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自由な市場へ、課題山積 事務所移籍、新制度導入2カ月

ジャニーズ事務所から独立後、「新しい地図」として活動する(左から)稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾=名古屋市中区のドルフィンズアリーナで

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「今こそ本人(芸能人)たちが立ち上がってほしい」と訴える佐藤大和弁護士=東京都内で

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 芸能人が所属事務所に移籍金を払えば、自由に他の事務所と契約できる−。移籍を巡るトラブルを防ぐため、新たな制度が導入されて二カ月が経過した。制度を活用した目立った動きはまだないが、移籍金の算出基準などが明確化されておらず、実質的な運用には課題が山積。事務所側の優越的地位の乱用も取りざたされる中、専門家はさらなる環境整備の必要性を訴えている。

 大手芸能事務所など百社以上が加盟する「日本音楽事業者協会」(音事協)は昨年十一月末、事務所が芸能人と専属契約を締結する際に使用する「統一契約書」のひな型を改訂し、移籍の自由を明文化した。それまでは所属芸能人が契約更新を望まなくても、事務所が「タレント育成にかけた費用が未回収」などの理由で、一回に限り更新できる条項があった。

 芸能人の権利擁護に取り組む「日本エンターテイナーライツ協会」共同代表理事を務める佐藤大和弁護士は「自由で公正な競争ができる業界への第一歩」と評価する。しかし、移籍の最大の障壁となる業界の「慣習」は、完全に切り崩せていない。芸能人が事務所を退所後、数カ月から数年間は芸能活動ができないと定めた「競業避止義務」だ。

 制度導入に伴い、義務の無効化が音事協の加盟事務所にも周知されたが、強制力はなく罰則規定もない。ただ、公正取引委員会(公取委)は独占禁止法違反に当たるとの見解を示しており、佐藤弁護士も「事務所に利益はなく、タレントを辞めさせないためだけの規定」と断じる。

 芸能人は法律上、個人事業主とされる。事務所との契約は本来対等だが、実際には仕事の斡旋(あっせん)やPRといった芸能活動の根幹を握る事務所が、圧倒的優位に立つ場合も多い。利害が対立した際、労働組合のない芸能人は対等に主張できる立場にない。お笑い芸人と所属事務所の危うい契約関係が浮き彫りになった昨年の闇営業問題でも、所属芸人の権利軽視が指摘された。

 「移籍」は芸能人による事務所への対抗手段とも考えられるが、代償は大きい。昨年七月、ジャニーズ事務所がSMAP解散後に独立した元メンバーの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾を出演させないように放送局に圧力をかけた疑いで、公取委から注意を受けた。

 三人は二〇一七年九月の独立後、「新しい地図」を結成して活動を再開したが、テレビの主演番組は次々に終了。この二年ほどは映画やインターネットを主な活動の場にしてきた。かつて「国民的アイドル」と呼ばれたグループの人気者が、CM以外はほとんどテレビに登場しなかった。

 そんな不自然さの背景について、佐藤弁護士は「テレビ局が芸能事務所に迎合してきた結果」と問題視。ジャニーズ事務所は視聴率を稼げる人気タレントを多数抱える。もともと音事協には非加盟だが、放送局による大手事務所への「忖度(そんたく)」が透けて見える。

 新制度は公取委の働きかけもあって導入された。佐藤弁護士によると、契約書を見直す事務所は増えたが、今でも「明らかにタレントに不利な契約を提示するところもある」と話す。

 課題として挙げたのは、事務所側に芸能人の待遇などを適切に助言する弁護士の不足と、芸能人自身が声を上げることの少なさ。「当事者たちが立ち上がらなければ、問題は忘れ去られてしまう。力のある人が優遇される業界ではあるが、既得権益を失っても業界を変えたいという人が出てくると、一気に変化する可能性がある」と強調した。

◆退所で芸名奪われた女性

 かつて大手芸能事務所に所属した二十代の女性は、事務所を退所する際、本名と同じ芸名を奪われた。当時は「そういうものか」と受け入れたが、今は理不尽な制約を押しつけられたとの思いが募る。移籍を巡る新制度を歓迎しつつ、業界にはまだまだタレントを「守る仕組みがない」と訴える。

 現在はユーチューブで芸能活動を続ける。コンテンツに関する会社との間で、再び契約トラブルに見舞われているが、原因について「会社に仲間だから、家族みたいなものだからと言われ、信用した部分があった」と反省。佐藤弁護士の助言を受けながら、未払い分の報酬を巡って会社側と交渉中という。

 タレント個々の立場は弱いが、これまでの経験を踏まえ、自立心の必要性を強調。「お金やスケジュールの管理を人任せにしない。事務所を抜けたいと思った時には、一人では何もできない状態になってしまうから」と説明した。

 (小原健太)

 

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