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社説

名古屋城の復元 「まず解体」は乱暴だ

 名古屋城天守閣を巡り木造復元の申請につまずいた名古屋市が、天守の解体だけを先に文化庁に申請した。許可されれば、復元許可なしでも解体を始めるという。いくら何でも、乱暴ではないか。

 文化財の復元では、建物の解体許可を復元許可と一体の事業として申請するのが通例だ。市幹部も「解体だけを先に申請した例は聞いたことがない」と言う。

 二〇二二年末の事業完成を目標とする市は昨年十月、文化庁への木造復元の許可申請を予定した。だが、石垣の保全方法について市の有識者会議「石垣部会」の了承が得られず、暗礁に乗り上げた。

 制度上、解体許可の申請だけなら、部会の了承がなくとも意見書を付けて申請できるため、河村たかし市長は四月、“奇策”にも映る解体許可の先行申請をした。

 だが、部会の意見書は「市の解体計画は石垣保全に懸念が残る」との内容。文化庁は申請の審議に入ったようだが、六月中ともみられる結論がどうなるかは不明だ。

 驚くべきは、市長が、もし解体許可が出れば、復元許可が出ていなくとも解体に着手する方針を明言したことだ。文化庁が「戦後都市文化の象徴」と高く評価する現天守閣を、先の見通しのないまま壊すのはあまりにも荒っぽい。

 元の木造天守は戦火で焼け落ちた。名古屋城管理(現・総合)事務所に勤務した東海自治体問題研究所の山口由夫理事は「多くの市民の寄付により、コンクリートで再建された天守は“平和の時代の城”として、現代に生きる私たちの歴史にもなっている。復元見通しもなく、まず壊そうというのは乱暴なやり方だ」と批判する。

 天守閣の耐震への懸念や「観光の目玉」をつくりたいという市長の熱意は分かる。解体申請の先行自体は、少しでも事業を前に進めたいとの気持ちの表れであろう。だが、仮に「まず解体」によって「復元するしかない」を導こうとする発想があるとすれば、到底、行政の王道とは言い難い。

 そもそも、五百五億円の巨費の投入や、市のエレベーター不設置方針などに反対や懐疑も根強く、市民がこぞって復元を熱望している状況には見えない。

 歴史もあり、市民の愛着も深い「お城」である。その命運を決するに、「どんな手段でも」という強引さはふさわしくない。市長には異論にも耳を傾け、遠回りでも丁寧に合意を積み重ねていく姿勢を望みたい。

 

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