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医人伝

鶴舞こころのクリニック(名古屋市中区) 院長・精神科医 渡辺貴博さん(44)

路上生活患者ら支える

ホームレスらを訪問し診察する渡辺貴博さん

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 ホームレスや元受刑者ら社会から排除されがちな患者のもとを訪れて診察をしている。精神疾患がありながら、病院に来ない人が多いためだ。背景には医師への不信感がある。言葉の荒さや暴力的な振る舞いから、鍵のかかった病室に隔離された経験を持つ人が少なくない。「孤立させないことが大事」と話す。

 岐阜県川辺町出身。二〇〇一年に岐阜大医学部を卒業した。当時はバブル崩壊以来続く就職氷河期。非正規雇用者の増加に伴い、自殺者の数は年三万人のピークを迎えていた。「今後は格差が広がり、精神疾患の患者が増える」と考えたことが精神科医を志すきっかけになった。

 岐阜や埼玉などの病院で研修後、奈良の精神科に勤務した。そこで出会った八十代の女性が忘れられない。女性は自分自身や他人を傷つける強度行動障害で、十代からずっと、隔離された状態で入院していた。亡くなった後、遺骨を引き取りに来る人もいなかった。「社会に居場所のない人に寄り添いたいと、強く思うようになった」

 十年前、生活困窮者向けに無料・低額診療を行う岐阜市の「みどり病院」に移り、精神科外来「すこやか診療所」をスタートさせた。同じ時期、路上生活者らを支援する名古屋市のNPO法人「ささしまサポートセンター」を拠点に、医療相談のボランティアも始めた。「障害や病気に気付かないまま、人間関係を壊して職を失い、生活が破綻した人が多い」と話す。一四年、有志の医師や精神保健福祉士らとともに、同市内のホームレス百十四人に行った健康診断。六割の人がうつ病やアルコール依存症などの精神疾患、または知的障害であると分かった。

 今年六月からは同市中区の「鶴舞こころのクリニック」で院長として働く傍ら、昼休みを使って週三回、約三時間をかけて簡易宿泊施設など五カ所ほどを回る。週二回はすこやか診療所での診療もこなす。

 「患者のため」とフル回転だが、残念ながら中には自ら命を絶つ人もいる。昨年、二十代の若さで死を選んだ女性は、幼いころに親から受けた虐待による心の傷が深かった。貧困や虐待、不景気にリストラ…。自分では何ともできない家庭環境や社会のひずみが患者を追いつめている。「生きていい、と誰もが安心できる社会を作っていかなければと思う」(細川暁子)

 

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