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特集 防ごう!子宮頸がん

子宮頸がんをなくすために(上) 接種の判断悩む保護者

不安あおる国の“沈黙”

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 三重県いなべ市のいなべ総合病院。子宮頸(けい)がんワクチン(HPVワクチン)接種のため、中学三年の女子生徒(15)が母親に付き添われてやってきた。六月下旬のこの日は、三カ月前に続き二度目の接種だ。

 希望者に対し、年に数回HPVワクチンを接種するという産婦人科の川村真奈美医師は「痛さはインフルエンザの予防接種とそんなに変わらないでしょう?」と笑顔で声を掛ける。「できるだけ怖がらせないよう心掛けている」という。

子宮頸がんワクチンを受ける女子生徒=三重県いなべ市のいなべ総合病院で

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 日本ではインフルエンザをはじめ、ほとんどの予防接種が皮膚と筋肉の間に薬液を入れる皮下注射だ。しかし、HPVワクチンは筋肉に注射するため、独特の痛みを感じる女性が少なくない。厚生労働省のリーフレットでも、接種後に「疼痛(とうつう)」の副反応が生じる確率は50%以上と説明する。

 生徒の腕に看護師が慣れた手つきで針を刺す。薬液が入りきるまで約五秒。気分が悪くなるといった万が一の事態に備え、生徒は三十分ほど院内で過ごし、帰路に就いた。最後となる三度目は、十二月に予定する。

 子宮頸がんの原因となるウイルスの感染を防ぐHPVワクチンが、無料で受けられる定期接種になったのは二〇一三年四月。だが、接種後に強い痛みが続くといった副反応を訴える声が相次ぎ、国は同年六月、対象者に接種を促す「積極的な接種勧奨」を中止した。約七割だった接種率は1%未満に。接種についてどう考えるか、国が八月に公表した十二〜六十九歳の男女が対象の調査では「決めかねている」「わからない」との回答が六割近くを占めた。

 普段は医療機関に勤める生徒の母親も、打たせるかどうかを悩んだ一人だ。医療者としては「ワクチンにはがんを防ぐ効果がある」こと、一方で「どんなワクチンにも副反応がある」ことを理解している。だが、母親としては心が乱れた。

 決断のきっかけは、自身のがんだ。一年半前、初期の肺がんが見つかり手術をした。完治はしたが、仕事に家事、子育てをしながらの闘病は大変だった。「こんな思いはさせたくない。防げるがんがあるなら防ぎたい」と強く感じた。知り合いの小児科医が「打つメリットの方が大きい。自分の娘には打たせる」と言い切ったことも後押しした。

 日本はしばしば「ワクチン後進国」と評される。欧米の先進国で接種されているワクチンの導入に時間がかかるためだ。背景には一九九二年、種痘やポリオなどの予防接種後の副反応を巡る集団訴訟で、国が敗訴したことがある。以降、国は接種に慎重になった。HPVワクチンについても、国に損害賠償を求める裁判が各地で起こされている。

 国はHPVワクチンの積極的な勧奨をやめた半面、有効性は認めて定期接種に残している。厚労省によると、対象者に個別に案内を出しているのは全国でわずか九十七自治体。こうした矛盾した状態に、保護者は揺れている。

 三重県四日市市の主婦は今年、中学生の娘に案内が来ないため、直接、市に問い合わせた。担当者の答えは「国が積極的に勧めていないので」。結局、かかりつけ医の勧めで接種を決めた。「国が勧めていない、と聞けば恐怖を感じて接種をあきらめる人も多い」

 誰の、どんな情報を信じたらいいのか。ワクチンの効果と副反応をてんびんにかける作業を保護者が担い続けるとすれば、負担はあまりに重い。 (森若奈)

     ◇

 国がHPVワクチンの積極的な接種勧奨をやめて六年。接種対象者やその保護者の中にはワクチンの存在すら知らない人も現れている。年間二千七百人が子宮頸がんで亡くなる日本で、このワクチンとどう向き合えばいいのかを考える。 =次回は十二日

【子宮頸がんワクチン】性交渉によるヒトパピローマウイルスの感染を防ぐワクチン。小学6年〜高校1年相当の女子は公費負担で3回の接種が受けられる。予防接種プログラムに導入しているのは今年2月時点で92カ国。厚労省によると、接種で10万人当たり595〜859人の子宮頸がん罹患(りかん)を回避できる。一方、2017年8月末までに報告された副反応の疑いは10万人当たり92.1人で、うち52.5人が重篤と判断されたとしている。

 

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