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天皇から米国へ変わる「国体」 熊倉逸男・論説委員が聞く

 沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設、米国製の防衛装備品大量購入など、日米同盟の名の下、米国依存がますます強まっているようです。精神的権威の「国体」が戦後、天皇から米国に変わり「永続敗戦」状態になったと指摘する政治学者の白井聡さん(41)とともに、「対米従属構造」を切り口に政治や社会の現状を考えました。

◆国民の統合 回復必要 政治学者・白井聡さん

白井聡さん

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 熊倉 政府は日米同盟の重要性を強調しますが、戦争に負け戦後ずっと、米国の強い影響下で引きずられている。対米依存、さらには対米従属といってもいい状態が続いているという見方は的確だと思います。対米従属構造は誰の責任でしょうか。米国? 外務省? 自民党? それとも安倍政権?

 白井 日本は戦争に負け米国に占領されました。従属はある意味当たり前です。米国は日本を属国化することで自国の利益につなげるという国家として当然のことをしているわけです。また、対米依存している国は世界中にあります。日本が異常で特殊なのは、日米関係は利害の結び付きではないとアピールされている点です。(在日米軍駐留経費負担の)「思いやり予算」、(東日本大震災で米軍が実施した災害救援の)「トモダチ作戦」といった情緒的な言葉がその象徴です。

 本来、国と国との関係は、利害で結び付いているにすぎない。だから、従属を自覚しながらもできるだけ自由になりたいと思うのが普通ですが、日本では、真の友情や愛情が基礎にあるという虚構の下、対米従属が否認されている。

 政、官、財、学、メディアなどすべての領域で、主流派に属するためには、この虚構を信じなければならない。その利権の構造の元締として自民党がいるわけで、安倍政権がその典型です。

 熊倉 対米従属しつつ、米国など戦勝国が大戦後に作った体制「戦後レジーム」からの脱却を唱え、連合国が日本の戦争指導者らを裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)を「勝者の裁き」と否定する。矛盾していませんか。

 白井 本気で東京裁判を否定しようと思ったら、正面から対米批判しなければならない。反発するけど庇護(ひご)してもらう。子どもの親に対する反抗みたいなものです。あまりに幼児的なので矛盾に気付けないのです。

 熊倉 安倍政権になって、新安保法制が制定され、米国との集団的自衛権による武力行使に道が開かれました。対米従属はいっそう進んでいるようです。

 白井 対米従属レジームの作り手の代表者が、安倍晋三首相の祖父、岸信介・元首相でした。安倍氏はこの支配構造の中の、特権階級のサラブレッドですから、そこからの脱却などするはずがありません。ただ、対米従属による統治構造は崩壊しつつあります。

 北方領土問題でも、「歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島に米軍基地を置かない」と、ロシアのプーチン大統領に確約できるのでしょうか。確約が取れないまま平和条約を結ぶには、「ゼロ島返還」という答えしかない。国民は納得するでしょうか。

 熊倉 沖縄の米軍基地問題は対米従属の最たるものですね。知事選で辺野古への新基地建設反対派が勝った民意にもかかわらず、政府は建設をやめようとはしません。現場海域への土砂投入も始めました。なぜここまでかたくななのでしょうか。

 白井 辺野古は地盤が軟弱過ぎて巨大建造物を支えられず、玉城デニー知事が今後新たに必要となる許認可を出すとも思えない。

 だから、今やっている土砂投入などは、沖縄がいくら抵抗しても基地建設は止められないという雰囲気をつくるためのものでしょう。

 沖縄の巨大米軍基地群は対米敗戦と従属の結果ですが、他方本土では、米軍のプレゼンス(存在感)はどんどん減ったため、従属の事実は一層ぼやかされていった。政府は、この状態を何が何でも維持したいように見えます。

 熊倉 米国第一主義を掲げるトランプ政権になって、日米関係はどういう影響を受けているのでしょうか。政府の中期防衛力整備計画では、米国から大量の装備品を購入します。

 白井 米国は超大国として世界の秩序、自由など大義名分を守るポーズを示してきました。「米国は愛してくれているんだ」という日本のフィクションにも付き合い、メンツをつぶさない配慮はしてきました。トランプ大統領はそれらを「面倒くさい」とやめてしまった。だから、いよいよ米国の本音が出てくる。例えば、武器を買わないのだったら、日本の自動車産業を追い込むと脅す。これは効きます。長年の対米従属が、北米マーケットに極度に依存する経済秩序を作ってしまったからです。

 熊倉 ドイツも日本と同様、米国などの連合国に敗れた敗戦国ですが、対米関係のあり方は日本とは違います。メルケル首相は最近、米国頼みから脱する必要性を強調しています。

 白井 敗戦後、ドイツは同じく対米従属させられ巨大な米軍基地も置かれましたが、根本的な精神が違うのです。独立の精神があるのです。だから彼らは、不平等な地位協定の改定にもこぎつけました。ドイツは敗戦の意味を正面から受け止めてどうしたらいいか考え、東西統一を実現させ、欧州連合(EU)のリーダーになりました。

 熊倉 メルケル首相も保守政党出身ですが、安倍首相とは対極的に見えます。

 白井 日本の保守は単なる体制保守、利権保守です。保守を名乗るくせに、接頭辞に「親米」と付く。米国を守ることが真に保守的だと思っている。

 熊倉 著書『国体論』は、対米従属による社会の荒廃を描く一方で、二〇一六年八月に天皇が発した「象徴としてのお務めについて」のお言葉に、再生の可能性を見いだしているように読めました。お言葉には「闘う人間の烈(はげ)しさ」がにじみ出ている、と指摘しています。何と闘う烈しさなのでしょうか。

 白井 憲法上、問題になりかねないリスクを冒してまで、皇位継承の決まりを変えてほしい気持ちを国民に直接伝えた。切羽詰まった危機感があったからこそでしょう。お言葉では、天皇とは「国民統合の象徴」なのだ、という点が強調された。国民の統合とは、日本国民という共同体のみんなが助け合い、仲良く暮らすということだと思います。

 しかし今、国民統合はぶっ壊れている。東京都港区南青山で地域のブランドイメージを壊すとして児童相談所建設が反対を受けている問題や、銀座の小学校が高級ブランド・アルマーニの制服を導入した件などが典型です。「貧乏人が周りをうろつくと不愉快だ、あっちへ行け」と、こういうことを言っちゃいけないという常識が崩れました。こんな状況に対し、天皇は警告を発したとも言える。国民の統合を回復し、なんとか守らなくてはならない。統合を維持するつもりはあるのですか、と国民に問い掛けているのです。

 <しらい・さとし> 1977年、東京都生まれ。京都精華大人文学部専任講師。専門は政治学、社会思想。『永続敗戦論−戦後日本の核心』で石橋湛山賞、角川財団学芸賞を受賞。昨年、続編ともいうべき『国体論−菊と星条旗』を出版。ほかに時評をまとめた『「戦後」の墓碑銘』など。

 <永続敗戦> 日本の戦後体制を示す白井氏の造語。米国のアジアでの最重要同盟者となるため、第2次大戦での敗北の意味を曖昧にし、敗戦を正面から認めず否認する。際限ない対米従属を続ける限り、敗戦を否認し続けることができ、親米保守派が支配層に居座る。昨年出版した『国体論』では、精神的権威である「国体」は天皇から米国へとスライドしていると指摘した。

 

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