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あの人に迫る

服部幸応 料理学校校長、料理評論家

写真・市川和宏

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◆今こそ各家庭で食育実践しよう

 料理学校の校長、料理評論家として知られる服部幸応さん(73)。学校の経営に携わりながら、年間約五十のコンテストの審査をこなす。「食育基本法」制定に尽力。「持続可能な開発目標」(SDGs)は食育を通じて達成できるものが多いと講演を精力的に行っている。欧米化した食事や食品ロスなど食の問題は多い。食育を各家庭で実践する時が来たという。

 −東京五輪・パラリンピックで各国から選手が日本に来ますが、食事に対する取り組みは。

 ロンドン五輪の手伝いでおすし屋さんやおそば屋さんを連れてパーティーを開きました。そこで五輪のレガシーはオーガニックと聞きました。日本に帰って調べてみると、日本のオーガニック耕地は約一万ヘクタールでした。なんと英国の約六十分の一です。それでもロンドンの選手村は全ての食材をオーガニックで賄うことができませんでした。リオも同じです。

 トップアスリートの食事はオーガニックなんですね。抗生物質などを使った牛肉を食べると、ドーピングに引っ掛かることがあるため気を付けています。

 そうしているうちにIOC(国際オリンピック委員会)のロゲ会長(当時)が六年前に「TOKYO!」と宣言しました。これは困ったと農林水産省に相談しました。グローバルGAP(世界基準の農業認証)など認証制度を使うこととし、オーガニックも普及させていこうとなりました。今はアジアGAPを推奨しています。

 選手村の食事は洋食・和食・中華はもちろん、ハラールやビーガンも含めメニューは八百品目ほどになりそうです。今、専門家が集まって考えているところです。

 −SDGsの普及に力を入れています。

 二〇三〇年に向けて国連が採択した「持続可能な開発目標」がSDGsです。「貧困をなくす」「安全な水」「平等」など十七の目標があります。日本は残念ながら「教育」など二つしか目標を達成しておらず、停滞や悪化しているものもあります。SDGsの認知者も今年の調べで16%だけです。

 買った魚を学校でさばいてみたところ、おなかから大量のマイクロプラスチックが出てきました。漁網がプラスチックでできているのが原因のひとつです。講演などで認知度を上げて、各目標を企業も個人も少しずつ取り組んでいただければいいなと思います。

 −どのような少年時代を送りましたか。

 東京の中野で育ちました。父母は料理関係の仕事で家にいませんでしたから、祖母に育てられました。おばあちゃん子ですね。今と違い、三世代同居という家庭が多かった時代でした。

 家の近くに沼があって、小学生の時にはメダカやザリガニなどを近所の子供と一緒に捕って遊んでいました。ある時、沼の真ん中が虹色に変わったんです。近所のおじさんが廃油を流していたんです。翌朝見ると、生きものが浮いて死んでいました。よく覚えています。食だけでなく、自然環境にも興味を持ちました。その時の経験が食の問題とか地球環境の取り組みなどと結び付いて今があると思っています。

 −マオカラースーツを愛用しています。きっかけは。

 料理人のコック服は白いですよね。それを黒で作って過ごしてみました。これはネクタイをしなくて楽だなと。「料理の鉄人」の頃にはすっかりおなじみになっていました。「鉄人」では解説だけでなく、監修も行っていましたので、はじめは出演者の料理人がなかなか決まらなくて苦労しました。しかし、視聴率が上がるにつれて逆になっていきました。「出演させてください」と。その頃、小学生の男の子の「なりたい職業」上位に料理人がランクインしました。番組の影響力はすごいと思いました。

 −戦後大きく食生活が変わりました。

 一九六五年あたりから急速に食生活が欧米化しました。生野菜を食べるようになったのもこのころからです。日本人は野菜を食べるときは漬物にしたり、火を通したりしていました。八五年のころになると高脂肪、高タンパク、高カロリーで生活習慣病オンパレードになってしまいました。今こそ食生活を見直す時に来ました。日本人らしい食生活に戻しましょう。

 食品ロスも問題になっています。多くの食品を輸入に頼っているわが国が、食べられる食材を年間六百四十三万トン捨てています。コンビニ弁当など捨てないで家畜の餌にしていましたら、塩と砂糖の取り過ぎで生活習慣病になってしまいました。今は捨てています。外国ではサーキュラーエコノミーという、廃棄食品を売るスーパーや一流シェフが腕をふるう廃棄食品レストランなど、捨てない工夫が始められています。日本も進めるべきです。

 スマートフォンの登場で生活習慣に乱れが出てきています。授乳の時、幸せ物質「オキシトシン」がお母さんと赤ちゃんに分泌されます。スマホを見ながらの授乳や、テレビを見ながらあやすのは良くありません。顔をじっと見るようにしてほしいと思います。見つめ合うことでオキシトシンが分泌され、良好な対人関係が築かれていきます。児童虐待が問題化している今、見直してほしいところです。

 −普段はどのような食生活を送っていますか。

 年間、五十本ほどのコンクールに出席しています。審査の試食でだいたい二キログラムぐらい食べるんです。体に悪いですよね。最近はセーブしていますが、前は八十本くらいこなしていました。もちろん、コンクール翌日の食事は少なめにします。それでも季節の野菜は一日に四百グラム取るようにしています。なるべく火を通してです。食育を唱えている人間が生活習慣病になるわけにはいかないですから。なので、朝ご飯は妻が作った季節の物がたっぷり入ったみそ汁と卵焼きを食べてから学校に行きます。好き嫌いはありません。

 −「食育基本法」制定に尽力されました。

 「食」という字は「人」に「良」と書きます。人を良くすることを育むのが「食育」です。昔は子供への食育は祖母や母親が行ってきました。いわゆる家庭教育だったのです。核家族が現在八割を超えています。両親共働きなど子供ひとりで食事する「孤食」という問題もあります。箸が上手に使えない子供も。このままではいけない。これは国が主導で食育をやってもらわなければ、と思いました。

 日本の教育は知育・徳育・体育の三本柱でした。これに食育が加えられれば未来が明るいと考えました。当時の小泉純一郎厚相が「いいね」と言ってくれて、その後、総理大臣になった時に食育調査会のアドバイザーとして関わることになりました。農林水産省、厚生労働省、文部科学省の三省と協力して二〇〇五年六月に「食育基本法」が成立しました。その後も教科書作りなどで協力しています。

 食育を各家庭でも実践する時です。家族で食卓を囲むことで箸の持ち方や食事のマナーなど、子供にしつけをすることができます。貴重な家族のコミュニケーションの時間を大事にしてほしいです。そこで食料自給率や貿易、環境問題を話題にしていただければうれしいですね。「食」は多くの要素で複合的に関わっていますから。

 <はっとり・ゆきお> 1945年東京都生まれ。立教大卒。昭和大医学部博士課程学位取得。2003年、藍綬褒章を受章。フランス大統領からレジオン・ドヌール勲章シュバリエ並びに農事功労勲章オフィシエを受章。現在、「HATTORI食育クラブ」会長、(公社)全国調理師養成施設協会長、農林水産省「食育推進会議」委員・「食育推進評価専門委員会」座長。著書に「服部幸応の食育読本」「服部幸応の日本人のための最善の食事」など。テレビでは「料理の鉄人」や「SMAP×SMAP」「チコちゃんに叱られる!」などに出演、監修。FM・NACK5「服部幸応のウェル・テイスト」では「食」に関するさまざまな情報を発信している。

◆あなたに伝えたい

 「食」という字は「人」に「良」と書きます。人を良くすることを育むのが「食育」です。

◆インタビューを終えて

 今から四半世紀ほど前、週末の夜と言えばテレビの前に必ず座っていた。見ていた番組は「料理の鉄人」だった。インタビューの日も「鉄人」でおなじみだったマオカラースーツで登場。聞けばちゅうちょなくなんでも教えてくれる。語り口も当時そのままだ。

 わが家の食卓を最近、テーブルからちゃぶ台に替えた。子供の顔が近い。私も子供の頃そうだった。母子家庭で二人だけの食事だったが、働いている母はなるべく一緒に食べようとしていた。今後、思春期を迎え子供と会話が減るだろう。それでもちゃぶ台で一緒に食べることで悩みや変化に気が付くかもしれない。

 (須藤英治)

 

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