡辺有三院長=愛知県春日井市の同院で

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 −提言では、透析治療を中止、または始めないことを検討するのはどんな場合としているか。

 一つは、透析を安全に行うことが難しいとき。例えば、多臓器不全を起こしている患者に透析をすると血圧が下がり、かえって命の危険がある。患者が重度の認知症で自分で管を抜いてしまう場合も安全には実施できない。

 もう一つは、末期がんなどで死が確実に迫っているなど、透析をしても延命ができないほど患者の全身状態が悪い場合だ。

 提言では、こうした状態を挙げた上で▽患者や家族と十分に話し合う▽合意できなければ専門家らでつくる倫理委員会などの助言を受ける−といった決定への手順=表=を示した。一方で、全身状態の改善や患者、家族の考えの変化に応じて、透析を再開、あるいは開始することも明記した。

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 −作成の経緯は。

 透析患者の平均年齢は六十八歳と高齢化が進んでいる。腎機能の低下に加え、糖尿病や心血管疾患、がんなど合併症のある人も増えており、開始当初から寝たきりの人もいる。合併症の進行などによって、透析をやめざるを得ないケースは実際にあった。

 どういう場合に治療を中止、あるいは始めないかについて明確な基準がないため、現場の医師らは苦慮していた。提言の検討を始めた後も「議論は時期尚早」との意見があった。しかし、二〇一一年、学会の会場でアンケートをしたら、百六十三人のうち八割が指針を出すことを支持した。

 作成は〇九年から五年がかり。医師だけでなく、法律や生命倫理の専門家ら約二十人が携わった。提言はあくまでも学会の立場を表明したもの。医療現場の道しるべになるようにと、議論を重ねた。

 −提言で重視したことは。

 患者が納得して決められるよう治療について十分な情報を分かりやすく提供すること、患者の決定を尊重することだ。

 意思決定に関しては、どのような治療を望むか、判断能力がなくなった時に備え、「事前指示書」を作る権利について説明することも提案した。事前指示書は、私の病院でも、これまでに約二十五人が作成している。

 −今回の問題をどう考えるか。

 患者は四十代と若く、透析を続ければ長く生きられる。提言が想定している終末期のケースではない。提言の内容を拡大解釈して同様の問題が起きないか心配だ。

 一方で、今回の問題を機に、透析の見合わせを検討すること自体に批判が集まるのではないかという点も懸念している。穏やかな死を迎えるには、治療を中止、あるいは始めないことが最善の医療になることもある。今後、ますます議論を深める必要があるだろう。

終末期 治療見合わせも

 学会が提言を出した後、医療現場では終末期の患者の透析を見合わせるケースが出てきている。一方、終末期ではなく、改善が見込める患者が治療を拒む場合には、何が理由なのかを把握し、治療を受けられるよう支援すべきだと専門医は指摘する。

血液を機械(右端)でろ過し、老廃物や水分を取り除く=名古屋市昭和区のかわな病院で

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 名古屋市昭和区のかわな病院は二〇一七年の夏、約十年間にわたって血液透析をしてきた九十五歳の女性患者の透析を中止した。女性は約二十日後、慢性腎不全のため、自宅で亡くなった。

 同院によると、女性は腎不全のほか認知症も患い、系列の老人保健施設に入所。週三回、同院で透析を受けていた。だが、老衰で血圧が下がり、主治医の石田治院長(57)は「透析を続けることは危険」と判断。院長や診療部長ら多くの職種の人たちで検討した上で、家族に提案した。

 事前指示書などはなかったが、本人はしばしば自宅に帰りたがっていた。家族も以前から在宅でのみとりを希望。本人には判断能力がなかったため、家族の同意で中止を決めた。

 退院前に看護師らが自宅を訪れ、介護方法などを指導。自宅に戻った後は訪問診療と訪問看護を行い、痛みが出たときには医療用麻薬を処方して苦痛を和らげた。最後は子どもや孫らに見守られ、穏やかに息を引き取ったという。

 石田院長は「提言があったからこそ本人や家族の意向を尊重し、順序を踏んで中止できた」と話す。

 徳島市の川島病院の岡田一義医師らが二〇一六年に全国の透析施設に行ったアンケートでは、回答した五百十施設の約47%が血液透析の開始や継続を「見合わせた経験がある」と回答。その九割が高齢者だった。

 一方、終末期ではない患者が透析などを拒むケースについて増子記念病院(名古屋市中村区)の両角国男理事長(70)は「拒む理由を確認し、それを解決する支援が必要」と話す。同病院では、透析などの治療法を決める際、可能な患者は一週間入院してもらう。その間にさまざまな専門職が治療法を説明、患者の意向を丁寧に聞き取るという。両角理事長は「より良く生きるためのお手伝いをするのが医療者の使命」と話す。 (山本真嗣)

人工透析とは・・・腎臓に代わり血液浄化

 腎臓は血液をろ過して尿を作り、老廃物や余分な水分を体外に排出している。尿の異常や腎機能の低下が三カ月以上続く状態を「慢性腎臓病(CKD)」という。

 CKDの主な原因は、糖尿病や高血圧、動脈硬化などの生活習慣病。腎機能の低下は尿を作るネフロンが破壊されることで起きる。末期腎不全になると、回復は見込めず、命にかかわる重篤な症状を引き起こす。

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 腎臓に代わって人工的に血液を浄化するのが透析治療。透析患者は増え続け、二〇一七年末で約三十三万人。大半の患者が受ける「血液透析」=図=は、腕の血管から血液を採り、機械で尿毒素を除去した後、体内に戻す。一般的に週三回で、一回当たり三〜五時間がかかる。

 おなかに管で専用の液体を入れ、老廃物や水分と一緒に体外に出す「腹膜透析」もあるが、利用者は約九千人。親族や亡くなった人から提供された腎臓の移植は年間千七百件程度にとどまる。

 透析をやめると、一〜二週間で体中に水がたまって心不全になるか、尿毒素がたまって意識障害が起き、死亡する。血液透析には月四十万円前後かかるが、患者の負担を軽くするための制度が整備されている。

 

 【お断り】「医人伝」「ホンネ外来」は休みました。

 

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