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今どきのリーダー論

 事実上、次の首相を決めることになる自民党の総裁選が二十日、投開票される。先行き不透明な今こそ、新しいリーダーの在り方が問われている。政治、経済、スポーツの各界でその「かたち」を探った。

 <今どきのリーダー像> オウチーノ総研が2016年7月に実施したインターネットによるアンケートでは、「リーダーに必要な力」のトップは「行動力・決断力」。以下、「コミュニケーション能力」「やさしさ・器の大きさ」だった。職場にリーダーシップがないと感じる役職者がいると感じている人が64・3%もおり、その理由で最も多かったのは「自分勝手・自己中心的」。次いで、年功序列などで「その役に就いただけの人」だった。

◆ロマン、ビジョン必須 ニトリ創業者・似鳥昭雄さん

似鳥昭雄さん

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 ロマンとビジョン、そして意欲、執念、好奇心。これがリーダーの条件だと思います。

 私のロマンは「住まいの豊かさを提供する」という志です。創業から五年後の一九七二年、米国の家具店を視察するツアーに参加して驚愕(きょうがく)しました。店は巨大で、日本にはない商品が山のように並んでいる。品質は良く、値段は安い。日本とは天と地の差でした。日本の住生活は貧しい。五十年遅れている。この豊かさを日本人にも提供したい。強い志を抱きました。

 ロマンを実現するためのビジョンとして、三十年の長期計画を立てました。二〇〇二年に「百店舗、売上高一千億円」です。壮大なロマンとビジョンがあるからこそ意欲が湧くし、成功するまで諦めない執念や好奇心も生まれます。一年遅れの〇三年に計画を達成しました。

 男女を問わず、リーダーには愛嬌(あいきょう)と度胸も大切です。まずは明るくないといけない。明るい哲学を持つことです。また、困難な状況に追い込まれても、リスクを恐れず決断し、前に進んでいく度胸も必要です。

 前任者を否定することもリーダーの絶対条件だと思います。きのうまでのことをすべて否定し、新しいことを提案して実行する。それは、自分の過去のやり方を否定することにもつながります。一つ成功しても次の瞬間から「もっといいものを」と考えていく。これでいいんだという満足は一生ありません。

 企業のトップには、最短でも十年の計画を立ててほしい。売り上げや利益の数字が入った具体的な計画です。大半の企業でそれができないのは、計画を達成できなかったとき、トップが責任を問われるのを恐れるからです。逃げてはいけません。できなかったら私は辞めますと宣言すればいい。私も駄目だったらいつでも辞めようと考えていました。

 私は大学を出た後、サラリーマンになりましたが、すぐにクビになりました。商売を始めてからも接客が苦手で、妻に助けてもらいました。私は十のうち九は短所で、長所は一つだけ。お客さんが喜ぶ商品を探したり、作ったりするのが好きで得意だという点です。あとは販売も下手だし、整理整頓も苦手、記憶することも嫌い。そんな私でも成功できたのは、やはりロマンとビジョンがあったからだと思っています。

 (聞き手・越智俊至)

 <にとり・あきお> 1944年、樺太(現サハリン)生まれ。北海学園大卒。67年に札幌市で創業。2002年、東証1部上場。18年2月期で31期連続増収増益。ニトリホールディングス会長。

◆協力し合う場つくる 日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター・中竹竜二さん

中竹竜二さん

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 優れたリーダーの定義は時代や社会で変わります。昔、リーダーとは文字通り、人の前に立って組織をリードする人でした。答えが明確でゴールが見えている時代はそれで良かった。しかし今は、先が読めず、答えが見えない。一人の天才が解を導き出せる時代ではありません。ただ引っ張るよりは、皆が協力し合う場をつくりだすこと、いろんな知恵や考えを引き出して「集団的な天才」を構築できる人がリーダーたり得るのです。

 リーダーの周りにいる人間をフォロワーと呼びますが、リーダーが統率力を発揮するリーダーシップよりも、フォロワーたちが自主性を持って組織を支えていくフォロワーシップこそが重要になります。

 スポーツの世界も、こうやれば勝てるというものが見えない時代。科学的な戦力分析が当たり前になり、力業や勝負の勘だけでは勝てない。勝利を可能にするのは一人の指導者の力ではなく、選手たちが経験値に基づいて現場で行うリアルな内省なのです。これからの指導者には、現場の人間が主体性を持って戦える場づくりが求められている。私が支援しているコーチたちの中では、自分の考えを選手に押し付けるスタイルだったのが、選手たちの力を引き出すスタイルへと真逆に変わって成果を出す人が増えています。

 しかし、すべての指導者が変わることはあり得ないと思っています。なぜなら、トップダウン型の指導者を欲している選手が少なくないから。自分で考えることは難しいし、自分で責任を取るリスクもある。言われたことに従う方が楽です。

 トランプ米大統領もそうですよ。彼が批判されながらも支持されているのは、彼のような存在を欲している人が少なくないから。混沌(こんとん)とした時代で不安だからでしょう。不安だと皆のエゴが強くなる。彼なら、世界中から批判されても自分たちを守ってくれそうだという気持ちが支持につながっている。その必要性は理解できますが、こういう時代こそ、エゴからの脱却を言える指導者が増えることが私の理想です。

 私は人に自分で考える喜びを与えたい。経験上、自分で考えて行動した方が幸せだからです。でも、無理やり考えさせようとは思わない。正しいからといって、それを押し付けては旧来の指導者と同じだから。

 (聞き手・大森雅弥)

 <なかたけ・りゅうじ> 1973年、福岡県生まれ。2006年に早稲田大ラグビー蹴球部監督となり、4年で2度の全国優勝。『新版 リーダーシップからフォロワーシップへ』など著書多数。

◆未来に対する構想力 東京大先端科学技術研究センター客員教授・御厨貴さん

御厨貴さん

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 政治に限らず、リーダーには未来に対する構想力が求められていると思います。その意味で明治からの百五十年、最も優れた政治リーダーは伊藤博文でしょう。大日本帝国憲法の制定を主導したことはもちろんですが、天皇退位が自由だったのを改め、天皇が亡くならない限り皇位は移らないという崩御制を導入した。皇位が政治争点になって権力が不安定化するのをあらかじめ防いだのです。

 第二次大戦後では吉田茂。新たな政党政治を形作り、軽武装・経済重視という今にも続く道を開きました。ところが、高度成長以降はどうか。正直、長期的な構想力を持った人はいません。ポスト高度成長の時代は、政治課題が短期的になってしまった。

 政治は二十一世紀に入って大きく変わりました。ちょうど二〇〇一年に小泉純一郎首相が誕生したのが象徴的です。それまで政治とは積み重ねでした。経験と勉強が必要だったのです。ところが彼は積み重ねを無視して、通常とは違うところに問題を設定し、自分のビジュアルイメージで引っ張っていった。メディアの利用が重視され、さらに短絡的になりました。

 安倍晋三首相はどうか。実は、個性や政治的な勘などが優れていて総合的に指導力を発揮するというタイプではありません。もともと彼は「右寄り」の色が付いていた。そうした思想で引っ張っていくかと思われましたが、この五年間の安定政権を貫いているのは「やってる感」です。つねに問題に取り組み、解決を目指して政治を動かし続けていく。そのためには野党の政策も先取りする。

 また、人の起用では元首相らベテラン政治家を使う。内閣改造もあまり行わない。第一次内閣で若い人を使って失敗した経験を生かしたリーダーシップなのです。それが安定性につながっている。「長きがゆえに貴からず」という言葉がありますが、彼は「長きがゆえに貴い」リーダーになった。

 ただ、若い政治家は育っていません。安倍さんは「若い政治家の諸君は自分の選挙区のことだけ考えていればよろしい」と言いました。ビジョンなど考えなくていいと。政治家は本来、いろんな意味で思考のバリアフリーの人たちであるはずなのです。既得権益などのバリアーを突破し、十年後、百年後を考えるべきです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <みくりや・たかし> 1951年、東京都生まれ。専門は近代日本政治史、オーラルヒストリー。『政策の総合と権力』『権力の館を歩く』など著書多数。近著は『平成風雲録』(文芸春秋)。

 

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