トップ > 特集・連載 > 考える広場 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

考える広場

日本アニメ 愛される理由

 七月に起きた京都アニメーション放火殺人事件では、世界中から哀悼と支援のメッセージが寄せられた。国境、文化の違いを超えて支持される日本のアニメ。なぜこんなに愛されるのか。

 <日本のアニメ> 日本動画協会の「アニメ産業レポート2018」によると、日本のアニメ産業市場は2017年、2兆1527億円で、初めて2兆円の大台を突破した。海外市場の伸びが大きく、国内市場を追い越す寸前という。低賃金、長時間労働が指摘される制作現場にも変化が見られ、デジタル技術の活用による「働き方改革」が進む。

◆絵の感性豊かで柔軟 「ポケモン」監督・湯山邦彦さん

湯山邦彦さん

写真

 「ポケットモンスター」のテレビ放送開始は一九九七年です。当時、ゲームが原作のアニメの成功例はほとんどなかったのですが、不思議なポケモンへの驚き、出会いと別れを描けば、アニメにできると考えました。

 ポケモンが新しかったのは、その辺にいるかもしれない生き物として描かれていることです。虫や魚を捕まえて遊んだ自分の子ども時代が重なりました。アニメで大事にしたのはコミュニケーション。言葉を話さないポケモンと、どうすれば仲良くなれるのか。ゲームでは描かれていなかった部分です。

 今年公開の映画「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」は、九八年の映画第一作「ミュウツーの逆襲」のリメークで、ポケモンでは初めてフル3D(三次元)CGで制作しました。

 3Dのアニメが多い欧米は、立体のとらえ方がリアルです。一方、日本はアニメの絵に対する感性が柔軟で幅広い。

 例えば、驚いた時に目が点になる「点目(てんめ)」や「ちびまる子ちゃん」の顔の縦線などの抽象的な表現は、欧米では理解されにくいといわれていました。最近は、日本のアニメが浸透したので通じるようになってきましたが。ディズニーなどのアニメでもキャラクターの目が大きくなってきたのは、明らかに日本アニメの影響だと思います。

 日本はやはり、漫画がこれだけ普及しているという土台が大きい。私も石ノ森章太郎さんの「サイボーグ009」などの漫画で育った世代。子どもの頃は映画「101匹わんちゃん大行進」や国産初のテレビアニメシリーズ「鉄腕アトム」を夢中で見ました。故郷の練馬区はアニメスタジオが多かったのでアニメーターの道に進みました。仕事としては、いろいろな才能を持った人たちが集まり、一人の力では絶対にできないようなものが形になった時が最高の喜びです。

 今月から「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」の放送時間が移り、午後七時台のアニメがなくなりました。最近の子どもは塾に行っていて家にいないそうです。制作現場でも、そういう変化は意識せざるを得ない。でも、変わらないこともあります。ポケモンでは、ポケモンという不思議な存在によって起こる出来事を描くことが基本。暴力描写や乱暴な言葉は出しません。その世界観は変わらないし、変えたくないと思います。

 (聞き手・谷岡聖史)

 <ゆやま・くにひこ> 1952年、東京都生まれ。テレビや映画のアニメ「ポケットモンスター」全作品で監督などを務める。映画「ミュウツーの逆襲」は米国での興行収入が邦画史上1位を記録した。

◆日常に基づくドラマ 作家・脚本家・辻真先さん

 アニメは、米国の「ポパイ」や「トムとジェリー」を見れば分かりますが、もともとドタバタ喜劇です。作り事の面白さであり、感情移入してわくわくするものではなかった。

辻真先さん

写真

 日本のアニメはいろいろと運が良かったんですな。テレビの興隆期に合わせて成長した。テレビというものは視聴者の日常に入り込んできます。アニメも作り事ではなく、日常の細部に基づき感情移入できるものになりました。ドタバタとドラマ。うまく合わないものを強引に合わせようとしたわけです。それを試みたドン・キホーテが手塚治虫先生です。なぜ日本はアニメ大国になったのか? ある人は「よその国には手塚治虫がいなかったから」と言いました。

 (手塚氏がつくったアニメ制作会社の)虫プロはそりゃあ、むちゃくちゃでね。最初は脚本料が破格で「黒沢映画か」って。作り直しもしょっちゅうで、金が残るわけがない。でも、みんなただでいいからやりたかったんです。後から来たスタジオジブリの皆さんは大変で、悩めるハムレットになった(笑い)。

 冗談はともかく、ドン・キホーテとハムレットはそれぞれドラマの典型です。面白いもので作品の特徴も虫プロはドン・キホーテ型だし、ジブリの作品はハムレット型。これが日本のアニメの両輪になりました。

 虫プロの話に戻ると、普通アニメは劇場用に一年に一、二本作るものでしたが、虫プロのテレビアニメは週に一本。「できるだけ(画面が)動かなくて(物語が)動く話にしてくれ」という注文です。セル画(アニメの原画)を少なくするために編み出されたのが、口や足だけ動かす「口パク、足テケ」です。ここぞというところだけ動かす手法もできました。動と静の中に不思議とドラマが内包された。前後にドラマがあれば、ぎこちない動きでも、動かなくてもドラマになるんですよ。

 日本のアニメの牙城はかなりほかの国に侵食されてきたと感じます。低賃金、長時間労働のアニメ業界の体質改善、人材育成が必要ですが、国が音頭を取るのは駄目です。金を出せば口も出しますから。僕は生活費が安く済む地方への分散を考えるべきだと思います。京都アニメーションが典型です。アニメは今もとんがった文化ですが、だからといって都会にいる必要はない。今後は地方でこそ花開くでしょう。

 (聞き手・大森雅弥)

 <つじ・まさき> 1932年、愛知県生まれ。アニメの名作の脚本を多数執筆。82年に『アリスの国の殺人』で日本推理作家協会賞。2008年に中日文化賞。近著は『焼跡(やけあと)の二十面相』(光文社)。

◆人の心理丁寧に描く 漫画翻訳家・スタンザーニ詩文奈さん

スタンザーニ詩文奈さん

写真

 日本の漫画やアニメの一番の魅力は奥深さだと思います。キャラクターがとても人間的で、人の心理や人間関係が丁寧に描かれている。まるでドラマや映画を見ているような感覚になります。人生には何が大事なのかとか、本当に考えさせられる作品もあります。米国のアニメの場合、ディズニーの映画では愛や友情、正義などをテーマにした作品もありますが、テレビアニメではそこまで深く人間を掘り下げる作品は少ないと思います。

 幅が広いという点も日本の漫画・アニメの特長です。一つには、ジャンルの幅広さです。アクション、SF、学園ものなどいろいろなジャンルの作品がある。また、子ども向け、少年向け、少女向け、青年、大人向けと、年齢に応じて楽しめる作品があるのも日本ならでは。イタリアでは、子ども向け、大人向けが中心で、青少年向けの作品はほとんどありません。

 もちろん、どんな年齢の人が見ても楽しめるアニメも日本にはあります。「機動戦士ガンダム」が、その代表だと思います。子どもは子どもなりに楽しめるし、大人には大人の楽しみ方がある。それが傑作の条件と言えるかもしれません。

 イタリアでは、一九七八年に「アルプスの少女ハイジ」がテレビ放映されたのをきっかけに日本のアニメがブームになりました。今ではイタリアのテレビで放送されているアニメの八割以上が日本の作品だと思います。長い歴史があるので、日本の漫画やアニメはイタリアの文化の一部になっています。「ルパン三世」を知らないイタリア人は多分、いません。

 イタリアに限らず、漫画やアニメを通して日本や日本文化に興味を持った人は多いはずです。私もその一人で、日本で漫画家になりたいと思って日本語の勉強を始め、それが今の仕事につながって、日本で暮らすことになりました。

 優れた漫画やアニメには文化的な価値があります。これを教育に活用したらいいと考えています。子どもは好奇心の塊で、興味を持ったことはどんどん吸収します。でも勉強が苦手な子もいます。私自身、勉強が嫌いで特に歴史は嫌いでした。ところが「ベルサイユのばら」を読んでいたおかげでフランス革命には詳しくなりました。漫画・アニメは教育にも生かせると思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <スタンザーニ・シモーナ> イタリア北部のボローニャ生まれ。ボローニャ大で日本語を学び、1992年から日本の漫画やアニメの翻訳を始める。翻訳した漫画は669冊に上る。2007年から東京在住。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索