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あの人に迫る

マウリシオ・デ・ソウザ ブラジルの国民的漫画家

写真・浅井弘美

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◆母国語と日本語 共に学ぶ教育を

 外国人労働者の受け入れ拡大が始まった。その先駆けとして、多くの日系ブラジル人が移住して三十年。親と一緒に来日した子どもたちは今も、学校生活になじめず、不登校になることも少なくない。ブラジルの国民的人気漫画家マウリシオ・デ・ソウザさん(83)は、子どもたちへの教育の大切さ、支援の必要性を両国に訴える。

 −二〇一七年秋、自身の漫画「モニカ&フレンズ」のキャラクターを使い、日本の小学校生活を紹介する絵本を作りました。寄贈された学校や教育委員会から好評です。

 冊子を通して日本の学校に近づくことができ、少しでも役に立てて満足しています。日本に住むブラジル人の子どもたちを、生活になじみやすくしてあげる活動が必要だと思うので、冊子や絵本の制作に取り組んでおり、キャラクターを連れて日本を訪問することもあります。どれだけやってもまだ足りないとの思いで、これからも続けていきたいと思います。

 −動画投稿サイト「ユーチューブ」では「教育の大切さと就学の薦め」と題し、日本に住むブラジル人の保護者に「子どもたちは、毎日学校に通って勉強する必要がある。お子さんを学校に入れて」と呼びかけています。

 動画を作ったのは二年前です。出稼ぎブームの初期から、来日するブラジル人の子どもたちが学校に適応するのが難しいと聞いて、心配するようになりました。そのころから、私が子どもたちに語ってきたのが「きちんと二カ国語を覚えなさい」ということでした。「日本に来ているのだから日本語を学びなさい」、そして「母国語のポルトガル語を決して忘れてはならない」とも。残念ながら多くの人がそのようにできず、結局は不登校になりました。保護者は仕事で精いっぱいで、子どもたちの問題を構う余裕もなかったのです。

 −二カ国語を学ぶことが大事だと。

 多くの来日したブラジル人が、お金を稼ぎ、すぐ帰国できると想像していたようですが、すぐには帰国できなかった。母国を離れているため、ポルトガル語もきちんと話せない子どもたちは、不登校になって徐々に日本語を学ばなくなり、日本語も話せないまま日本にとどまっている状況になりました。そこから非行に走ってしまった子らも多くいた。同胞として、事態をこれ以上深刻にしないように、どうにかしてあげたい、と心配しています。

 −なぜ日本に関心を寄せるのですか。

 妻は日系二世で、私は日本も祖国と感じています。日本での仕事も多く、日本法人も立ち上げ多くの作品を日本で出版しています。日本と日本の文化が大好きです。私の心はもともと日本に染まっているのです。

 敬愛している手塚治虫さんとは、一九八五年に国際交流基金の招きで東京を訪れたとき、初めて出会い、友情が芽生えました。手塚さんの人生で節目となったあらゆる場所を巡る旅にも同行させてもらい、人生や夢などについて語りました。

 −動画では「教育の大切さを実感した」と語っていますが、それはどんなことから感じたのですか。

 私は漫画を描き始めて、もう六十年になります。初期のころは、一般の新聞読者に向けて描いていると思っていましたが、私が描いていたものは、子どもたちにとっても魅力的であったことに気付いていなかった。読者からの手紙で、私の作品は、特に子どもをとりこにすることに気付き、そこから子どもの読者が増えていきました。

 読者になった子どもたちが成長し、漫画を読む楽しさが二代目、三代目、四代目へと伝わりました。ブラジルの子どもたちは、私の作品で読み書きの知識を得ていたこと、子どもたちに読み書きを学ぶ意欲を芽生えさせる力があることを実感しました。

 −漫画が読み書きを学ぶ教科書の役を担っていたのですね。

 漫画家はブラジルで、何百万人もの読み書き能力支援の役割を果たしているとも言えます。日本やその他の国などでも同じ貢献ができればと考えています。漫画のキャラクターの影響力は相当なものです。活動を続けるうちに、私に描かれたキャラクターは先生のような指導力があることに気が付きました。

 私たちのプロジェクトは子どもが日本語を学ぶ可能性を広げること。日本だけでなく、韓国やフィリピン、ベトナムなどでも同じように、習慣や文化などさまざまなことを学ぶ手助けをし、学ぶ意欲のある読者を育てることができると思っています。

 −外国籍の子どもの支援として、政府は何をするべきでしょうか。

 私自身は、日本で生活しておらず、人づてに聞いた話や、報道を通じて知っているだけで、具体的な実態を目の当たりにしているわけではないので、解決策を語れる立場ではありません。進むべき道を示すのは政府の役割ではないかと思います。

 海外からの労働者の問題を担当したり、教育を担当したりする公的機関には、何らかの行動を期待しています。労働者として来た人たちの家族が、もしかしたら問題を抱えており、解決する余裕もなく、特に青少年の子どもたちを正しく導くことができていないこともあるのです。

 教育と児童心理学の専門家が海外から日本に働きに来ている人たちの経済状況や子どもの現状を把握し、課題の解決方法の検討から始めてはどうでしょうか。

 日本側だけでなくブラジル側もやるべきことだと思います。ブラジルであれば文部省の管轄ですが、日本も同じではないでしょうか。外国籍の子どもたちの適応性の課題を検討していただければと思います。

 −これからは、この問題でどんな活動を。

 日本へ行くブラジル人の子どもたちは、すでに私たちのキャラクターに親しみを持っているため、どんな取り組みでも、と思っています。なじみのキャラクターが使用されていれば子どもたちも注目するし、言葉も簡単に習得できると思います。

 他の国から来日する子どもの場合も同じように、それぞれの母国の人気のキャラクターを使って、われわれの取り組みと同じ形で進められるとよいかな、と思っています。もし適当な人気キャラクターがないのであれば、私たちのキャラクターを喜んで提供します。必要なのは、子どもの心を動かすことなのです。

 −学校で脱落しそうな子どもや保護者にメッセージをお願いします。

 教育の大切さと二カ国語を使いこなせることの大切さを、親が子どもたちに伝えるべきです。そのことを先生たちからも子どもたちに伝えてほしい。

 昨年秋に訪日したとき、移動のために私たちを乗せてくれた運転手さんは「私の親は、私に日本語を学ばせようと、とても厳しくしてくれた。今では大変親に感謝している。日本ではどんな仕事にも就くことができ、ブラジル人のお客さまとも会話ができる」と話していました。二カ国語を話せる大切さを、子どもに実感してもらうことが必要だと思います。

 1935年、ブラジル・サンパウロ州生まれ。54年、地元紙に入社し、警察担当の記者として働く。59年に同紙で犬を主人公にした4こま漫画の連載を始め、漫画家となる。代表作「モニカ&フレンズ」は、発表から半世紀たつ今も、ブラジルで絶大な人気を誇る。故手塚治虫とも親交があり、昨年秋には、手塚治虫生誕90年を記念して発刊された雑誌「テヅコミ」で、手塚の名作「リボンの騎士」を基に描いた連載が話題になった。2013年、旭日小綬章を受章。16年には、滋賀県の中学校教諭と一緒に在日外国人の子どもたち向けにスタンプを作成、寄贈を続ける。日本の小学校生活を紹介した「モニカ&フレンズ」=「モニカ 日本の小学校」で検索=はネットで閲覧できる。

◆あなたに伝えたい

 漫画のキャラクターの影響力は相当なものです。活動を続けるうちに、私に描かれたキャラクターは先生のような指導力があることに気が付きました。

◆インタビューを終えて

 昨年秋、愛知県内で日系人の子どもらと交流するイベントに出演したマウリシオさんが会場に到着するやいなや、開演直前まで控室に訪問客がひっきりなしだった。舞台に立てば、子どもから歓声が上がり、涙ぐむ保護者もいた。あらためて人気の高さを実感した。

 マウリシオさんと出会ったのは二年前。日本に住む日系人の苦労を憂い、社会貢献に至った経緯を聞いた。活動を続けることは並大抵ではない。偉大な人だ。

 ただ、この善意に甘えてばかりではいけないとも感じた。日系人含め外国人を支える取り組みが、各地に広がってほしいと思う。

 (浅井弘美)

 

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