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笑顔届ける「ちょんまげ院長」  福島・いわき 新村浩明さん 高齢患者らを仮装訪問

 あるときは黄門さま、またあるときは銭形平次…。福島県いわき市のときわ会常磐(じょうばん)病院院長、新村(しんむら)浩明さん(51)は毎月一回、患者宅や介護施設への仮装訪問を続けている。人呼んで「ちょんまげ院長」。八年前の東日本大震災で四百六十七人の犠牲者が出た同市。その後も東京電力福島第一原発事故の影響で人の移動が激しい。変化にさらされ、ふさぎがちな高齢者を仮装で元気づけたいと願う。 (編集委員・安藤明夫)

弾む話「元気づけたい」

黄門さまのいでたちで、入院患者と談笑する新村浩明さん(中)=福島県いわき市のときわ会常磐病院で

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 前立腺の病気で入院している初老の患者は、もう笑いが止まらない。「病棟の談話室で『水戸黄門』の再放送を見てたら、いきなり院長が、この格好で入ってくるんだもんなー」

 着物からかつら、つえ、ひげ、つけまつげまで全て貸衣装であつらえた新村黄門さま。二月のこの日は、朝から老人保健施設や在宅サービスの患者宅などを回り、最後が院長を務める病院だった。傍らには看護師ら職員がふんする町人や町娘が控え、何とも華やか。「歌ったり、踊ったりといったことは何もできないのに、この姿で行くだけで、みんなが笑顔になって話が弾む。それが楽しくて」

 きっかけは震災から三年後、二〇一四年のクリスマス翌日だ。院内の催しで使ったサンタクロースの衣装を「ちょっとしたふざけ心」で身に着けて訪問診療に出掛けたところ、大好評。「今度は大黒様の格好で来てほしい」などの声が殺到した。翌年春からは診療とは関係なく、仮装をして患者を訪ねるようになった。

 院長の職と合わせ、普段は同病院の看板、泌尿器科のリーダーだ。震災時、病院はグループ内のクリニックも含め、県内最多の人工透析患者六百三十七人を抱えていた。断水やガソリン不足で設備が使えなくなったため、計四百五十人の患者を、東京、千葉、新潟などの施設に受け入れてもらうために走り回った。

 患者の移動が終わったのは一カ月後。混乱は収まりつつあったが、原発周辺の自治体から多くの被災者が流入する一方、被ばくを警戒する若い子育て世帯が県外に避難するなど地域の様子は変わり始めていた。その後も避難してきた人たちがなかなか溶け込めなかったり、「原発の補償金で遊んでいる」と白い目で見られたりと、地域が分断されている状態に胸が痛んだ。

 昔ながらのきずなが失われる中、心配だったのが高齢者の存在だ。増える独り暮らしに老老介護…。仮装は、高齢者のしゃべり相手になり、笑顔になってもらうための作戦だ。もともと患者とは何でも話す方だったが仮装の力も大きい。お年寄りの口からは好きなテレビ番組から食べ物までさまざまな話題が飛び出す。

 西洋の道化師の格好をした人が子どもの患者に笑いを届けるホスピタルクラウンは、日本でも広まりつつある。しかし、高齢者にとっては、ちょんまげの方がなじみ深い。東京大大学院の医師、金本義明さん(34)と常磐病院非常勤医、谷本哲也さん(46)は二月、「ちょんまげ、侍の仮装は高齢者のホスピタルクラウンだ」という英語の論文を、英国のオックスフォード大出版の雑誌電子版に発表した。

 新村さんは今後も、仮装姿で仮設住宅などさまざまな場所へ足を運ぶ予定だ。新村さんの活動に力を得た職員たちも、被災で市内へ避難してきた住民たちの家々を細かく訪ねる計画を立てている。病院を挙げて、地域が再び強く結びつくことを目指す。

 

 

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