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医療

 関心高まる骨髄ドナー 適合しても実現6割

池江選手白血病公表

“高齢化”深刻若者の獲得急務

 競泳女子の池江璃花子選手の白血病公表後、関心が高まっている骨髄移植のドナー(提供者)登録。ただ、実際に白血球の型が適合して骨髄提供する際には、家族の同意や数日の入院が必要となるなどの制約もあり、ドナーの健康上の理由や仕事などで骨髄採取できないケースも多く、移植が実現するのは6割程度。ドナーになれるのは55歳までのため、若い世代を増やすことも急務で、関係者は「一人でも多く」と登録を募る。

 (安藤明夫、小中寿美、山本真嗣)

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 名古屋市の大須商店街にある献血ルームで十六日、日本骨髄バンク(東京)の説明員で、認定NPO法人「あいち骨髄バンクを支援する会」事務局長の水谷久美さん(60)がドナー登録を呼び掛け、手順や注意事項を説明。同意した人が採血室に向かった。名古屋市中区の会社員竹田真紀子さん(29)は「池江さんのことはすごく驚いた。自分もいつ、その身になるか分からない。困っている人のために役立てれば」と話した。

 同ルームによると、通常は一カ月に数人だが、池江さんの公表後十六日までに計二十三人が登録した。

 同バンクによると、登録できるのは、十八〜五十四歳の健康な人(提供できるのは二十〜五十五歳)で、体重制限(男性四五キロ以上、女性四〇キロ以上)もある。献血ルームや保健所などで受け付け、腕から約二ミリリットルを採血。後日、型が患者と適合すると、候補者に選ばれる。

 採取までに健康の確認検査などで計四回医療機関に行き、家族同席で最終同意書に署名した後は、患者が移植の治療に入るために撤回できない。骨髄は全身麻酔で、腰の骨に針を刺して採取する。交通費や入院費は骨髄バンクが負担する。

 採取部位の痛みや発熱、まれにしびれなどの合併症が出ることがあり、最高一億円の補償制度がある。移植の始まった一九九三年から二〇一七年三月まで実施された二万二百六十六件のうち、入通院して保険金が支払われたケースは百七十一件(0・8%)。いずれも、治療で回復している。死亡事例はない。

 移植を待つ患者は昨年末現在、二千九百三十人。ドナー登録者は約四十九万人で、適合率は95%までになった。ただ、実際に骨髄採取し、患者が移植を受けられたのは57%。大半がドナー側の事情で、健康上の理由のほか、仕事や育児などで忙しく、「都合がつかない」と辞退したり、連絡が取れなかったりするドナーも少なくない。

 登録者の半数が“定年”に近い四十〜五十代で、健康上の問題が少ない若い世代を増やすことが急務となっている。

 登録を進めるため、名古屋市は一七年からドナーに一日二万円、勤務先に一日一万円を助成するなど全国の四百以上の自治体で支援策がある。特別休暇として認める企業も三百社以上に上る。

 同バンクの担当者は「提供までの流れをよく理解した上で、登録してほしい」と話す。

提供者の田中さん 命の重み知り達成感

 東京都の田中紀子さん(54)=写真=は七年前、ドナーとして骨髄を提供した。

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 ドナー登録したのは一九九五年。女優の夏目雅子さんが八五年に白血病で亡くなり、同病に関心を持った。登録を忘れかけていた二〇一二年夏。日本骨髄バンクから封書で、白血球の型が一致する患者が見つかったと連絡を受けた。

 バンクの移植コーディネーターと面会し、同年十一月に採取する予定を立てた。家族同席で弁護士から全身麻酔による事故の確率や採取後の痛みなどについて詳しく説明され、同意書に署名。「もうキャンセルできない」と念を押された。

 ところが、入院前日に、療養中の義父が死去。葬儀の準備で慌ただしい中、小学五年の長男が泣きじゃくる姿に「こんな時に一緒にいてあげられないなんて」と胸を痛めた。だが、義理の母や姉が「生きている人を助けることを優先して」と背中を押してくれた。

 入院翌日に採取。マスクを着けられ、再び名前を呼ばれたときには終わっていた。採取した腰の部分は内出血で変色し、強く痛んだが、一週間で治まった。

 体験を通じ、命の重みを知り、大きな達成感を得た。知らないだれかを救うために仕事を調整し、家族を説得し、義父の葬式に出ないことを決めた。「困難に挑戦する自分を好きになれた。骨髄バンクってドナーのためにあるとさえ思えた」

 提供相手は「九州在住の男性」とだけ知らされた。バンクを通じ、家族から感謝の手紙が届いたが「気にしないで生きてほしい」と返事は書かなかった。

 若い時期にギャンブル依存の問題を抱えていた田中さんは一四年に「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京)を設立。代表として患者や家族の支援に飛び回る。その原点は「ドナー体験での達成感」という。

 九月でドナーの年齢上限を迎える。「夫や子どもがもし、『ドナーになる』と言ったら動揺すると思う。でも、反対はしない。自分はドナーをさせてもらい、本当に感謝しているから」

 

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