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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 ある朝、目覚めると一匹の巨大な虫に変わった自分がいる。カフカ『変身』の有名な一節を借りて、宍戸錠さんは自伝的小説で手術に臨んだ当時の苦悩を振り返っている。美容整形の言葉が今よりなじみの薄い時代、ほおを膨らませる手術を受けた

▼野球選手を演じるのにやせて見えたのが、きっかけとも伝わる。個性を求めての大きな賭けだったであろう。「やるからにはおれは勝つよっ、てことで」(東京新聞編集局編『最後の言い分』)。以来四十年あまり。手術の効果は測りようがないが、役者魂に裏打ちされた個性はものをいったはずだ

▼もとは二枚目志向であった。石原裕次郎、赤木圭一郎、小林旭さんらの日活でスターの座は遠かったが、注目を集めるときがやってくる

▼コミカルな人間くささがにじむアクション俳優像は、それまでの大スターと大きく違っていた。アート性の高い鈴木清順監督の「肉体の門」などでの好演も多くの人の記憶に残っているだろう

▼アクション映画が隆盛期を過ぎても活躍し、笑いとしゃべりのセンスは、テレビを通じお茶の間に愛された。「エースのジョー」が亡くなったと訃報があった。八十六歳だった

▼ほおの中にあった「オルガノーゲン」なるものは六十代で取り除いている。役者人生と人々に愛された記憶の象徴だからだろうか。かつて骨つぼに入れてほしいとも語っていた。

 

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