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あの人に迫る

荻上チキ 評論家

写真・隈崎稔樹

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◆学校が変われば社会変わるはず

 ラジオで社会問題に鋭く切り込む評論家の荻上チキさん(37)。実はうつ病を患い、子ども時代のいじめが心に大きなダメージを与えたと語る。いじめや「ブラック校則」についての著書を通じ、学校を子どもたちが理不尽に耐える場所ではなく、安心できる場所に変えようと尽力してきた。

 − 昨年出版された著書「いじめを生む教室」には、二〇一一年に大津市で中二男子がいじめを苦に自殺した事件後に行った調査の詳細が掲載されていますね。

 大津の事件後、「ストップいじめ!ナビ」という団体を立ち上げ、大津市と協力して、市内の全小中学校を対象にいじめの実態調査を行いました。子どもたちを対象にしたこの大規模調査には、他に例をみない貴重なデータが詰まっています。

 調査から、いじめは夏休み明けの九〜十一月に増えることが分かりました。もう一つのピークが六月。実際にいじめは六月ごろから発生しているが、エスカレートして本人が苦痛を感じ、いじめ被害として認識するのは九〜十一月ごろになるという仮説が立てられます。新学期当初はお互いのことをよく知らない子どもたちの間に徐々に権力関係が生まれていき、六月ごろにヒエラルキーができる可能性も考えられます。

 −いじめ対策には、どんな具体案がありますか。

 与野党の議員に面会してロビー活動をし、LINE(ライン)などのアプリを通じた相談窓口を国が整えることなどを求めてきました。担任を二人体制にするなど教師の人員増と、多忙な教師の業務を減らして子どもに目を届きやすくすることも不可欠です。

 各学校を拠点に活動する弁護士「スクールロイヤー」の配置も一つの案。ただしスクールロイヤーは学校が雇うような形ではなく、自治体にひも付けて独立性を保ち、市民の弁護士としての役割も果たすような位置付けにしてほしい。

 そうすれば、いじめだけでなく千葉県野田市で起きた虐待事件のような事案についても対応しやすくなるのでは。役所だけでなく学校に行けば、子どもも家族も、生活困窮などについて相談できるような態勢を作ってほしい。子どもたちを対象に、いじめだけでなく、虐待の項目を入れた調査を文部科学省が行うことも訴えてきました。学校はそうした問題を発見しやすい場。財務省は予算が付くような改正はしないという既定路線があるようなので、これらの案を取り入れてもらうまでの壁は高いのですが。

 いじめ予防を議論する際に、「道徳の授業が重要だ」などの声が上がることがあります。実際、大津の事件後、そうした声が大きくなり、道徳が小中学校の授業に取り入れられました。ところが、大津の中二自殺事件が起きた学校は、文科省の「道徳教育実践推進事業」に指定されたことがある学校だった。大津の事件は、道徳の教科化のために政治利用されたのです。教科書を読み上げるだけの道徳の授業は、いじめ対策としては無意味。教員が子どもたちのいじめに対応できていないのは、教員の多忙が大きな要因です。それなのに道徳という新しい教科を設けて、先生の授業準備の負担を増やしてしまった。道徳の教科化は無駄としか言いようがない。

 −意味不明で理不尽なだけの「ブラック校則」の改善も訴えてこられましたね。

 昨年、十〜五十代の生徒や保護者ら男女四千人を対象に校則についての実態調査を行いました。すると若い世代ほど「下着の色の指定」や「眉毛手入れ禁止」など、細かい規則がある校則を体験したと回答した人が多いという結果が出ました。調査する前は、正直、校則は昔より緩くなっているのではないかと仮説を立てていたので、衝撃を受けました。学校で画一的な管理主義化が進んでいると感じました。

 文科省による二〇一四年の追跡調査では、毎年十数万人いる不登校の原因として「学校のきまりなどの問題」を理由として挙げている子どもたちは、一割ほどいます。つまり毎年一万人の子どもが、校則が原因で不登校になっている。

 学校は理不尽への耐性を付ける場所ではなく、理不尽に抵抗するスキルを付ける場所であってほしい。理不尽な校則の改善は、生きづらい社会を変えることにつながると思っています。

 子どもへの理不尽な指導は「脳への暴力」。ストレス、精神的な苦痛を与え続けることは、自尊心を傷つける。僕はうつ病なので、そうした苦しみがよく分かります。

 −うつ病であることをオープンにされているのは、なぜですか。

 ラジオなどでうつ病だと言うと、「言ってくれて助かった」と言ってくれる人がいるんです。中には「病気を盾に言論活動をしている」「病気で飯を食っている」などと絡んでくる人もいましたが。

 僕は小中学校で、ずっといじめられていました。いじめを先生に相談したら「立ち向かえ」と言われた。そこで、その通りに蹴られた子を蹴り返したら、先生に怒られただけで、助けてくれなかった。子どものころ友人関係をうまくつくれず、いじめを受けた影響は、大人になった今でもあり、うつ病にもつながっていると思う。いじめは人格形成に大きな影響を与えます。

 僕の場合は、自分の苦しさの原因をそしゃくするために、いじめについて研究したり、エッセーに書いたりして苦しさを言語化することで、救われてきました。「ストップいじめ!ナビ」のホームページでは、子どもがいじめの被害状況を自分で書き込むことができる「あしたニコニコメモ」というフォーマットを公開しています。いじめの証拠を残すことに加え、自分自身で被害を認識して言語化するためのツールとしても利用してほしい。

 いじめだけでなくセクハラ、パワハラなどの被害者は、自分自身が、被害がどれほど深刻なのか、実相を把握しきれていないことがあります。訴えてもダメだったという経験から、状況を変えようとする気にすらならなくなることもある。そうした時に、被害状況を言語化することで具体的なサポートを受けられるようになったり、トラウマからのいやし、ストレスからの解放につながったりすることは、ままあります。

 −いじめについての報道の在り方については、どう思われますか。

 「自殺するくらいなら逃げろ」という論調の報道は増えてきました。緊急措置としては正しいですが、その考えが行き着く先は自己責任論という副作用もあります。

 学校に行っていない空白期間が履歴書にできることは、将来子どもにとって不利益となることもある。子どもが学校に行かないと、親の心的、経済的な負担も大きくなります。短期的にはメディアが良いことを言っても、経済格差など長期的な差別を温存することになりかねない。

 子どもにとって学校をより安全な場所に、ストレスが少ない「ご機嫌な教室」に変えていくこと。学校の環境改善が、大人の役割ではないでしょうか。

 <おぎうえ・ちき> 1981年、兵庫県明石市生まれ。成城大時代からブログで発信し、東京大大学院でメディア論などを学んだ。2012年設立のNPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事。TBSラジオ「荻上チキ・Session−22」のメインパーソナリティーを務める。同番組は、15、16年に、優れた番組に贈られるギャラクシー賞を受賞した。

 17年に「ストップいじめ!ナビ」副代表の須永祐慈さんらと「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」を立ち上げ、翌年共著「ブラック校則」(東洋館出版社)を出版。著書に「ネットいじめ」「いじめを生む教室」(PHP新書)など多数。最新刊は絵本作家ヨシタケシンスケさんとの共著「みらいめがね」(暮しの手帖社)。

◆あなたに伝えたい

学校は理不尽への耐性を付ける場所ではなく、理不尽に抵抗するスキルを付ける場所であってほしい。

◆インタビューを終えて

 論客としてラジオで、ネット上で、理路整然と持論を語る荻上さん。調査を基にして語るいじめ対策にも、説得力がある。

 その荻上さんは、雑誌「暮しの手帖」の連載「みらいめがね」で、こちらが心配になるほど詳しく、いじめの経験やうつ病など自身の内面について、つづってきた。「とことん傷ついてきた」と書かれた回もあった。

 「マスゴミ」「バカ記者」。私もネット上で匿名の相手から、そんな言葉を言われた経験がある。荻上さんの言葉には、心無い言葉に傷ついてきた人の心にしみいる、優しさもある。先月単行本になった「みらいめがね」。私も買った。

 (細川暁子)

 

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