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サブスクリプション 新しい消費の形

 定額料金で一定期間、商品を利用できるサブスクリプション(定額制)と呼ばれるサービスが新しいビジネスモデルとして注目されている。「所有から利用へ」という消費スタイルの大転換で何が起きるのか。

 <サブスクリプション(サブスク)> 原義は「署名」で、(署名による)申し込みや予約を意味したが、最近は会員申し込みをすることで多くの商品やコンテンツを一定期間、利用できる定額制(サービス)のことをいう。音楽や映像作品が聴き放題、見放題になるサービスが先駆け。これまでは所有の対象だった高級バッグや自動車などさまざまな分野に拡大している。顧客の消費傾向から好みの物を推薦するなどサービス向上も著しい。

◆今も昔も基本は信頼 バッグ借り放題「ラクサス」運営・児玉昇司さん

児玉昇司さん

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 ラクサスは、月額六千八百円でブランドバッグが借り放題というサービスです。二〇一五年二月の開始時に約五十人だった会員数は、今年七月で三十二万人を超えました。海外展開も視野に入れています。

 バッグは所有することに意味があると思われがちですが、使うことが目的であり、買うことは単なる手段にすぎません。よくサブスクは「買うから借りるへ」と言われますが、「買う」と「借りる」は共存できます。借り放題という安い手段によって、高級なバッグを実際に使い、品質の良さが伝わる。今まで買わなかった人の中からも、買う人が出てくるのです。

 サブスクの核は、定額かどうかではなく、顧客の囲い込みにあります。そこで結び付く概念が「パーソナライズ(個人化)」です。ラクサスではAI(人工知能)を使い、過去に借りたバッグの種類や期間などから、その人に他のバッグも提案します。ユーチューブ(動画投稿サイト)、アマゾン(ネット書店)、オイシックス(食材宅配)も、毎月のように繰り返し利用するのでサブスクなのですが、レコメンド(おすすめ)機能が優れているのが共通点です。

 ユーザーにとって一番の利点は「選ぶ苦しみ」をなくしてくれること。よく「選ぶ楽しみ」という言い方がありますが、例えばネット通販にかかる時間の95%は、他の通販サイトや商品との比較に使っているんです。「損をしたくない」という気持ちから、そうなってしまう。

 それに対し、「私が知っている店に通い続ける」のがサブスクの世界観です。必ず自分に合ったサービスが出てくるという信頼感。企業の側にとっても、架空の顧客像ではなく、実在する一人の優良顧客を相手にした方が良いサービスができる。無駄な広告費を上乗せしたり、クーポンで安売りしたりしなくていい。サブスクの命は継続率です。互いに信頼し、長く付き合える。サブスクって、昔からあった商売の基本だと思います。

 今後はエシカル(倫理的)な企業しか生き残れません。商品が安くても、環境に悪く、安価な労働力を使う企業は選ばれなくなる。ラクサスも不要なバッグの焼却処分を減らせるという意義を重視しています。持続可能な姿勢にユーザーも賛同する。その反対にあるのが一回限りの安売りや衝動買いです。

 (聞き手・谷岡聖史)

 <こだま・しょうじ> 1976年、広島県生まれ。ラクサス・テクノロジーズ社長。早稲田大1年で起業を始め、ネット通販会社などを立ち上げた後、4度目の起業で現在の会社を設立。

◆さらに進化して拡大 ジャーナリスト・雨宮寛二さん

 新聞の定期購読も実はサブスクリプションです。定額制でモノやサービスを提供する。それがサブスクの基本です。新聞や雑誌の定期購読、電車・バスの定期券など昔からあるものはレガシー(遺産)サブスクといわれます。いま注目されているサブスクの先駆けは米国のネットフリックスで、一九九九年に映画DVD宅配の定額サービスを開始し、二〇〇七年にはネット配信サービスを始めました。

雨宮寛二さん

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 米国では、一九八〇年代から二〇〇〇年代初頭に生まれたミレニアル世代の人たちを中心に消費に対する意識や価値観が変わってきました。買って所有しなくても、利用するだけでいい。経済が停滞した時期に生まれ育った世代ですからお金に厳格で、無駄遣いはしない。日本でも「三種の神器」などといわれた高度成長期には、商品を買って所有することがステータスでしたが、デフレが続く厳しい状況で無駄遣いは避けようという風潮が生まれました。

 サブスクは消費者にとって割安で便利なサービスです。加えて、専門家やAI(人工知能)が会員それぞれの好みに合った商品やサービスを推奨してくれる点もメリットです。現代は情報があふれ、何を選べばいいのか分からない場面もあります。そういうとき、プロのアドバイスはありがたい。一方、企業にとっての利点は、会費という定期収入が入ってくることです。安定した財務基盤の構築につながります。

 サブスクを手掛ける企業には新規会員獲得とともに、会員の解約を防ぐ戦略も必要になります。事業の魅力を高め、常に顧客満足度を向上させる。例えば、映画のネット配信は多くの企業が参入して競争が激しくなっているので、大手の事業者はオリジナル作品の制作に力を入れています。アカデミー賞を受賞した作品もあり、そういう作品を独占配信することで会員をつなぎ留めています。

 日本では今後、少子高齢化、格差社会、AI化が進んでいきます。ここから予測できるのは所得の大幅な伸びは望めないということです。モノを買って生活するのは難しくなるかもしれない。サブスクという消費スタイルはさらに注目されるでしょう。サブスクは単なるブームではなく、今後もデジタル技術の革新を取り込みながら、進化しつつ拡大していくと思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <あめみや・かんじ> 山梨県生まれ。イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関する著書多数。近著は『サブスクリプション 製品から顧客中心のビジネスモデルへ』(角川新書)。

◆出合い選ぶ喜び失う ライブハウス経営・角田恭平さん

角田恭平さん

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 音楽業界では十年以上前から「CDが売れない」といわれてきました。若者の人口が減ってきたことが根底にあると思いますが、データ送信が気軽に行えたりする技術の発展、ダウンロードによる販売の増加などが理由に挙げられます。最近は違法ダウンロードの影響も大きい。

 そういう中、定額で曲が聴き放題になるサブスクが三年ほど前から台頭してきました。販売店などの努力で「もうCDは不要」とはなっていませんが、流れを止めるのは厳しい。サブスクに音源を提供する大物ミュージシャンが増えています。

 僕は、サブスクに乗らざるを得ないし、うまく使えば音楽シーンにプラスな部分もあると考えます。何と言っても聴く人に便利。アクセスが簡単でCDのように場所を取らない。安く簡単に多くの曲が聴ける。CD店のことを考えると複雑ですが。

 ただ、サブスクはまだ不透明な点が多い。特に、若いミュージシャンにとってプラスになるかどうか、よく分かりません。

 一つは、お金の問題。CDと違って在庫を抱えなくて済むのはメリットですが、ミュージシャンや事務所、レーベルにどれだけ利益が還元されるのか。還元率が低いと若い才能は育ちにくくなるでしょう。

 もう一つは情報発信の問題。CD店はあるミュージシャンをプッシュすることでプールに新しい色の水を一滴注いでくれます。それによって水の色が少し変わるんです。でもサブスクは海なんですよ。一滴注いでも変わらないし、大海原から誰が新しい才能を見いだせるのか。

 サブスクはAI(人工知能)を使い、個々の客の利用傾向から曲を推薦するようです。便利ですが、新しい音楽との出合いはAIが選ぶままになり、選択は単一化していく。利用者は考えなくなってしまうでしょう。

 音楽の聴き方も変えてしまうかもしれません。手に入れることが容易なら、手放すことも容易になる。思い入れがなくなり、タイトルも歌詞もすぐに忘れていく。そうなったら、作り手はどうやって聴く人に自分を印象づけるか考えないといけません。ライブとネットの活用がますます重要になるでしょう。

 今はビジネスモデルの大転換期。ゴールドラッシュの時に一番もうけたのは金を掘った人ではなく、彼らにつるはしを売った人だったそうですが、そんなふうにならないでほしい。

 (聞き手・大森雅弥)

 <つのだ・きょうへい> 1984年、熊本県生まれ。ライブハウス「京都GROWLY」(京都市)、「ANSWER」(三重県鈴鹿市)などを経営。ブログやユーチューブで音楽業界について発信中。

 

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