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異次元金融緩和からの脱出 富田光・論説委員が聞く

 日銀がデフレ脱却に向けて「異次元」といわれる大規模金融緩和を続けています。物価上昇率2%を目標に掲げ、お金の好循環を演出するのが狙いです。だが効果は上がらず、マイナス金利で銀行の経営が悪くなるなど副作用も目立っています。金融政策に詳しい日本総研の河村小百合上席主任研究員と共に金融緩和の実態について考えました。

◆日銀は現実を伝えよ 日本総研上席主任研究員・河村小百合さん

河村小百合さん

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 富田 日銀が金融緩和を続けています。最近地方で銀行経営が急激に悪くなっています。しかし、金融政策というのは難しく分かりにくいのが実感です。

 河村 中央銀行は普通、金利の上げ下げで景気や物価を制御します。本来は銀行間取引の金利である短期金利を誘導します。市場が限られ制御できるからです。ところが短期金利を0%近くまで下げても効果がなく、黒田東彦総裁就任後は世界中が仰天するような巨額の国債買い入れを始めました。三年やっても上昇率は2%に届かなかったため、今度は短期金利をマイナスにした上、銀行経由でどんどん国債を買い入れて、市場参加者が海外含め多様なために本来は中央銀行には制御し切れないはずの長期金利まで無理やり0%近辺にまで押し下げ続けています。それで副作用が生じたのです。

 富田 目標の2%どころか1%にも達していません。効果がないのに続けている。誰か止めなければと思います。止められない理由があるのではないか。それをはっきり言わないから国民の間に疑問ばかりが浮かぶわけです。

 河村 政府が日銀を事実上財布代わりにしていると考えています。双方ともそれは認めないでしょう。でも国が一千兆円もの借金を抱えていることは事実。国債発行が野放図に増えているからです。政府からみれば、日銀がこれほど買い入れてくれるというのは、いくらでも金が出てくる財布があるような状態です。日銀も政府の意向を分かっているから止められないのでは。こういう事態を避けるために中央銀行の独立性は必要なのです。こんなことをやるわけにはいかないと政府に言うのが中央銀行の本来の姿です。

 富田 その通りです。しかし、私は長く金融政策をみてきましたが、日銀が独立性を持っていたという感覚そのものがないのです。安倍政権を含め、どの政権下でも日銀がガツンと意見を具申したという記憶はあまりありません。日銀の独立性など理想論ではないですか。

 河村 確かに日銀はもともと、政府からの独立性が強いとはいえない。ただ、海外では米連邦準備制度理事会や欧州中央銀行のように、実際にも政府に対して毅然(きぜん)として金融政策を行っている独立性の強い中央銀行があります。ところが今の日銀は政府に甘い顔ばかり。そのせいで財政規律の緩みなんてもんじゃありません。放漫財政です。

 富田 と言われても何も顕在化していません。六年前のギリシャの財政危機のようなことにはなっておらず、そう予測する人もいません。なにしろ国債は九割以上国内で買われています。本当に危機なのでしょうか。借金が増え長期金利が暴騰して国債が売れなくなり、財政が破綻するというシナリオは二十年以上前からいわれていますが、起きる気配がありません。

 河村 今まではそうですね。しかし、危機は突然起き、きっかけもさまざま。ギリシャでも欧州債務危機前までは何の問題もなく、いくらでも国債を発行できるような状態でした。ところが、突然、危機に陥るとその時から市場で国債を発行してお金を借りることはできなくなります。財政が破綻の危機にひんしていると分かれば、国内から急にお金が逃げ出し始めます。欧州では、アイスランドやキプロスでも国内からの急激な資金流出が起こって長期化し、ギリシャでは今もまだ止め切れていません。企業ももちろん国外に逃げていきます。通貨の急激な下落、資金流出はどの国でもあり得ます。ただ日本の場合、財政事情は世界最悪だというのに、それが起きたとき、今のままでは対応策が極めて限定されてしまう。

 富田 非常時の備えが脆弱(ぜいじゃく)だということでしょうか。それでも日本人は「借金を返せ」と言わないと思うのですが。共倒れになってしまいますから。ある程度我慢すると予想します。

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 河村 そうでしょうか。普段、預金口座を置いて使っている銀行の経営が急激に悪くなったらどうしますか。生活防衛のため預金を引き出し、自分の資産だけは守ろうとするのではないですか。その動きが拡大すれば、国家は必ず預金引き出し規制をかけ資金流出を抑えます。戦後の日本もギリシャもそうでした。富裕層や大企業は、そうなる前に資金を海外に移して危機から逃げるかもしれない。だが大半の国民はそんなことはできず、預金引き出しすらままならなくなります。危機の被害者は常に普通の国民なのです。

 富田 ではどうしたらいいのでしょうか。専門家は批判はするが具体策は出さないという印象があります。危機をあおっているという指摘もあります。

 河村 日銀の現状を伝えます。日銀の当座預金には約四百兆円積まれています。銀行は国債を日銀に売って資金を得たが、融資先が簡単に探せない中、大半をやむなく当座預金に預けています。ただ海外の金利がもっと高くなるとか環境が変化すれば、すぐにお金が逃げ出しかねない。防ぐには日銀当座預金に付ける金利を上げるしかありません。

 だが日銀が異次元緩和で買い入れて保有する国債の平均利回りは0・3%もない。0・5%に利上げするだけで逆ざや。1%上げると年四兆円分利払いが増えますが、日銀の自己資本は八兆円程度。吹き飛ぶのは時間の問題です。これは債務超過で民間銀行なら破綻が視野に入る。税金を投入すれば回避できますが、異次元緩和の尻拭いで毎年数兆円の増税に国民が耐え続けられるかどうか。実際には必要な利上げはできず資金流出や円安も止められず財政運営も行き詰まりかねません。

 富田 日銀側は自らの財務体質が良くないことを知っているはずですよね。だから七月下旬、緩和は当面続けるが長期金利のごくわずかな上振れは多少認めるというような中途半端な金融政策を打ち出したのですね。利上げの下準備でしょうか。

 河村 とてもそのレベルではありません。政府や中央銀行の役割は、国が危機状態に陥ることのないよう、その芽をできるだけ早く摘み取ることのはずなのに今は逆です。政府は日銀任せで財政再建にまともに取り組まず景気対策ばかり。財政事情は世界最悪なのに日銀が国債買い入れを打ち切ろうとする気配はなく、政府と日銀とで危機の種を大きく膨らませ続けています。

 そうなっては困るから欧米の中央銀行はずっと手前で国債買い入れを止め、米国では徐々に市場に戻しています。こうした事態から抜け出す特効薬はありません。日銀が国債の買い入れや保有を減らし、政府が本気で財政再建に取り組む。国民も負担を覚悟して受け入れるしかない。突然危機に陥ることのないように道筋を整え、しっかりと対策を実行していくべきだと考えます。

 <かわむら・さゆり> 1964年、神奈川県生まれ。88年に京都大法学部卒業後、日本銀行入行。91年に日本総研に転じ、2014年から現職。この間、行政改革推進会議民間議員、厚生労働省社会保障審議会委員などを歴任した。専門は金融と財政運営。

 <異次元緩和> 日銀が2013年4月から続ける「量的・質的金融緩和」の通称。国債などを前代未聞の規模で購入し、市場に巨額資金を供給。物価上昇率2%という目標を達成し、デフレ脱却を図ろうとした。5年半が経過した今も達成のめどは立たず、巨額の国債買い入れを継続しているため、日銀の資産総額は名目ベースの国内総生産(GDP)に並びつつある。

 

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