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特集 防ごう!子宮頸がん

 子宮頸がんをなくすために(下) 「予防」と「副反応」の間で

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科学的根拠 基に議論を

 「毎年約三千人が子宮頸(けい)がんで亡くなっている。十年で三万人。すごい数の命ですよね」。四月下旬、神戸大の研究室。ワクチンに関する著作がある感染症医の岩田健太郎教授は、猛烈に怒っていた。「不作為による被害は大きいですよ」

 不作為とは積極的な行動を取らないこと。岩田教授が「不作為」と非難するのは、子宮頸がんの原因、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンを巡る国の対応だ。がんの予防効果があるとして公費で助成する定期接種とする一方、積極的に接種を呼び掛ける勧奨は控える−。こうした分かりにくさが、接種率を1%未満にまで落ち込ませたと訴える。

「HPVワクチン関連疼痛性障害」と書かれた診断書=横浜市内で(一部画像処理)

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 二〇一三年四月に定期接種化されたHPVワクチンは、二カ月余りで勧奨が中止された。背景にはマスコミの報道やインターネット情報などを基に高まったワクチンへの不信感がある。

 当時、盛んに報じられたのは、接種後の体調不良、いわゆる副反応に苦しむ女性たちの声だ。全身の痛みや脱力感などの神経症状を訴えて国などに損害賠償を求める裁判の原告は、全国で百三十人を超える。しかし、岩田教授は感染症の専門医として「予防のためには、HPVワクチンを打つべきだ」と断言する。

 根拠とするデータの一つが、一五年に名古屋市が、非接種者を含む市内の女性七万人に行った調査「名古屋スタディ」だ。「体がだるい」「目まいがする」などHPVワクチンの接種後に出るとされる二十四の症状の有無や発症時期などを尋ね、回答を寄せた約三万人分を統計学的に解析した。その結果、ワクチンを打った人にも、打っていない人にも、同じ程度の頻度で症状が現れていた。疫学が専門で、調査を担当した名古屋市立大の鈴木貞夫教授は昨年二月、データを基に論文を発表。「HPVワクチンの接種と副反応が疑われる症状の発症に因果関係はない」と結論付け、専門誌に採択された。

 積極的なHPVワクチン接種を進めるオーストラリアでは、原因となるウイルスの感染率が激減した。ワクチンを導入した先進十四カ国では、二十〜二十四歳の女性の子宮頸部の病変が31%減少したとする論文も、今年発表された。鈴木教授は「ワクチンを打たないことで不利益を被るのは女性たち」と語気を強める。

 とはいえ、つらさを訴える人がいることを忘れてはならない。横浜市に住む大学二年の女性(19)は体調不良を経験した一人。中学一年で三回、ワクチンを打った。両手の指、両膝の関節が痛み始めたのは中学三年の秋だ。「朝が一番痛くて、倦怠(けんたい)感もあった」ため、学校も休みがちになった。

 「HPVワクチン関連疼痛(とうつう)性障害」。接種後の症状に関する協力医療機関にもなっている神奈川県内の病院で、そう診断された。しかし、処方された痛み止めを飲んでも良くならない。食事に気を使うなどして体調が戻ったのは二年後だ。今は学校に、アルバイトにと飛び回るが、苦しんだ時間を思うと、ワクチンを打ったことには後悔もある。「がんの予防に有効であれば、打つべきだとは思うんですけど」とつぶやく。

 勧奨中止から六年。HPVワクチンの接種と、副反応とされる症状の因果関係は、いまだに解明されていない。リスクが強調されるあまり、ワクチンの効果に関する情報は伝わりにくくなっているのが現状だ。

 接種の対象となる若い世代の健康を守るには、何が必要か。何らかの症状が現れた人を丁寧に診ることはもちろんだ。一方で、科学的な根拠に基づき、接種の在り方を冷静に議論すべき時が来ている。 (森若奈)

 

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