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社会保障の財源としての税制のあり方 鈴木穣・論説委員が聞く

 年金、医療、介護、子育て支援などの社会保障には財源が必要です。社会保険料と並び重要な財源は税ですが、それを負担と思う嫌税感は根強くあります。私たちはどうしたら負担を受け入れ分かち合うことができるのか。税による受益感がないことが問題だと指摘する埼玉大大学院人文社会科学研究科の高端正幸准教授と考えます。

◆負担の前、安心実感を 埼玉大大学院人文社会科学研究科准教授・高端正幸さん

高端正幸さん

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 鈴木 十月に消費税率の8%から10%への引き上げが予定されています。政府は軽減税率を導入するなど負担感を和らげることに熱心です。実は税と社会保険料の負担は欧州諸国に比べ高くない。消費税収は社会保障に充てられますが、日本人は痛税感を感じています。

 高端 社会保障や福祉は、自分の生活が困難に直面したときにさまざまな給付で生活を支えてもらうものです。ところがその安心感が欠けています。財源としての税を負担することで社会保障に支えられているという実感が薄いことが理由です。

 北欧の人たちの意識と比べると明確な違いがあります。スウェーデンなどでは日本に比べはるかに重い税を負担していますが、私たちに比べると税を重く感じていません。充実した社会保障があるから自分の生活が決定的に危機に陥ることはない。だから税を払うことに意味があると思っています。

 鈴木 日本では増税は政治的にも難しい課題です。選挙で増税を訴えると負けます。だから与野党とも減税を唱えます。

 高端 北欧では選挙で減税を唱えると市民に不安感をもたらします。減税するなら公共サービスの何を削るのかという話になる。税負担と生活の安心はセットで理解されているのです。

 鈴木 昨年、北欧を取材した際、市民に税負担について聞くと「子どもの教育や失業給付、年金などで返ってくるので税負担は受け入れている」との反応でした。税は「預ける」という感覚です。日本だと「納める」、どう使われるか分からないといった意識がある。確かに税を負担することで社会保障に守られているという実感が乏しい。

 高端 よく年金、医療、介護などで高齢者に給付が偏っていて現役世代の受益が少ないと言われます。その背景には働ける人は自力で生活を成り立たせるのが当たり前だという考えがあります。制度もそれを前提につくられてきたし、人々もそう理解しています。例外的に自分でなんともできない貧困層を生活保護などで支えるのが福祉、まさに自己責任主義の考え方です。

 鈴木 自分の力で生活できる人はそうするという考え方は広く共有されています。それは間違った考え方なのですか。

 高端 社会状況は確実に変わってきています。この二十年で世帯所得は大幅に低下しました。貧困率も高いし、非正規の不安定な所得に置かれる人も増えている。その中で親の介護に介護保険はありますが、十分なサービスを考えたら多大な費用がかかる。子どもを持つことは喜びに満ちているはずなのに経済負担や仕事との両立の難しさからリスクに感じられてしまう。

 そのため、自分たちは自力で生きているのにそうでない人が人さまの税金で助かっていると感じ、生活保護バッシングなどが不当に厳しくなっています。さまざまな生活不安におびえる人が税金を拒否しつつ弱者をたたくという病理に陥っています。

 鈴木 確かに社会や社会保障制度を支えるはずの中間層が疲弊しています。社会の分断を感じます。社会変化の中で自己責任主義では人々の生活を支えきれなくなっていると言えます。この考え方が形成された歴史的経緯があるようですね。

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 高端 一九五〇年に政府の社会保障制度審議会が出した考え方が戦後の社会保障の出発点で、日本は社会保険を中心として制度をつくっていくことを決めました。税ではなく社会保険でリスクをカバーするという考え方で英国もそうでした。救貧より防貧を打ち出しました。

 鈴木 日本の社会保険は年金、医療、介護、雇用制度などです。保険料を負担したらそれに見合った給付を得られるという点が分かりやすい。それはメリットではないでしょうか。

 高端 そうですが、財政運営の視点で言うと社会保険の財源は特別会計です。一方、介護保険ができる前の高齢者介護や障害者福祉、生活保護などは一般会計、つまり税が財源です。戦後しばらく一般会計は、(政府支出は収入の範囲で行う)均衡財政主義をとっていました。だから税による福祉は使い道が厳選された。本当に困っている人に限定したのです。結果、税による福祉は自己責任主義の福祉になっていきました。

 鈴木 戦後整備が進んだ社会保険に問題はないのですか。

 高端 あります。社会保険料の負担が着実に高まっていることです。介護保険料は今後さらに上げざるを得ない。負担の偏りも著しい。低所得者ほど負担が重くなる社会保険料の逆進性は消費税の逆進性どころの話ではない。

 鈴木 社会保障をつくり直し税負担を分かち合う新しい考え方が必要です。

 高端 スウェーデンは誰でもその時々に人間らしく生活するために必要な支援は自己責任から切り離しています。医療、介護、保育、教育などは社会全体で税として負担し合って、みんなに無償に近い形で出す。非常にシンプルです。

 日本でも「貧困救済」ではなく、誰でも頼れるサービスを充実させていくことがみなさんの利益なんだと気づかなければなりません。安倍政権は幼児教育の無償化を実施しますが、例えば介護保険をさらに利用できるようにして自己負担を減らす。これらをセットで実施すると世代でみても所得でみても幅広い人たちがメリットを感じられるはずです。

 鈴木 幼児教育無償化の財源は本来、社会保障の借金返済に充てる予定のものです。それを使うと借金を次世代にツケ回すことになりませんか。

 高端 際限なく借金が累積する状況は避けなければなりませんが、急いで返さなくてもいい。例えば、増税ごとに税収の八割は公共サービスの充実に充て、二割は借金縮小に回すというやり方はあり得ます。借金を急いで減らしていかないと将来世代に膨大な借金が回るとの議論は間違っています。

 鈴木 税の負担を求めるにしろ消費税は逆進性が問題です。

 高端 十年、二十年後を考えると消費税は外せません。ただしそれだけでは偏ります。分離課税となっている配当所得など資産性所得にも給与所得と同じ累進税率を課すべきです。給与所得の人と同じ収入でも配当所得の人は低い税額になっている。同じだけ税を払う余裕のある人は同じだけ負担するのは当然です。相続税、贈与税も強化すべきでしょう。

 鈴木 それには政府が信頼されていることが重要ですが、統計不正問題を挙げるまでもなくそうなっていません。

 高端 政府は情報公開に力を入れないといけない。だが、信頼できるまで税は払わないでは、社会は崩壊してしまいます。ちゃんと仕事をしろと政府に求めるのなら必要な財源を預けないといけない。私たちが負担をどう分かち合えるかも問われているのです。  

 <たかはし・まさゆき> 1974年生まれ。経済学博士(横浜国立大)、新潟県立大国際地域学部准教授などを経て現職。専門は財政学。東京都税制調査会委員、新潟県税制調査会委員なども務める。主な共著に『福祉財政』(ミネルヴァ書房)、宮本太郎編『転げ落ちない社会−困窮と孤立をふせぐ制度戦略』(勁草書房)など。

 <社会保障制度に関する勧告> 政府の社会保障制度審議会が1950年に示した戦後目指す社会保障に関する基本的な考え方。「50年勧告」とも言われる。文化的な生活の実現へ各制度づくりを求めた。中心は社会保険で年金、医療、介護、雇用分野で制度整備が進められ、61年に国民皆年金・皆保険体制が出来上がった。現在は各制度に保険料収入とともに税が投入され消費税収も充てられている。

 

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