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あの人に迫る

瓜生崇 カルト教団からの脱会を支援する住職

写真・松村真一郎

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◆正しさを求めて 迷うのが人間だ

 オウム真理教の後継団体「アレフ」などからの脱会支援をしている瓜生崇さん(45)は、自身も宗教団体で十二年間にわたり活動した後に脱会した経験から、全国各地で講演活動をしている。「人間の善しあしの基準は、場所や社会によって変わる」。宗教というと異質な集団として捉えがちだが、それでは本質を理解することはできないと強調する。

 −大学生で仏教系の宗教団体に入会しました。

 大学受験で失敗し、行きたい大学に行けず落ち込みました。周りは志望校に行った一方で、自分は一生懸命勉強したのに行けなかった。滑り止めの大学でむなしい日々を過ごしている時、ある大学の受験会場の下見をした際に声を掛けてきた人からもらっていたチラシを改めて見て集会に行きました。声を掛けてきた人は東京大のインド哲学の大学院生だった。宗教哲学や仏教の知識が豊富で、すごい人だった。私の疑問に全部真剣に答えてくれ、引き込まれてしまいました。

 −大学を中退し、布教活動を本格化しました。

 大学生活は宗教活動一色。ひたすら部室に行って話を聞き、いろんな大学に行って勧誘して、週末はバスに乗って宗教団体設立者の話を聞きに全国に行きました。授業にほとんど出ず、大学三年から休学し、その後中退。布教をする宗教団体の講師部に行きました。布教使を養成する施設に入り、一年半で出て、仙台市や滋賀県、富山県で活動しました。

 −その後、布教使として各地で活動しましたが、結局は十二年で脱会します。きっかけは。

 ある時から、団体に対するインターネット上の批判対策の仕事をするようになりました。あらゆる方法でネガティブな書き込みを徹底的につぶした。そういうことをしていると、だんだんおかしくなってくる。純粋に布教をして、相手の喜ぶ姿を見てエネルギーをもらっていたのに、秘密任務で批判をつぶす立場になってからは「こんなことをやるために自分は入ったんじゃない」と。宗教団体でつらい思いをしたとか、心身ともに疲弊してやめたとか、それまで接してこなかった脱会者の苦しみに直接触れることで、自分のやっていることが本当に正しいのかと思うようになりました。

 そして、マインドコントロールの本を読みました。人間は集団で生きた場合、自分の意見を周りの意見に合わせていく。人間の判断基準はすぐにひっくり返ると書かれていた。それを読んだ時、それまで団体の教義が正しいと思っていたが、本当に正しいんだろうかと疑問が生まれた。突き詰めて考えると、正しいと言える客観的な根拠はない。もうここにはいられないと思ったんです。

 −なぜ住職に。

 脱会後はサラリーマンをしていましたが、ある時にこの寺の住職だった妻の父が事故で倒れて継がないかという話になった。それまでも「このまま仕事をして人生終わっていいのか」という思いがあった。「人間がなぜ生まれて、何で死ぬのに生きていかなければならないのか」という問い。それを考えずに生きられる人もいるが、考えずにおられない人もいる。私は後者だった。そんな時に住職をやらないかという話があり、分かることがあるんじゃないかと思った。

 −宗教に対して忌避感はありませんでしたか。

 ありましたよ。だから、脱会後は宗教ではなく哲学の本をたくさん読んだ。でも結局、人間の知性では結論は導き出せない。だったら、自分がずっと親しんできた仏教にその答えを求めた方がいい。本当の仏教ってどういう教えかを知りたくなりました。

 −カルトの脱会支援をしています。

 信者の家族が相談に来ます。「子どもが宗教に入ってやめさせたい」という親は、「普通の会社に入って普通の家庭を持って、普通の社会生活を送ってほしい」と思っている。でも、それも一つの「宗教」。子どもに迷うことを期待するなら、こちらも迷うしかない。「普通」が真実なのか、ということを問い直す過程で、子どもがなぜ宗教に入ったかを知ることになるんです。「おまえの宗教はこんな悪いものだ」と言って、相手を組み伏せていくのが脱会支援と思われていますが、それは逆効果で何の意味もないんです。

 今はアレフ信者の相談が多い。アレフは身体性が加わる。世界が光に包まれていくとか、尾骨にエネルギーがたまり上にふわっと上がってくるとか、宇宙との境界がなくなっていくとか、体で修行をして実際に体験している。そうすると、基本的な支援方法は他の宗教の場合と同じですが、その一点を越えられなくて非常に苦しんでいます。インドでヨガをやった経験があるお坊さんからアドバイスを得ながら進めています。

 −現在の勧誘の特徴は。

 フェイスブックやツイッター、インスタグラムなど会員制交流サイト(SNS)を活用します。SNSは緩やかなつながりができます。SNS上で仲良くなって誘っていく。だから、SNSで勧誘された人は、勧誘されたと思っていない。自然に仲良くなった人がたまたまそういう人だったと思っている。でも自然に仲良くなったと思っているのは本人だけで、相手は綿密に計算して時間をかけて多くの人に緩やかにアプローチし、つながりをつくっていく。

 特に大学生は勧誘しやすい。高校時代は受験勉強を頑張り、勉強を一生懸命やるんだけど、大学に入ることで目標を失う。そうすると、人間は次に自分がどこに行くべきかを探すようになる。探し始めたくらいで声を掛けるというのがすごく有効。その頃はいろんな悩みがある。悩みを考える能力を持ち始める時期で、そういう学生を勧誘するんです。

 また、高校生をターゲットにした受験や合格を支援するサークルで勉強を教えながら教義を少しずつ教え、大学に行った頃には立派な信者になっていたというケースもありました。

 −カルトというと異質なものとして捉えがちです。

 カルトはわれわれの中にある。どこか間違いのないものをつかんで、間違いのない人生を送りたいと思っている。戦前の軍国主義やナチスのホロコーストもそう。私たちは世の中の流れや常識の中で、そういう「正しさ」に自分を合わせて間違いのない自分をつくっている。それはカルトの信者が、その集団や組織の中で自分の中にその正しさをつくり出していくこととほとんど一緒。普通の人は反社会的なことまでしないが、カルトが異質なものということではありません。

 −全国各地で講演しています。

 強調するのは「人間は正しさに迷う」ということ。人間は迷うことを恐れる。カルトの問題は「正しさへの依存」。たばこ好きがニコチンに依存する、お酒好きがアルコールに依存するように、正しさに依存する。間違いないものがほしいと思い、これが間違いないというものや人に出会ってしまった場合に飛びついていく。その中で正しさをつかむことの気持ちよさから不安をなくし、それを離したくなくなっていく。それでやめられなくなる。

 人間は、真実を求め、正解を求め、正しさを求めることで迷っていくものだということを伝えたいです。

 <うりう・たかし> 1974年、東京都生まれ。父の転勤先の広島市でキリスト教系の中学校に入り、「なぜ生きるのか」という問いを考えるようになった。電気通信大を中退し、仏教系宗教団体の講師に。脱会後にIT企業や印刷会社のシステムエンジニアを経て、2011年から滋賀県東近江市の真宗大谷派玄照寺住職。宗教団体に入会していた経験を生かし、脱会後はアレフなどからの脱会支援活動に尽力するほか、大阪大でカルトの勧誘に関するセミナーを開く。講演会は全国各地で年50、60回を数える。日本脱カルト協会会員。共著に「大学のカルト対策」(北海道大学出版会)。

◆あなたに伝えたい

 カルトの問題は「正しさへの依存」。間違いないものがほしいと思い、これが間違いないというものや人に出会ってしまった場合に飛びついていく。

◆インタビューを終えて

 昨年七月に、オウム真理教の死刑囚計十三人の刑が執行された際、テレビなどでオウムの異常さがクローズアップされたが、ずっと気になっていたことがある。当時、なぜ多くの信者が入信し、そして暴走していったのだろうかと。その問いを求めて、オウム事件に関する本を読んでみたが、答えは分からなかった。

 オウムを語る時、その異常さが強調されることが多いが、瓜生さんは講演会ではあえてそこは強調せず、誰でも入信する可能性があると説く。「彼らは決して異質な存在ではない」。今回の取材でも明確な答えは得られなかったが、大きなヒントは得られた気がした。

 (松村真一郎)

 

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