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考える広場

「ハーフ」と向きあう

 日本人と外国人を両親に持つ「ハーフ(ミックス)」の存在がテニスの大坂なおみ選手の活躍であらためて注目されている。子どもたちの2%が国際結婚で生まれる時代。当事者らの思いは?

 <ハーフの出生数> 国の人口動態統計では、2017年に生まれた子94万6065人のうち、父母のどちらかが外国人の子は1万8134人で、全体の1・9%を占めた。母が外国籍は8674人、父が外国籍は9460人だった。ハーフの割合が2%前後という傾向は、この20年ほど、ほぼ変わっていない。

 親が日本国籍を取得した場合や外国生まれで日本に移住した子らは統計に含まれず、実際の「ハーフ」数はもっと多いと推測されている。

副島淳さん

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◆世界中みんな地球人 俳優・タレント・副島淳さん

 生まれた時には既に米国人の父はおらず、母と母方の祖母の三人で暮らしてきました。小学三年までは葛飾など東京の下町にいましたが、自分の容姿が周りの子と違うことに気付いていませんでした。

 それが変わったのは四年の時、千葉に引っ越してからです。団地でみんなの輪ができていたこともあって、よそものの僕は格好のいじめの標的でした。肌の色や髪質をからかわれ、初めてみんなとの違いを意識しました。どんどん引っ込み思案になって、いつもクラスの隅に一人でいるようになります。

 もともと小心で、けんかができません。怒りは母にぶつけるしかありませんでした。「何で産んだんだ」「どうして僕だけ肌の色が違うんだ」とか。でも、母は怒るでもなく「おまえはスペシャル(特別)だよ。だから、いろいろ言われるんだ」。本当に母の強さに助けられた。口癖は「学校へ行け」。家にいたら光熱費がかさむって(笑い)。毎日行きましたよ。

 そんな生活が中学に入って、がらっと変わります。ちょうどバスケット漫画「SLUM(スラム) DUNK(ダンク)」がはやっていて、バスケ部に入りました。それまで目立つことが嫌だったのに、その原因だったハーフであること、体が大きいことが役に立つんですよ。千葉の選抜チームにも選ばれました。文字通り、スペシャルになれた。

 そこで他人と話すすべも身につけました。この髪形についても「ちょっと理科の実験で失敗しちゃって」と笑いにできるようになった。そうすると、僕の人生のことも聞いてくれるようになったんです。しばらく話をしていると「おまえ、普通の日本人だな」って。なぜか僕は話をすると米国人の要素が消えちゃうんです。

 大学に入ってヒップホップやR&Bなどの黒人音楽に詳しい友達ができたんですが、彼らが僕の髪形をうらやましがるんですよ。うれしかったですね。でも、日本人だけが外国人やハーフにあこがれるわけではありません。日本人のストレートな髪にあこがれる外国人も多いですよ。そこはお互いさま。

 ここまでインターネットで世界がつながってしまうと、国境は関係ないように思います。みんな地球人。肌の色とか、何人(なにじん)とか関係ない。そこは楽観的で手と手をつなぎ合えると思っています。

 (聞き手・大森雅弥)

 <そえじま・じゅん> 1984年、東京都生まれ。NHK「あさイチ」リポーター、TBS系「日立 世界ふしぎ発見!」ミステリーハンターなどで活躍中。舞台「桃山ビート・トライブ」が6月再演。

◆安易な「二分法」問題 社会学者・下地ローレンス吉孝さん

 現在の「ハーフ」のイメージは、アイドルグループ「ゴールデン・ハーフ」が登場した一九七〇年代にさかのぼります。

下地ローレンス吉孝さん

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 「ハーフ」の女性に対する「美しい顔」「性的に奔放」「舌足らずな日本語」といった偏ったイメージが、急速にお茶の間に浸透しました。同時期にブームだったのが「日本人とは何か」を問う本です。こちらは著者も読者も編集者も、主に大卒で大企業で働く男性でした。女性的「ハーフ」イメージは、男性的「日本人」イメージを切り崩すことなく、商品として消費されてきました。

 今も「ハーフ顔」はファッション雑誌などで憧れの対象とされます。でも、周囲が期待する「ハーフ顔」とのギャップに苦しみ、摂食障害やうつになる人もいる。現実は深刻です。

 就職活動で見た目で落とされたという話も聞きます。逆に「ハーフだから」と採用された人は、自分では最初、外見ではなく実力が評価されたと思っていた。悩んだ末、接客のない事務職に異動しました。見た目で職務質問を頻繁に受けたり、アパートを借りられなかったりもします。「ハーフ」は見えにくい形で、外国人差別の中に組み込まれています。

 ある男性は「日本語が上手ですね」と一日に一回は言われるそうです。たとえ褒め言葉でも、その含意は「日本人じゃないのに」です。日本に生まれ育った人が、その言葉を何千回と言われ続けて生きる。積み重なると、日常生活に支障を来すほど重苦しくなります。

 大坂なおみ選手が注目されて思うのは、「ハーフ」に期待されがちな「国際社会への懸け橋」という役割です。大坂選手について「活躍するなら二重国籍を認める」と広言する国会議員さえいる。そこに潜むのは、「役に立つハーフ」「役に立たないハーフ」という線引きです。

 私は母方の祖父が米国、祖母が沖縄出身の「クオーター」です。昨年から、海外にルーツを持つ人々の情報発信サイト「ハーフトーク」を運営しています。声高に差別や権利を訴えるのではなく、個々の経験や現実を伝えていきたい。

 見た目は外国人でも日本国籍を取った人や、日系人のように見た目は日本人でも外国籍という人は増えています。「日本人か外国人か」という安易な二分法こそ問い直さなければいけません。

 (聞き手・谷岡聖史)

 <しもじ・ろーれんす・よしたか> 1987年、東京都生まれ。一橋大で博士号。上智大などで非常勤講師。著書に『「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社)。

◆両方の文化吸収して ノンフィクションライター・山下真弥さん

山下真弥さん

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 四年前にスウェーデン人の男性と国際結婚して先月、女の子を出産しました。日本に住むミックスの人たちを取材して十年前に本を出版しましたが、私自身がミックスの子を育てる母になったわけです。

 ミックスといっても人それぞれで、ステレオタイプの見方はできません。ただ当時の日本では、白人の欧米系ミックスは特別扱いされ、アジア系ミックスには偏見の目が向けられる傾向がありました。特別扱いも偏見の裏返しで、根は同じです。

 娘は生まれてまだ一カ月にもなりませんが、肌はだんだん白くなり、外見は夫に似てきました。見た目の違いから将来、いじめに遭うかもしれないという不安はあります。特別扱いされてわがままになったり、それを都合よく利用するようになったりするのも嫌ですね。取材したミックスの中には都合のいいときは日本人、都合が悪くなると外国人として振る舞う人もいました。娘にはそういうふうになってほしくはありません。

 家庭環境にもよりますが、ミックスは複数の言語に触れるチャンスがあります。わが家では既に三つの言語が飛び交っています。夫婦の会話は英語ですが、娘に対して夫はスウェーデン語や英語、私は日本語と英語で話し掛けます。子守歌も夫はスウェーデン語です。娘には日本語とスウェーデン語の両方を話せるようになってほしい。そして、両方の文化を体験し、吸収してほしいと思っています。

 子育ては、しばらくは日本でする予定です。日本は子育てがしにくい国ではないし、医療体制も整っています。何より、日本は安全です。でも、日本にこだわる気もなくて、娘が外国の高校や大学に行きたいというのなら行かせてあげたい。そのために英語もできるように育てたいですね。私も高校時代を米国で過ごしましたから。

 日本で生まれ育ったミックスの中には、子どものころ差別や偏見にあい、日本にアイデンティティーを持てない人もいます。娘もいつか厳しい現実に直面するときが来るかもしれません。彼女が苦しんでいても、ミックスではない私には本当のところは理解できないかもしれません。親として、最善の環境づくりに努力するのは当然です。ただ、どんな状況でも最終的には自分の力で乗り越えていける人間に成長してほしいと願っています。

 (聞き手・越智俊至)

 <やました・まや> 1982年、東京都生まれ。慶応大卒。著書に『六本木発グローバル恋愛』(洋泉社)『ハーフはなぜ才能を発揮するのか』(PHP新書)など。両著は英語版電子書籍も。

 

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