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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 トラック種目で活躍していた天才肌の鈴木博美さんは、マラソン挑戦に乗り気ではなかったという。マラソンでこそと見込んで指導していた小出義雄さんは無理強いを避けた。「マラソンはいいぞ」とかたわらで、つぶやきながら待ち続ける。鈴木さんがある日、挑戦を口にした

▼<その夜、私は、浴びるほどに酒を飲んだ…十年以上も待っていたのだから>と、小出さんの著書にある。鈴木さんが世界選手権マラソンで優勝を果たす前日譚(たん)だ

▼「駄馬」だったという有森裕子さんに対しては、その並外れた熱意にかけた。厳しい練習を課し、心の面も支えた。常識外れの走り込みで鍛え抜いて、高橋尚子さんを世界一に押し上げている。時に十年以上待ち続け、時に情熱を真っすぐにぶつけながら、数々の才能を開花させてきた指導者だろう

▼選手の夢ばかりを見たともいう。「たまには家族の夢も」と言う奥さんに、「俺には駆けっこしかないんだよ」と答えた逸話が残る。持っているすべてを注ぎ選手を躍進させた。小出義雄さんが八十歳で亡くなった

▼<お前の痛いところは全部、オレがもらってやる>。有森さんは励まされたという。銀メダルを獲得するバルセロナ五輪の前にかけられた言葉に、豪快なあの笑顔と優しさを思う

▼「千里の馬は常にあれども伯楽は常にはあらず」という。まねできる人は、現れそうにない。

 

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