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あの人に迫る

安井友梨 フィットネスビキニの女王

写真・岡本沙樹

写真

◆美のために鍛え 人生変えられた

 スポーツジムで、ウエートトレーニングに縁のなかった若い女性がバーベルで筋肉を鍛える光景をよく目にする。そんな筋トレ女子ブームの火付け役が安井友梨さん(36)だ。ほどよく筋肉がついた健康的なプロポーションを競うフィットネスビキニの女王。昨年九月には国内最高峰の大会で五連覇を成し遂げた。今は一七二センチ、五四キロの均整のとれたスタイルだが、六年前まではダイエットに挑戦しては失敗を繰り返し、本人いわく「ぽっちゃり体形」だった。

 −どのぐらい太っていたんですか。

 私の家系は大柄で、祖母は一〇〇キロ、母は八〇キロあり、私も七〇キロ近くあった。大学卒業後、証券会社に勤めていて、朝は食べない、昼はパンだけ、夜は毎日のように飲み会。二十五歳で転職しても毎日のように外食したり、甘い物を食べ放題で、太るのは当然。そうやって三十歳を迎えた。

 ある時、気づくと、母がすっかりやせている。十七キロもの減量に成功していた。聞けば、スポーツジムに通っているという。「ずるい」って、私も同じジムに通った。でも、半年たっても全然減量できない。それもそのはず。少しダンスをすると、すぐにお風呂へ。そのうち、ジムに行っても「ダンスはきつい」とお風呂に直行していた。

 −フィットネスビキニを始めたきっかけは。

 これではだめだと、ジムのトレーナーに相談すると「目標を持ちましょう」と。それで、いろんな雑誌を見て、目標となる人を探した。女優やモデルはきれいだけど、私のような普通に会社勤めの人間には遠い存在。その中で目に入ってきたのがオールジャパンビキニフィットネス選手権の優勝者の写真だった。一般人でもすごく輝いて見えた。

 この「一般の人」というのが私にとってすごく大きかった。特別な人でなくても、フィットネスビキニの競技をすることで、美しくなれるということを現実味を持って考えられた。たまたま、そのチャンピオンが名古屋の方だった。同じ競技をするなら同じジムで、と入った。ボディービルの男性選手を多く輩出している市内のジムだった。

 とりあえずの目標は十カ月後のオールジャパンビキニフィットネス選手権出場。ところが減量のために入ったのにトレーナーは「まずは体重を増やそう」と。それで栄養のバランスの取れた食事をとり、ストレッチや柔軟体操ばかり。せいぜい自分の体重を利用したスクワットぐらいだった。

 大会まであと二カ月を切って、ようやくバーベルを使ったウエートトレーニングをするようになった。

 今思えば、まともに運動をしていない体でいきなりバーベルを使ったら、けがをする。関節の可動域や筋肉の柔軟性を高めることが先決だったのでしょう。それで、出場したら、いきなり優勝してしまった。

 −フィットネスビキニの魅力は。

 女性の「美しくなりたい」という願望をかなえてくれるところ。

 鍛えた筋肉に引き締まったウエスト、立体的で丸みのあるヒップライン。ビキニ姿でアクセサリーもつけて、さまざまなポーズを取る。体だけではなく、女性らしい身のこなしやウオーキング、ヘアスタイル、メーキャップ、コスチュームも審査の対象になる。頭のてっぺんから爪先まで、全身の美を競うのが魅力。

 「フィジーク」という競技もあるが、こちらは男性のボディービルに相当する競技で似て非なるもの。

 −競技を始めた際、家族に反対されたとか。

 ええ。「大勢の前でお尻を出すなんて恥ずかしい」と。でも、今まで自堕落な生活を送っていた娘が節制した食事や生活を送るのを見て、家族も「これは本気だ」と思ってくれたのか、何も言わなくなり、応援してくれるようになった。

 −今はどんなトレーニングを。

 週六回、一回二時間。「今日は背中、あしたは脚」と体を六つのパートに分けてトレーニングしている。ただ膝から下の部分は、私はもともと太いのでこれ以上にならないよう鍛えない。

 世界で戦おうとすると、欧米人と比べ日本人はどうしても体が薄い。ステージで見栄えがしない。そこで、昨シーズンは体のアウトラインをつくり直すのを目標にした。具体的には脚、背中を重点的に鍛え、体の厚みをつけようとパーソナルトレーナーをつけて取り組んできた。

 これまではマシンでのトレーニングが中心だったが、体幹を鍛えるためにスクワットやデッドリフトなど「ビッグスリー」と呼ばれる基本種目に立ち返った。

 これ以外にも、二つの施設でマンツーマンのトレーニングをしている。一つは、ポーズを取るときの姿勢をよくするために元大リーガーの岩隈久志さんが監修している施設。もう一つは、ステージで女性らしい柔らかい動きを出すためにバレエの先生についている。

 −どのトレーニングもマンツーマンとは、すごいお金がかかっています。普通の会社員ですよね。

 月に数十万円かけている。給料は食費とトレーニング代でほぼ消える感じ。十年ちょっと前に外資系の銀行に転職。最初は名古屋の出張所勤務だったが、統廃合でなくなってしまったので、二年十カ月前に東京に転勤した。ただ、営業職で名古屋担当でもあるので、土曜日から月曜日は名古屋にいて、直接お客さんのところにうかがっている。火曜日から金曜日は東京。大会のため、会社を休むことがあるが全面支援してくれて、本当に感謝している。

 −大会出場時は体脂肪率10%ということですが、食事はどんな感じですか。

 朝、午前中、昼、夕方、トレーニング後、寝る前の六回に食事を分けている。三時間おきに食べるような感じ。細かく分割するのは人間の体が一度に取り込むことのできるタンパク質の量は決まっているため。それ以上取ると、余って脂肪に変換されてしまう。

 筋肉を発達させるとともに太らないよう高タンパク、低脂肪の食事を心掛けている。具体的には鶏の胸肉、牧草で育てた牛肉の赤身、卵の白身、馬肉、カンガルーやダチョウの肉、白身魚、ワニ肉など。

 大会が終わったら、厳しい減量のための食事を終わらせ、毎日大好きなスイーツを食べまくる。十日間で五キロ増えたこともある。昨年十二月にスロバキアで開かれた世界選手権には大好物のおはぎ二十個を冷凍させて持ち込み、競技が終わった瞬間に食べた。減量で胃が小さくなっているところにいきなり大量に食べたので、おなかを壊しちゃったけど。そんな感じなので、シーズンオフの冬は体重が十キロぐらい増える。細くくびれがあって最も自信があるウエストも五七センチが八〇センチ以上になる。

 −世界選手権では、十位以内に入ることができなかった。

 体づくりやポーズの取り方など、やるべきことはやり、欧米の選手と遜色ないと思った。それなのに十人に残れなかった。審査競技は審査員に知られていることも重要だと痛感した。本場の欧米で顔を売ることが必要だと。そのため、今シーズンは可能な限り、欧州の大会に出場するつもり。平日は仕事があるので、週末の弾丸旅行を繰り返すことを考えている。そうやって世界一に挑戦していく。

 −最後に伝えたいことは。

 重要なのは、できるかできないかではなく、やるかやらないか。普通に会社勤めをしている三十歳の女性が「自分と未来は変えられる」という思いで、一日一歩進んできたら、人生をこれだけ変えられた。「私でも」と一人でも多くの女性がフィットネスビキニを始めてくれたらうれしい。

 <やすい・ゆり> 1984年1月生まれ。名古屋市中川区出身。松蔭高、椙山女学園大卒。オーストラリア・ニュージーランド銀行行員。一昨年にスペインで開かれた「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ」の172センチ以下級で4位。昨年、オールジャパンビキニフィットネス選手権で5連覇。階級に関係のない国内唯一の勝者を決める「グランドチャンピオンシップ」第1回大会で優勝。アジア選手権総合優勝。著書に「究極の太らない体を手に入れる ユリ式筋トレ」(KADOKAWA)がある。

◆あなたに伝えたい

 重要なのは、できるかできないかではなく、やるかやらないか。一人でも多くの女性がフィットネスビキニを始めてくれたらうれしい。

◆インタビューを終えて

 「垂れたお尻がコンプレックスで以前は体形が分からないよう、ぶかぶかの服ばかりを着ていた」

 鍛え抜いた体を前にすると、そんな告白も簡単には信じられなかった。だが、自身のブログに載っている六年前のビキニ姿の写真を見ると、確かに別人だ。

 「背が高いのもコンプレックスで猫背だった。だから、ハイヒールなんて履いたこともなかった」とも振り返った。取材中にひんぱんに口にする劣等感という言葉。だからこそ、と思う。この劣等感がばねになって、安井さんは変わることができたのだと。

 (有賀信彦)

 

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