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日本、世界の来し方行く末

◆民主主義は地域が要 政治学者・姜尚中さん

姜尚中さん

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 平成が幕を開けた1989年、中国では天安門事件が起こり、ドイツでは東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊しました。あれから30年。新しい元号がスタートする年を迎えました。私たちはどこから来て、どこに向かおうとしているのでしょうか。国際情勢、グローバル化と国家、民主主義…。政治学者の姜尚中さんに聞きました。

 −世界は今年どう動くでしょうか。

 今は米国と中国という二大超大国がすくみ合った状態です。覇権的な相克は基本的には変わらないだろうと思います。かなり長く続くのではないでしょうか。米ソの冷戦は半世紀近く続きました。

 中国は、ある人の言葉を借りれば「異形の超大国」です。英国や米国のように自由や民主主義、市場経済が整って、その中で世界的な覇権を発揮した国と違い、かなり異質な国です。その国が世界第二位の経済大国となり、米国と向き合っている。世界が経験したことのない対立です。

 −昨年は米朝首脳会談が初めて開かれました。朝鮮半島情勢はどう見ていますか。

 昨年は米朝の間にある不信の構造をどうやって氷解させるか、つばぜり合いをしていたと思います。非核化が進んでいないと批判する人もいますが、朝鮮戦争以来の米朝の確執、不信は一朝一夕には解消できません。

 今年は米朝の間で何回か首脳会談が積み重なるでしょう。一回や二回の会談ですべてが解決するわけではありません。トランプ政権は非核化に向けた何らかの措置を望んでいます。北朝鮮は、寧辺(ニョンビョン)の核施設の査察を受け入れると思います。それが北側の大きなカードになります。

 北朝鮮もまた異形の国ですが、間違いなく中国型の改革開放にかじを切ろうとしています。韓国は前のめりだという指摘もあります。しかし韓国は、この千載一遇の機会を逃したら二度とチャンスは巡ってこないと考えています。ここで集中的に、しかも短期間で米朝交渉が進むように外的な条件を整えようとしていると思います。

 −元徴用工の問題で日韓関係は悪化しています。

 過去の歴史問題を巡って深い溝ができてしまいました。語弊があるかもしれませんが、南北が対立している方が日韓関係は友好的に保ちやすい。ところが南北関係は数度にわたる首脳会談を経て融和に向かっています。バランスが変わったことで閉じていた歴史問題のふたが開いてしまった。では、どうしたらいいのか。この問題は基本的に人権問題です。容易ではないかもしれませんが、韓国政府と、日本の援助でできた韓国企業が被害者救済のための基金を設けて、そこに日本の企業もある程度の資金を出すという形はどうでしょうか。日韓請求権協定を変える必要はありません。

 −グローバル化が進み、国家や国民は変わりましたか。

 国家は本来、自律性を持ち、国民の福祉や国益のために動いていくものです。

 しかしグローバル経済ではマーケットが自己増殖し、国はそれをハンドリングできません。むしろグローバル経済に合わせて国が動いていく。国家の自律性は低下していきます。グローバルなシステムにどれだけ素早くタイムリーに対応できるか。それが国家に求められるなら即断即決がいいわけです。

 民主主義には時間がかかります。熟議してしっかり煮詰めていくのが民主主義だからです。しかし、民主主義にかかる時間や労力は無駄で、専制的な独裁に近いような者が政策決定をした方がグローバル経済の中では適応力を持ち得るという考え方に先進国も傾いてきました。そういう考え方をすると、米英よりも中国の方がいいということになります。上が決めたら、国民は文句を言わずに従う。即断即決でグローバル経済の変化に即応できる。非常に危険な考え方だと思います。

 −グローバル化が民主主義をも脅かしていると。

 グローバル経済と民主主義は波長が合う部分があると思われていた時期もありました。国境を超えるグローバリズムの中では国籍や民族は関係がなくなる。人々の多様性を守ってくれるし、自由度も増すだろうと。しかし、そうはなっていません。なぜかというと、グローバルな激しい競争の結果、とんでもない格差が生まれたからです。

 −格差は重大な問題です。

 格差の問題は世界各国が抱えている宿痾(しゅくあ)(持病)です。抜本的な問題は格差が広がるだけではなくて固定化されるということです。地域的なばらつきも広がっています。

 まず、子どもがいるから共働きができないという現状があります。だから安心して子どもを預けられるような環境、そういうサービスを充実させる必要があります。保育所や託児所を整備することです。そうしないと貧困や格差の固定化はもっと深刻になると思います。そして日本の社会をむしばんでいく。次世代のための社会政策、教育政策に財源を回すべきです。

 −グローバル化と同時にナショナリズムも台頭しています。

 国民国家では国民が主人公です。国民があって国家がある。当たり前のことです。ところが、グローバル化の中でこの関係が逆転すると、みんな右へならえ、国がやろうとしていることに反対して不協和音をつくるなという議論が出てきます。

 グローバル化とナショナリズムは必ずしも対立しているわけではありません。対立しながら共鳴し合っている。グローバル化が進むとともに、みんな国に従おうという、ある種のナショナリズムも強くなる。グローバル化と、それに対する逆流現象、つまり、みんなが同じ方向に向かっていくというコンフォーミズム(画一主義)がせめぎ合っています。

 −独裁的な政治リーダーを求める傾向が強くなったような気がします。

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 国と個人を結び付ける仲介になっていた中間集団が弱体化したことが根底にあると思います。日本の場合は、昔なら村落共同体や地縁的結び付き、戦後は企業が中間集団の役割を果たしてきました。しかし今、企業はグローバルスタンダードの中で動いています。そういう企業はアイデンティティーのよりどころにはなり得ません。

 その代わりをしているのがインターネットだったり会員制交流サイト(SNS)だったりするわけです。でも、それは匿名の集団とのネットワークだからもろいんです。

 行き場所をなくした人は帰属意識が希薄になってくる。そういう時代の中でアトマイゼーション(原子化)が進み、人は砂粒化していく。そして最後には国家に自分のよりどころを求める。これがナショナリズムになり、当然のことながら強い指導者が求められます。全体主義的な傾向に染まりやすい人が増えていると言えます。

 −全体主義に陥らないためにはどうすれば?

 地域を立て直すことです。人は地域の中で生きています。そこに自分が着床し、その一員として生きているという感覚が持てるような地域社会をつくっていかない限り、ますます原子化が進み、あるいは全体主義化が進むかもしれないと危惧しています。

 民主主義とは何かという根本的なことが問われています。地域の中にこそ民主主義の下支えがあります。地域の劣化、経済の格差が進めば民主主義も危うくなります。地方、地域の民主主義の草の根を強くしていかなくてはいけない。そのためには地域経済が回るような仕組みをつくる必要があると思います。

 −今年はどんな年になるでしょうか。

 平成の三十年で日本の社会は考えられないほど変わりました。それなのに、五輪や万博といった昭和の時代、高度成長期の夢をもう一度と考えている人がいます。イベントは一過性、局所的なカンフル剤です。地域経済に深く浸透するような効果はありません。表面は熱いけど中には浸透しない。日本のように成熟した国はイベント国家から脱却すべきです。平成が終わり、新しい元号に変わります。発想を大きく変える元年になってほしいと思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <カン・サンジュン> 1950年、熊本県生まれ。早稲田大大学院博士課程修了。専攻は政治学、政治思想史。東京大名誉教授。熊本県立劇場館長。主な著書に『悩む力』『母の教え 10年後の「悩む力」』『維新の影 近代日本一五〇年、思索の旅』『ナショナリズム』など。長野県在住。

 

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