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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 現在、東京拘置所となっている小菅刑務所の番地は、かつて小菅町一二八四だったらしい。「ヒトニハジヨ」と読まれていたそうだ(高田重夫著『犯罪手帖』)

▼多くの恥があり、悔いも償いへの強い思いもあり、絵に描いたような悪も。知られざる「塀」の向こうの世界である。紹介したのが作家安部譲二さんだ。塀の外の人にも教訓や戒めとなり、時に共感さえ呼ぶ逸話の数々でベストセラーを生んだ。先日、訃報が届いた

▼十代半ばでやくざになり、服役を繰り返している。銃弾数発が体に入っていたとか、三億円事件の犯人と疑われていたとか、とんでもない逸話が多い。自らの行いを語りつつ、世の中に鋭い視線も向けていた

▼東京拘置所にいたときに、父からお経の本を差し入れられたという。父の思いとお経は、塀の中での暮らしの支えになった。作家となってから受けた人生相談でその話を語っている

▼老母を疎ましく思ってしまうというその相談者にはこうも書いている。「御老人が、文句なしに喜ばれるのは、風呂で背中を流されている時ではないでしょうか。でも、流す背がある喜びは、それ以上だと思うのです」

▼読んだ思想家の鶴見俊輔さんは、<大きな胸をかりてぶつかり稽古をする感じ>がそこにはあると評した(『鶴見俊輔集10』)。人に恥をみせながら、多くの教訓や戒めも残した人であるだろう。

 

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