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今こそ、休み方改革!

 安倍内閣が重要政策として力を入れる「働き方改革」。長時間労働の改善が一つの柱だが、休日など自由な時間が増えても、どうしたらいいか分からない人は多い。今こそ、「休み方改革」が必要だ。

 <日本人の休み方> 厚生労働省が昨年実施した就労条件総合調査によると、労働者に与えられた有給休暇は平均で年間18・2日。このうち実際に取得された有休は9・0日(49・4%)だった。前年より0・2日増えたが、取得率は50%を切る水準が続いている。

 旅行サイト大手の「エクスペディア・ジャパン」の国際比較調査では、昨年の日本の有休取得率は50%で、2年連続最下位。アジアでも香港は100%。韓国は前年の53%から67%に改善した中、日本の低水準が目立っている。

◆自分の時間を大事に エッセイスト ドラ・トーザンさん

ドラ・トーザンさん

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 毎年、夏は日本を離れてバカンス(vacances)に出掛けます。今年はサッカーのワールドカップを見にロシアへ行くつもりでしたが、直前に肩を痛めたのでフランスに戻り、父の別荘で一カ月半、ファルニエンテ(イタリア語で「何もしない」)な日々を過ごしました。

 日本人が夏休みなどでどこかに行ったとき、いろんなスケジュールを入れ過ぎるのは問題だと思います。もちろん長い休みですから、勉強や新しい出会いの機会でもありますが、実はバカンスは「空っぽ」を意味する「vacant」と語源が同じ。頭を空っぽにして日常のペースを離れ、ゆっくりした時間を過ごすことが大事です。体も心もリラックスして、いつもの役割を忘れて別人になる、あるいは本当の自分に戻る。そのためには最低二週間は必要です。

 ポイントは自分の時間をどう使うか。単に休みで何するかではなく、大きくいえば自分の人生をどうするかということです。だから私は自分の時間を何よりも大事にしていますが、日本人は違うみたい。いろんな義務に縛られて、自分の時間は最後。フランス人は全く逆です。フランス語にはそもそも「ワークライフバランス」という言葉がない。当たり前だから。

 そんなに休んで、遊んで、大丈夫かと思うでしょ? フランス人はオンとオフの切り替えが上手なんです。オンのときは一生懸命仕事をして生産性がとても高い。日本人はだらだら仕事している感じ。ただ、日本的な働き方、時間の使い方にもいいところはあります。例えば、「飲みニケーション」。仕事がスムーズに進むし、いいアイデアも出る。私も日本人的になりました(笑い)。

 若い人は自分の時間を大事にするようになっています。私が住んでいる東京・神楽坂は飲食店の名店が多い所ですが、会社の飲み会が昔より減ったように思います。代わりにデートのカップルが増えた。十年後にはバカンスが普通になるかも。それで社員がリフレッシュできれば会社にとってもいいわけだし。

 とはいえ、バカンスはもっと働くための準備ではありません。日常の世界を忘れるため。日本はもう発展途上の国ではない。子どもが夏休みに朝早くからラジオ体操をしていますが、子どもも含めて朝寝坊しましょうよ。もっと楽に生きましょ。

 (聞き手・大森雅弥)

 <Dora Tauzin> パリ出身。ソルボンヌ大、パリ政治学院を卒業。国連勤務後に来日。『ママより女』など著書多数。近著は『フランス人は年をとるほど美しい』(だいわ文庫)。

◆生産性向上にも効果 アクシア社長・米村歩さん

米村歩さん

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 大学を卒業してから二年間、中堅のシステム開発会社に勤め、その後一年ほどフリーのエンジニアとして働きました。月の労働時間は三百〜四百時間、終電で帰ったり、休日も出勤したりという生活でした。IT業界ではそんな働き方が当たり前だったので、私も疑問を感じたことはありませんでした。

 二〇〇六年にシステム開発会社を起業しました。しかし、残業まみれの過酷な労働環境に耐えられず、辞めていく社員が目立つようになりました。これ以上、社員が辞めると会社を続けられない。そんな状況まで追い詰められ、一二年九月三十日、社員を前に「あしたから残業はゼロにする」と宣言しました。

 売り上げが減り、赤字になると覚悟していました。平均十三時間だった労働時間が八時間に減るわけですから。ところが十月の売り上げは前月より27%増え、生産性は二倍強に向上しました。慢性的な睡眠不足だった社員が、毎日十分な睡眠を取れるようになったのだから、生産性が上がるのは今考えれば当然です。社員が休むことは、会社にもプラスになるのです。

 社員のプライベートの時間の使い方には干渉しません。ただ残業ゼロにした当初は違いました。せっかく時間ができたのだから、スキルアップのための勉強をしてほしい。社員にそう言っていました。でも、強制するような言い方は、あつれきを生むだけでした。

 プライベートの時間をどう使うかは、置かれている生活環境によって違ってきます。生活環境は一人一人異なります。当社には、小さな子どもを三人育てながら働いている女性エンジニアもいます。今はいませんが、これからは介護をしながら働く人も出てくるでしょう。

 仕事以外の時間をどう使っても個人の自由です。子育てや介護かもしれません。スキルアップのための勉強、趣味、遊び。何でもいいんです。自分がどういうふうに休みの時間を過ごしたら豊かになれるのか。一人一人がしっかり考えることが重要だと思います。

 企業としては、十分に休みが取れて、多様な働き方ができる仕組みを作ることが重要です。当社では、有給休暇の取得率が現時点で77%ですが、本年度末には100%消化を目指しています。達成できない目標ではないと考えています。

 (聞き手・越智俊至)

 <よねむら・すすむ> 1979年、埼玉県生まれ。青山学院大卒。2006年に起業。残業ゼロ達成で、17年ホワイト企業アワード労働時間削減部門大賞。著書に『完全残業ゼロの働き方改革』。

◆休みを決める裁量を 精神科医、早稲田大准教授・西多昌規さん

西多昌規さん

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 日本と欧米の休み方を比べたとき、決定的に違うのは、欧米人は休む日を自分で決めるという点です。自分の責任で決定して休みを取る。米国人も忙しいときには過重労働気味に働きます。しかし、それは強制されているのではなく、あくまで自分の選択です。その代わり彼らは自分で休日を決める権利があると考えているようです。

 日本では、まだそこまでいっていません。有給休暇を取るにしても、会社や上司から「この辺で取ってくれ。この辺は仕事をしてくれ」と言われることが多いのではないでしょうか。上から来る休みといってもいいでしょう。

 その典型が、いわゆる官製の休みです。月曜日を祝日にして三連休にしたり、「山の日」をつくったり。プレミアムフライデーができ、月曜日の午前中を休みにするシャイニングマンデーも検討されています。しかし、どれも役人や政治家の考えたもので、現実にはうまくいっていない休みもあります。

 例えば、プレミアムフライデーです。月末の金曜日という決められた日に仕事を午後三時で終わるより、それぞれの人が好きな日を選んで三時に終わる方がいいですよね。一人一人に事情があるわけですから。全部自分勝手に決めていいという制度をつくるのは難しいかもしれませんが、もっと柔軟であってもいいと思います。

 日本の労働時間は短くなってきていて、経済協力開発機構(OECD)の統計によると、加盟国の中では真ん中より下です。ところが、有給休暇の消化率は50%弱で、主要国の中では最も低い。最近は監督官庁が厳しくなったので、企業も有休を取るよう社員に号令をかけています。しかし、問題は、社員が本当に休みたい日に休めるようなシステムや職場の雰囲気ができているかどうかです。まずは上司から率先して始めてほしいですね。

 日本人は勤勉だと言われますが、もともと働き者だったわけではありません。むしろ江戸時代までは、かなり適当だったようです。明治以降、国力で勝る諸外国に追い付くために必死で働く必要があった。そのとき、勤勉は美徳という価値観が生まれたのでしょう。それが今でも続いている。ただ、若い世代の仕事に対する価値観は変化してきています。休み方も変わっていくと思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <にしだ・まさき> 1970年、石川県生まれ。東京医科歯科大卒。専門は精神医学、睡眠医学、スポーツ医学。2017年から早稲田大スポーツ科学学術院准教授。『休む技術』など著書多数。

 

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