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医人伝

尾鷲総合病院(三重県尾鷲市)がん看護専門看護師 井上智恵さん(41) 「その人らしく」を支える

 「目の前の患者さんはどう生きたいのか。最期の瞬間まで希望を尊重したい」。がんに苦しむ患者に寄り添う看護を貫く。

治療を巡り、看護師らと話し合う井上さん

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 病状を説明した時の様子や病気の進行度などをもとに週に一回、患者や家族と面談する。ひどく落ち込んでいたり、反対に妙に元気だったり。しっかり話し合った方がいいと感じた人に声を掛け、本音に耳を傾ける。

 患者の年齢は五十〜九十代、病気も大腸がんや肺がん、乳がんなど多岐にわたる。「治療の効果がない」とやるせなさをぶつけてくる患者、大事な人を亡くす切なさを訴える家族…。一人当たり約一時間をかける。

 大分市生まれ。小学生のころから「自分は何のために生まれてきたのだろう」と考える「変わった子」だったという。終末期医療に興味を持ち、看護師の道へ。結婚を機に三重県尾鷲市に移住し、二〇〇八年から尾鷲総合病院に勤務する。

 体のつらさに加え、精神的にもストレスにさらされるがん患者と接する中で、がん看護の専門知識を身に付けたいという思いが芽生えた。一一年にいったん退職し、三重大大学院医学系研究科のがん看護学コースに入学。一三年に修了後、同病院に再就職して実務経験を積み、一五年に日本看護協会が認定する専門看護師の資格を取った。

 患者と接する際、肝に命じているのは「自分の価値観や意見を押しつけないこと」。例えばトイレでの排せつが困難になった患者に、おむつをすすめるのは簡単だ。でも拒まれた場合、「なぜおむつが嫌なのか、なぜトイレにこだわるのかを理解しようとすれば、患者をより深く支えられる」と力を込める。

 対話を重ねることで見えてくる一人一人の歴史。「どの人にもドラマがあり、人生に触れさせてもらえることに感謝している」と話す。面談では一緒に泣くこともあるという。でも、悲しみを引きずることはない。そこには「自分ができる、精いっぱいのことを常にやっている」という自負がある。目指すのは「一人の人間として、患者がいつでも相談できる看護師」だ。看護師や医師らスタッフ全員で患者の思いを共有することを心掛け、自ら橋渡し役を担う。

 自分が生まれてきた意味は何か−。幼いころの疑問に、今はこう答える。「患者がその人らしく生き、そして死ぬことができるよう支えることが、私の使命です」 (木村汐里)

 

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