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あの人に迫る

斉藤淳子 欠点を強みに変える講演家

写真・立浪基博

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 生まれてすぐ、髪の毛や眉毛などの全身の毛が抜けてしまった斉藤淳子さん(47)。静岡県富士市を拠点に、キャリア教育の講師として学校などに出向き、「容姿などが他の人と違っても、あなたはあなたのままでいい」というメッセージを伝えている。自分と同じように苦しむ子が現れないようにという思いを込めて。授業では、かつらを途中で外し、考え方一つで欠点も強みに変えられると訴える。

 −学校での講演では、途中からかつらを外します。

 ドリームマップ授業の講師として六時間、子どもたちと向き合います。脱ぐのは、その二時間目です。リフレーミングといって、短所も言い換えで長所になることを話す際に、外します。子どものころに、髪の毛がないことでいじめられ、自殺したいと思っていたことを話し、今でも毛がない状況は変わっていないけれども、前向きにとらえていることを伝えます。子どもたちには真剣に向き合わないと、伝えたいことが伝わらない。それで、昨年の夏から外すようにしました。

 −子どもたちの反応は。

 びっくりしますが、こちらの本気さが伝わっているような気がします。私を見る目線で感じます。

 −幼いころはつらかった。

 保育園で友達と一緒に砂場で遊んでいると、周りを取り囲んでいる大人から「あの子、かわいそうね」という声が聞こえてくる。友達が親に「どうして、あの子は髪の毛がないの?」と聞くと、大人は子どもに口をつぐむよう促す。翌日に、私は独りぼっちになった。髪の毛がないだけで、みんなと違ってしまうんだと思いました。

 −小学校では。

 からかいが始まりました。「はげ」とか「変」とか。そこからいじめに発展していきました。あいつの配った給食は食べたくないとか。手を挙げて発表すると「髪の毛がないくせに発表しやがって」と。いじめられないようにするには、どうすればいいかばかり考えていました。髪の毛がない理由を知りたかったが、誰も答えを教えてくれなかった。毛が生えるように、いろいろと試したが、どれも効果がなかった。

 −中学校では。

 入学と同時に、かつらをかぶるようになりました。でも、いじめはなくなりませんでした。男子がかつらを引っ張って取ろうとする。「やめて」と頭を押さえる私を見て、笑う周りの子たち。生きづらくて、校舎の屋上から飛び降りたら死ねるかなと、そんなことばかり考えていました。

 −高校を卒業し、就職しても、生きづらさは続いた。

 ほぼ三年周期で会社を辞めていました。髪形が変わらないことから「かつらじゃないか」と、うわさが広がるのが、ちょうどそのころ。三十歳のころ、うつ病になり、会社に行けなくなる経験もしました。

 −転機は。

 三十六歳で病気の治療のため、婦人科の臓器を全部、切除したときです。手術後、意識がもうろうとしているときに、髪の毛もなく、子どもも産めなくなって、最悪だと思いました。同時に最高かもしれないと思いました。子育てに費やす時間を私は自分のために使えると。

 子どもを産めなくなっても私は私であるように、髪の毛があってもなくても、私は私と思えるようになった。この何もなくなった姿を逆に武器にしたら面白いと思えた。実子は持てなくても、私さえ元気なら、学校や友人宅など、子どものいる場所に行くことができる。そういう生き方もあると思いました。

 −人との出会いも、その思いを後押しした。

 その頃に出会った夫に「毛がない」と伝えたら、「美容脱毛にお金をかけなくて済んで、エコだね」と言われました。そんな発想をする人もいるんだと思った。それまでは「かわいそう」「大変だね」と言われてきました。同じ頃に出会った女友達も、髪がないことは、私の人格の一部だと思って接してくれる人たちです。

 一般社団法人ドリームマップ普及協会のファシリテーター(講師)の研修を受けた際に、「現在の結果の原因を追究して生きるか。結果を受け止めて、事後の幸せを追求するか」と投げかけられました。私は、ずっと髪の毛がない原因を探していた。「髪の毛がないから、こんな人生になった。認めてくれない世間が悪い」とずっと考えていた。でも、それでは幸せになれない。自分は髪の毛がないことの素晴らしさを周りに伝えられると思いました。

 −どんな素晴らしさか。

 ボディーソープ一本で全身を洗えるし、かつらをかぶれば好みの髪形に一秒で変身できる。髪を乾かしたり、寝癖を直したりする手間も時間もかからない。見た目が特徴的なので、印象にも残りやすい。考え方で、弱点と思っていることも強みに変えられる。そんな選択肢もある。経験をしている立場だからこそ伝えたい。

 もちろん、スキンヘッドだけがいいのではありません。私は三十年以上、かつらに助けられてきた。かつらの姿も私だし、かつらをかぶらない私も私。どちらも自分。そのことも発信できたらと、活動しています。

 −なぜ子どもに向けて。

 私が子どものころには「あなたはあなたのままでいい」と言ってくれる大人が誰一人いなかった。孤独でした。私のような人を他に知らず、どう声をかけたらいいのか分からなかったのかもしれません。ただ、私は子どもたちに心の底から「あなたはあなたのままでいい」と言ってあげられる。子どものころはつらかったけど、今は自信を持って、そう言える自分になった。子どもたちの人生は、子ども時代に、どんな人と会うかで、がらりと変わると思う。子どもの成長の早い段階で、その言葉を届けたい。

 −ただ、斉藤さんもご自身を受け入れるのに時間がかかった。時間も必要では。

 はい。まだ、受け入れられないという時期もある。

 −その感覚は否定しない。

 それを否定すると、生きづらくなってしまいます。受け入れられない感覚も当然ある。その時間も無駄にはならない。それは自分の経験から言えます。

 −斉藤さんも周りの子との関係で悩んだ。周りの子への働き掛けも大切。

 悩んでいる本人だけでなく、周りの子にも、言葉を届けたい。違いを、良くないこととしてとらえず、一人一人の良いところを見つけてねと伝えています。

 −最近は、インターネットが普及し、髪の毛で悩んでいる人がいるという情報も容易に手に入るようになったのでは。

 私もインターネットを使い始めた二十代後半で同じ悩みの人とつながりました。でも、今年に入り、私のブログを一年ぐらい見てから、連絡を取ってきた人がいた。一歩を踏み出すのは、まだまだ大変。だから発信し続けないと、と思います。

 −「そのままでいい」という違いは、外見だけでなく性的指向や発達障害などの内面の違いについてもか。

 もちろんです。社会も、違いにもっと寛容になってほしいと思います。そうなれば、違いで悩むことも減ります。「外見が違うから」とじろじろ見られる社会でなく、外見にとらわれず、どんな人なのかをしっかり見る社会になってくれればと思います。私の話が、そういう社会になることに少しでも役立ってくれたらいいですね。

 <さいとう・じゅんこ> 1971年、静岡県生まれ。高校卒業後就職。2008年、婦人科のすべての臓器を切除した際に、髪の毛がないことを強みに変えて生きようと決意した。

 キャリア教育の一種「ドリームマップ授業」の講師として、2015年から、静岡県内を中心に年間10校前後、要請のあった小中学校を回っている。授業には、NPO法人「こどものみらいプロジェクトゆめドリ」(名古屋市中村区)が協力。一般社団法人ドリームマップ普及協会(同)が養成した講師が、子どもたちが将来の夢を描く手助けをする。

◆あなたに伝えたい

 子どもを産めなくなっても私は私であるように、髪の毛があってもなくても、私は私と思えるようになった。この何もなくなった姿を逆に武器にしたら面白いと思えた。

◆インタビューを終えて

 「ちょっと変わっている」。いじめの口実で出てくるお決まりのフレーズだ。「そのままでいい」という斉藤さんのメッセージは、そんな理由で排除される子どもたちに向けた力強い応援だと感じた。

 「多様性を大事に」と、世間では盛んに言われるようになった。性的志向の多様性などには、学校でも目が向けられつつある。斉藤さんも「子どもたちの方が大人より自然に、外見などの違いを受け止めてくれる」と感じている。

 外国人材の受け入れ拡大で、より多様な価値観や外見の人々と、日本の社会は向き合わざるを得ないだろう。見た目でレッテルを貼られ、つらい思いをした斉藤さんの経験から学ぶことは、きっと多いはずだ。

 (佐橋大)

 

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