敵基地攻撃能力 真の抑止力にならない

2020年8月5日 05時00分 (8月5日 05時01分更新)
 「敵基地攻撃能力の保有」を事実上求める自民党の提言は、「専守防衛」の憲法九条を逸脱するのでは、との疑問が拭えない。地域の軍拡競争が加速すれば、真の抑止力にもならないのではないか。
 提言の発端は、安倍内閣が進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」(地上イージス)の配備計画の撤回だ。それによって生じるミサイル防衛の「空白」をどう埋めるのか、自民党が検討してまとめた提言を、安倍晋三首相、菅義偉官房長官ら政府側にきのう申し入れた。
 提言は日本を標的とする弾道ミサイルについて「迎撃だけでは、防御しきれない恐れがある」と指摘した上で「相手領域内でも弾道ミサイルを阻止する能力の保有」が必要だとして、政府として早急に結論を出すよう求めている。
 提言には「敵基地攻撃能力の保有」という文言はないが、相手領域内での阻止能力には言及しており、敵基地攻撃能力の保有を事実上促したものといえる。
 歴代内閣は、ミサイル発射基地への攻撃は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」と、憲法九条が認める自衛の範囲内としてきた。
 同時に政府見解は「平生から他国を攻撃する、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持つことは憲法の趣旨ではない」ともしており、敵基地攻撃が可能な装備を持つことを認めてきたわけではない。
 それが一転、攻撃能力を保有することになれば、専守防衛を逸脱しかねない。抑止力向上のための取り組みが周辺国の軍拡競争を促し、逆に緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥る恐れもある。
 政府は国家安全保障会議で新しい安全保障戦略を検討、九月にも新しい方向性を示すというが、自民党提言をそのまま受け入れず、慎重に議論する必要がある。
 日本世論調査会の全国郵送世論調査では、自衛隊は「専守防衛を厳守するべきだ」と答えた人は76%に上る。国民多数の思いを、政府が踏みにじってはならない。
 安倍首相の政権復帰後、防衛費は増額が続き、過去最高を更新し続けている。新しい安保戦略に、防衛費を増額、維持する意図があるとしたら看過できない。
 首相は提言を受けて「国の使命は国民の命と平和な暮らしを守り抜くことだ」と述べた。ならば、最優先で取り組むべきは、コロナ禍に苦しむ国民の暮らしや仕事、学びを守ることであり、限られた予算を振り向けることである。

関連キーワード

PR情報