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安倍政権はなぜ続く? 豊田洋一・論説委員が聞く

 第一次内閣を含めた安倍晋三首相の通算在職期間が来月、桂太郎首相を超え、歴代内閣で一位となります。二〇一二年に発足した第二次内閣以降、「安倍一強」と呼ばれる「数の力」を背景とした強引な政権、国会運営には厳しい批判はありますが、なぜ安倍政権はこれほど長く続いたのか。神戸大教授の砂原庸介さんと考えます。

 <首相の通算在職日数> 歴代最長は明治・大正期の桂太郎首相で2886日。現職の安倍晋三首相は今年8月、第1次内閣との通算で、大叔父である佐藤栄作首相の2798日を超えて歴代2位に。このまま政権を維持し続けた場合、11月19日に桂首相と並び、翌20日には史上最長となる。連続在職日数の最長は佐藤首相の2798日。歴代最短は終戦直後に就任した東久邇宮稔彦首相の54日。

◆野党弱く圧力かからず 神戸大教授・砂原庸介さん

砂原庸介さん

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 豊田 小泉純一郎首相が退陣した二〇〇六年以降、第一次内閣当時の安倍首相を含めて在職一年程度で首相が交代する短期政権が続いていました。その中で連続七年近い、第一次を含めれば八年近くに及ぶ長期政権は異例です。なぜこれほど長く政権が続いたのでしょう。

 砂原 交代圧力の不在が大きな理由です。オルタナティブ(代替勢力)であるべき野党が非常に弱いので、政権交代のプレッシャー(圧力)がほとんどかからない。その結果、政権交代がないだけでなく、独善的と批判される政権運営でさえ可能になっています。

 豊田 野党が弱くなり、政権交代の現実味が欠けていることに加えて、派閥の衰退で自民党内の圧力がなくなったことも長期政権につながっています。まず野党の政権交代圧力がなくなった原因をどう考えますか。

 砂原 一義的には民主党政権の失敗、と言っても、実は何を失敗と言うのかは難しいのですが、うまくいかなかった記憶が強い。あの人たちに任せていいのかと思う有権者は多いと思いますし、政治家側も、かつてと同じような形で結集しても支持が集まるのか、という感覚がある。加えて、野党の足並みがそろわない原因の一つは、安全保障政策で合意がないことです。自民党はそこを攻撃するので、野党は分裂的になります。

 豊田 一方で、自民党内の圧力がなくなった背景には政党・政策本位の政治を目指した平成の選挙制度改革があります。派閥がかつての権勢を失ったのは改革の狙い通りですが、人材育成機能までなくしてしまった。後継者が育たない、競争原理が働かない現状もあります。

 砂原 中選挙区制当時、政権交代は基本的に起きないと考えられていたから、自民党内で「今の首相は全然だめだ」と言えました。今、それを言うと、ひょっとしたら政権交代が起きるかもしれないと、皆が理解しています。だから、自民党内で野党的なことを言う人がいなくなって、今の枠組みで昇進するための競争をしています。自民党総裁選は最終的には国会議員が決める規程ですから、議員の中で受ける人たちが再生産されていくわけです。

 豊田 平成の政治改革はリクルート、東京佐川急便事件を機に自民党の派閥をなくし、野党を政権交代可能な勢力にすることが狙いでした。派閥の力をそぐことはできましたが、野党の力までそいでしまった。なぜ目指していたものと違ったのか。

 砂原 単純に野党のことを考えていなかったからです。政治改革には二つの要請がありました。一つは二つのブロックに分けること、もう一つはリーダーが求心力を強めることです。自民党は人事や選挙での公認などを通じてリーダーの求心力を高めてきましたが、野党側のためにそうした改革をしてこなかった。野党は求心力を高めることができず、都市部を中心に同じような支持層を奪い合う、極めて過当な競争を続けています。

 豊田 長期政権になったのはそうした制度的な変化が要因なのか、安倍首相の属人的な問題なのか、どちらでしょう。

 砂原 基本的には制度の問題ですが、安倍首相が第一次内閣の教訓を生かして、野党を見ながら自分のポジションを決め、それに成功している面はありますから、制度だけでは説明できない部分はあります。

 豊田 長期政権のメリット、デメリットを伺います。海外で規格外の指導者が誕生する中、外交では安定した政権の方が有利という面はあります。

 砂原 ある意味、安倍首相がリベラル(自由主義)世界のリーダーのようになっているのは仕方がない。野党支持者には不満でしょうが、そこは受け入れて、安倍首相を利用することを考えた方がいい。リベラルなリーダーならこれくらいはするでしょうと、圧力をかけるとか。安倍首相はリベラルじゃない、と言っても仕方がありません。

 豊田 現状を受け入れた上でコントロールした方がいいと。

 砂原 そう思います。「集団的自衛権の行使」の問題も同様で、憲法を変えたくない気持ちは理解できるし、私も九条を変更することが他国との関係に影響があるか懸念します。ただ政権側の憲法解釈に強く反対するあまり、状況に関与できなくなるのはよくありません。

 豊田 平成の政治改革により当初の目的としていた政権交代は二度ありましたが、野党の弱体化や首相官邸への過度の権力集中というデメリットも顕在化しました。国民にとって望ましい政治を実現するためには、どんな選挙制度とすべきですか。

 砂原 一般論としては比例代表制がいいと思います。個人的には衆院をすべて比例にして、参院を廃止してもいいと思いますが現実には難しい。特に衆院の選挙制度は変えにくいので、変えるのなら参院と地方です。その際、女性の代表を増やすなど多様性を拡大するには、明らかに比例代表制が望ましい。

 豊田 個人的には比例代表制の方がいいと思いますが、政党の統治機能を強めることが前提です。比例代表選出議員が離党したら、議員を辞めるくらいでないと政党本位にはならない。

 砂原 その通りです。地方でも、選ばれた議員は全住民への責任を負わされていますが、選んだ人たちから見ると、自分たち特定地域の代表にすぎなかったりする。そして、その代わりがいないわけですよ。だから、妊娠などによる議員の休職を支持者の側が認めない。(採決での)代理投票など比例の方が融通は利く。責任だけ異常に重く、入れ替えできないのは、個人への投票だから当然です。そのことが相当程度、足を引っ張っていると理解しています。

 豊田 民主主義にお金がかかるのは分かりますが、政党交付金制度ができて、各政党は政府からお金をもらうのが当然になってしまった。まるで国営政党です。それが政治の劣化につながっているのではないですか。

 砂原 私自身は劣化だとは思いませんし、政党に資金面で責任を負わせると、また野党への負担になる。政治に劣化があるとすれば、選挙制度とは関係なく、どういう人が政界に入ってくるのかです。以前、政治家の仕事には見返りが多いと思われていましたが、政治改革でほとんど切ってしまった。だから、良くも悪くも自分の能力を生かして、ひと山当てようという人が政界に来なくなってしまった。ちゃんとした人に議員になってほしいと思ったら、報酬は上げてもいいと思います。首長の中には身を切るといって報酬を下げる人がいますが、対抗馬をつぶすダンピングという側面も無視できません。

 <すなはら・ようすけ> 1978年、大阪府生まれ。東京大教養学部卒。同大大学院博士後期課程単位取得退学。大阪大准教授、ブリティッシュコロンビア大客員准教授などを経て、神戸大大学院法学研究科教授。専門は政治学、行政学。著書に『分裂と統合の日本政治』(千倉書房)など。

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