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社説

アイシアッテルカイ? 週のはじめに考える

 ロックスター忌野清志郎。この世を去って、はや十年。でも今も、今だからこそ、あのフレーズが聞こえてきそう。みんな、アイシアッテルカーイ−。

 ♪何 言ってんだー/ふざけんじゃねぇー/核などいらねえ…。

 おなかの底から“絞りたて”とでも言うような少ししゃがれたあの声が、真っすぐこちらへ向かってきます。

 伝説のロックバンド、RCサクセションが歌う「ラヴ・ミー・テンダー」。エルビス・プレスリーの代表曲に、ボーカルの清志郎さんが、日本語の“訳詞”をつけました。

原子力は欲しくない

 ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、ジョン・レノン…。洋楽のスタンダードナンバーを訳詞(といっても、ほとんど替え歌ですが)で歌う「COVERS(カバーズ)」というアルバムの中の一曲です。

 例えば、忌野版の「サマータイム・ブルース」(原曲はエディ・コクラン)は、チェルノブイリ原発事故に触発されたという、あまりにもストレートな反原発ソングです。

 ♪電力は余ってる/要らねえ/欲しくない/原子力は要らねえ/危ねえ/欲しくない…。

 こんな感じのリフレイン(繰り返し)が印象的で、発表当時は「過激」とされたこの歌も、福島の事故に向き合う今となっては、予言のようにも聞こえます。

 「カバーズ」は一九八八年八月六日の広島原爆の日に発売されるはずでした。それが突然、中止になりました。レコード会社に原発の建設を手掛ける親会社への“忖度(そんたく)”があったといわれています。

 「素晴(すばら)しすぎて発売出来ません」−。六月二十二日付の全国紙に載ったレコード会社の「御知らせ」のこの見出し、今でもはっきり覚えています。

 皮肉なことに、それでかえって「聞きたい」という渇望の声が強くなり、十五日の終戦記念日に別のレコード会社から、世に出ることになりました。

 それから十一年ののち、忌野清志郎名義のミニアルバム「冬の十字架」が、またもや、発売中止の憂き目に遭いました。

 パンクロック風にアレンジされた「君が代」が収録されていたというのが、その理由。

 だれがダメだと言ったのか。

 またしても正体不明の“忖度”でした。

ウソのない言葉の力

 放送も“自粛”される中、忌野版の「君が代」を、清志郎さんいわく「宇宙で初めて」電波にのせたのが、清志郎さんの友人で、タレントの矢野きよ実さん。「矢野印(じるし)」という、中部日本放送の夜のラジオ番組でした。

 矢野さんは今、こう言います。

 「ボス(清志郎さん)は、多くを語りません。でも、ある瞬間のひと言が、私たちの生きる力になるんです。ウソのない、壁のない、全部さらけ出しちゃう人だから−。この時代、この時期に、ボスがいてくれたなら…。そう思わずには、いられません」

 ウソのない彼の言葉は、どこから生まれてくるのでしょうか。

 ギタリスト、楽曲の共同制作者などとして最後まで清志郎さんに寄り添った、三宅伸治さんに聞いてみました。

 「清志郎さんって“文化人”ではないんです。感じたことを庶民目線で普通に歌っただけなんです。“ロックの基本は、ラブ・アンド・ピース(愛と平和)なんだ”と、よく言っていましたが、原発を歌うにしろ、憲法を語るにしろ、そこへつながっていく話。愛と平和を大切にしていただけなんです」

 そういえば清志郎さん、「瀕死(ひんし)の双六(すごろく)問屋・完全版」という著書に、こんなことを書いています。

 <どーだろう、…この国の憲法第9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか? 戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言ってるんだぜ。俺たちはジョン・レノンみたいじゃないか。戦争はやめよう、平和に生きよう…>

自分自身のことだから

 憲法改正も原発事故も戦争も、ほかならぬ自分自身の問題だから、あの人は、歌わずには、語らずにはいられなかった−。

 翻って、私たちはどうですか。

 歌いたい歌を歌ってますか。理不尽なものに怒ってますか。忖度ばかりしていませんか。おかしなことをおかしいと言えますか。憲法を読んだことがありますか。投票には行きますか。日本は世界有数の地震国、福島の事故が怖くはないですか。「愛と平和」が好きですか…。

 “何 言ってんだー”“何 やってんだー”と、あの人に言われなくても済みそうですか。

 

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