トップ > 特集・連載 > 医療 > 特集 防ごう!子宮頸がん > 記事

ここから本文

特集 防ごう!子宮頸がん

子宮頸がんをなくすために(中)接種・検診 進まぬ歯がゆさ

写真

 名古屋市中村区のライブバー。開店前、経営者の吉川泰永さん(57)が奏でるサックスの音が静かに響く。昨年大ヒットした米津玄師(よねづけんし)の「Lemon」。長女からリクエストされた曲だ。サックスを始めて、まだ数年。吹けるまで懸命に練習した。

 しかし、娘はもういない。七月、子宮頸(けい)がんで亡くなった。三十歳だった。

長女をしのんで米津玄師の「Lemon」をサックスで奏でる吉川泰永さん=名古屋市中村区で

写真

 二〇一七年の暮れ、お尻に痛みを感じたのが最初だったという。年が明けた昨年一月、一人暮らしの自宅から救急搬送された時にはリンパ節に転移していた。抗がん剤と放射線の治療を受けたが、わずか一カ月で再発。子宮の一部を摘出し、人工肛門になった。それでも、がん細胞は取り切れなかった。好きだった「Lemon」をせがんだのは、そんなころだ。

 長女は三人きょうだいの末っ子。彼女がまだ幼いころに吉川さんは離婚、子どもたちと離れた。やりとりを再開したのは四年前だ。フェイスブックで吉川さんを見つけた長女が突然、「パパ?」と連絡してきた。

 助けたい一心で、治療費を賄った。「パパ、ありがとう」の言葉がうれしかった。体調は急激に悪化。脚がしびれ、寝たきりになった。最期の日々をともに暮らした兄(31)は「会話もだんだん難しくなって。意識がもうろうとする中で『痛い、痛い』と繰り返していた」と振り返る。

AYA世代に目立つ発症

 子宮頸がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染経路は性交渉だ。性交渉の低年齢化に伴い、近年は若者の発症が目立つ。AYA世代と呼ばれる十五〜三十九歳について、国立がん研究センターなどが十月に公表した調査結果によると、一六、一七年にがんと診断された人は五万七千七百八十八人。年齢が上がるにつれて女性の割合が高まり、二十歳以上では80%にも。背景には、子宮頸がんが急増することがある。AYA世代の女性に占める子宮頸がんの割合は約四割だ。

 子宮頸がんは早期に見つければ治癒率が高く、子宮も温存できる。半面、進行すると妊娠、出産に影響するだけでなく、命の危険も高まる。医師らの間では、ワクチンによる感染の予防と検診による早期発見の二つが対策の両輪とされる。

写真

 しかし、日本ではどちらも低調だ。六年前、長引く痛みなどワクチン接種後の副反応を訴える声が相次いだことを受け、国が小学六年〜高校一年相当の対象者に対する積極的な呼び掛けをやめて以降、接種率は1%未満に。一六年の厚生労働省の国民生活基礎調査では検診の受診率も42・4%と、英米の半分ほどだ。

 名古屋市立大病院産科婦人科の西川隆太郎医師(41)は「不正出血など異常に気付いた時にはがんが進んでいて、子宮を全摘せざるを得ない例が多い」と指摘。摘出しても、再発すれば効果的な治療法は乏しい。それだけに「がんの前段階の状態を発見できる検診は重要」と話す。これまで子宮頸がんの手術を数多く手掛けたが、悪性度が高く救えなかった命もある。ワクチンの有効性は国も認めている。「多くの人が接種をしない状況が続くことは、医師として歯がゆい」と話す。

 がんによって、吉川さんと娘の縁は再び絶たれた。店には女性の客も多い。時折、雑談の中で娘に触れ、検診を呼び掛ける。ワクチンの存在、接種後の副反応について知ったのは、娘が病気になってから。正直、科学的なことは、よく分からない。ただ「検診でも、ワクチンでも、がんの苦しみを防げるのなら」と思う。「病気のつらさ、別れのつらさは誰にも味わわせたくない」 (編集委員・安藤明夫)

 =次回は十九日

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索