トップ > 特集・連載 > 考える広場 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

考える広場

暴言はびこる世の中で

 世の中には今、暴言があふれている。トランプ米大統領は民主党を「犯罪の党」とののしり、杉田水脈衆院議員は性的少数者(LGBT)は「生産性がない」と雑誌に寄稿して炎上。言論は劣化したのか。

 <暴言> 広辞苑によると「礼を失した、乱暴なことば」。政治家の暴言としては1953年に吉田茂首相(当時)が衆院予算委員会で野党議員に対して発した「バカヤロー」が有名。すぐに撤回したが、野党側は納得せず。内閣不信任案が可決されたため吉田氏は国会を解散。「バカヤロー解散」と呼ばれた。50年に池田勇人蔵相(当時)が言ったとされる「貧乏人は麦を食え」も有名だが、低所得者をばかにする意図はなかったとする見方もある。

◆自己顕示のため攻撃 シンガー・ソングライター 泉谷しげるさん

泉谷しげるさん

写真

 暴言吐くやつってさ、要するに頭悪いんだよな。自分のやってきたこととか今の地位とかをばかにされたように思って、自分を誇示するために攻撃的なことを言っちゃう。けど、暴言吐いた途端に、そいつの出来の悪さが露見するんだよな。

 俺は毒舌ですよ。でも、毒舌は暴言とは全然違う。毒舌は文句、批判ですよ。少なくとも俺の場合は。「何だそりゃ」とか「それでいいのか」って。それで「文句言うならてめえがやってみせろ」と言い返されて。毒舌は自分に返ってくる。やらないやつはただの文句言いで、誰にも相手にされなくなる。新聞も国をたたいたりしてるからある種、毒舌じゃないですか。

 例の「LGBTは生産性がない」っていう暴言は、炎上狙いみたいなところもあって、どうやって関心を持たせるかって考えたのかな。過激なことを書いた方が読まれるだろうと。「私すごいこと言うでしょ」って、自己顕示に近いんじゃないかな。彼女は半分ぐらいの人は賛成してくれると思ったかもしれない。でも計算違いだった。それでも自分は絶対に正しいと思うなら反論しないと。隠れちゃうんだもんな。無責任だよ。

 彼女の言ってることは精神的な虐殺ですよ。用のないやつを切り捨てよう、排除しようという思想につながるから。それは社会的に不都合な感情なんだと気付かないといけない。もしかしたら人間には、心のどこかにLGBTとか障害者に対する差別意識があるかもしれない。だけど、それを乗り越えていくのが人間の知恵であり、知力だよな。生理的な本音のままじゃ駄目なんですよ。

 俺は地震の被災地でコンサートをやると、客に向かって「被災者だからって不幸面しやがって」とか言っちゃうんですね。励ましですよ。そうすると客席から「ふざけるな、ばか野郎」とか言い返してくる。被災者だって遠慮しないで、文句も言っていい。「おまえら被災者扱いされたくねえだろ」って叫ぶと、すごく盛り上がりますよ。障害者が客席にいても障害者扱いしない。「車いすで場所取りやがって」とか言ってね。そうやって相手をする。健全だと思いますよ。

 今の世の中は暴言だらけ。ときの大統領が暴言吐きまくってる。上に立つ人間が差別してんだから話になんないよな。

 (聞き手・越智俊至)

 <いずみや・しげる> 1948年、青森県生まれ。71年デビュー。代表曲に「春夏秋冬」など。俳優としてもテレビドラマや映画に多数出演。「一日一偽善」を掲げて慈善活動に取り組む。

◆真の意図、見抜かねば 明治大教授・海野素央さん

海野素央さん

写真

 杉田氏の寄稿で注目したのは、「LGBTは生産性がない」という暴言を吐くことで快適に思う人、スカっとする人がいるということです。賛同する人数は一部でも、非常に熱狂的。敵をつくり対立の構図をあおることによって、自分の支持基盤を固めていく。これはトランプ米大統領と同じやり方なんです。

 米中間選挙の研究で、九、十月にトランプの演説を聞いてきました。中米からの移民キャラバンについて、「あの中には中東の人間がいる」と。二〇〇一年の米中枢同時テロ以来の「中東=テロリスト」というステレオタイプを今も使っているんです。杉田氏と同じく、恐怖と不安と怒りをあおるヘイトです。

 トランプの大統領就任より前から、米国社会は分断されていました。背景には、白人が減りヒスパニックなどの割合が増えるという人口動態の変化への不安があります。オバマ前大統領は、労働者に向かって「グローバルな時代には知識やスキルが必要。だから大学に行こう」と呼び掛けた。一方、トランプは「あなたたちは正しい。悪いのは不法移民や企業だ」。

 分断社会では、ヘイトがすごく効果的なんです。一六年の大統領選で、トランプは分断対応型の新しい選挙をやった。退役軍人や白人至上主義者などの支持者を固めて、火を付けるという方法です。(政治的に)真ん中にいる無党派を狙うのが選挙の常識ですが、トランプは、一部の支持者にしか呼び掛けません。トランプは支持者以外のメディアなどに何を批判されても気にしない。だから、ファクトチェックをやっても効かない。

 トランプ支持者と反トランプの人では、毎朝見ているテレビ番組まで違う。社会の分断が加速すると、お互いの間にブリッジ(橋)が架からず、コミュニケーションがなくなる。日本でも同じ現象が起きる可能性があります。世界各国で似たような政治家が台頭しているのが、トランプ流の手法を学んだ結果だとすれば、困ったものです。

 巻き込まれないためには、暴言には支持者を固めるという真の意図がある、と見抜くことです。今年の中間選挙では、女性や若者、ヒスパニック、LGBTなど多様な属性が融合した「異文化連合軍」の民主党が下院で勝ちました。二年後の大統領選では、トランプ流の「単一文化連合軍」が勝つのか。注目です。

 (聞き手・谷岡聖史)

 <うんの・もとお> 1960年、静岡県生まれ。博士(心理学)。研究の一環で2008〜16年の米大統領選はオバマ氏、クリントン氏陣営にボランティアとして参加。著書に『オバマ再選の内幕』。

◆社会常識の再構築を 作家、法政大教授 中沢けいさん

中沢けいさん

写真

 耳を疑う暴言がまかり通る最近の言論の劣化の背景には、二つの要因があると思います。

 一つは、会員制交流サイト(SNS)の登場です。誰でも発言できるSNS上にヘイトスピーチ(憎悪表現)が現れました。それは当初、タブー(社会的な約束事)を破ることを面白がる思春期の少年少女のような感覚で行われているように見えました。しかし、タブーが破られたことで、今まで社会の底に沈んでいた言説が浮上してしまったのです。

 二つ目に、従来の言論形成に力があった新聞、出版などが一時的な「不況」ではなく「市場規模縮小」の時期に入ったこと。新聞の部数減がいわれますが、出版はもっとひどい。昨年の市場規模はピークの一九九六年のほぼ半分。雑誌では、主要百二十誌中、この十年で実売が半分以下になった雑誌が三十三誌もあります。

 雑誌は表紙や広告を見るだけで世論に影響を与えてきました。ところが、週刊誌は主要読者の高齢者向けに健康やマネー運用などの記事を増やし、政局に絡むような記事は減少。かつての世論形成のプロセスが機能しなくなっています。出版の弱体化は、少しの資金で世論操作がしやすくなっていることも意味します。非常識な内容の本でも出版しやすくなっている。

 しかし私は、非常識はいずれ常識に収れんされてゆくと思っています。自動車がいい例。普及期は交通事故が多発しましたが、道路交通法が整備されると同時に日常感覚としての交通マナーができた。同じように、SNSでも法の整備や社会的ルールの共有などによって秩序を取り戻すでしょう。その意味で、今は新しい言論秩序が生まれる前の混乱が続く「バベルの塔」状態かもしれません。

 今、日本では従来型の言論形成への蔑視や無知がはびこるのに加え、サブカルチャー全盛の中でオーソドックスな精神形成のプロセス(メインカルチャー)が見失われている。しかし、それは「見失われた」のであって「失われた」わけではない。今こそ、広く社会で共有されるべき常識(コモンセンス)の再構築が行われるべきです。特に、昭和中・後期の政治・経済・文化について。「記憶」が失われていく今、これらをきちんと「記録」し、皆で「共有」するプロセスが必要です。小説もその一端を担うと思っています。

 (聞き手・大森雅弥)

 <なかざわ・けい> 1959年、神奈川県生まれ。78年、「海を感じる時」で群像新人文学賞。85年に『水平線上にて』で野間文芸新人賞。2015年に対談集『アンチヘイト・ダイアローグ』を出版。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索