「黒い雨」判決 被爆者の救済を急げ

2020年8月4日 05時00分 (8月4日 05時00分更新)
 原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びた広い地域の住民が裁判で被爆者と認められた。これまで「区域外」とし健康被害にも耳を貸さなかった国は態度を改めるべきで、一刻も早い救済が必要だ。
 広島での「黒い雨」は作家・井伏鱒二の小説でも描かれて、広く国民に知られている。被爆直後の気象調査などを基に、爆心地から北西方向に東西約十一キロ、南北約十九キロを「大雨区域」とし、一九七六年から援護対象地域にしていた。
 この線引き内に居住し、かつ、がんなどの疾患があれば、特例措置で「被爆者」として扱われる。医療費の自己負担分がなくなったり、各種の手当が支給されたりしてきた。
 「大雨区域外」の住民だと、重い健康被害があっても援護対象から外され、被爆者健康手帳の交付を受けられなかった。だが、本当にその線引きは正しかったのか。雨は放射性物質を含んでいるため、いわれなき差別などを恐れて、聞き取り調査に積極的に応じない人々もいたからだ。
 八八年には気象庁気象研究所の元研究室長が、黒い雨の降雨地域は従来の四倍とする調査結果を発表した。二〇一〇年には広島県や広島市が六倍もの広いエリアとした調査結果をまとめている。
 被害があっても道路や河川を隔てているだけで被爆者として扱われない不合理が浮かび上がった。従来の援護行政は理不尽な線引きで分け隔てしていたことになる。
 今回の広島地裁の判決は「特例区域外でも黒い雨が降った可能性があり、放射線の影響があった」と国の線引きを否定し、「大雨区域外」の原告八十四人全員を被爆者と認めた。この判決は国の援護行政に明確に「ノー」を突きつけた意味を持つ。画期的だ。
 もう一つ、大事な点がある。内部被ばくも認めたことだ。油っぽい黒い雨の水滴は畑の作物にも付着し、飲み水の井戸や川にも流れ込んだ。外部被ばくとは異なる特徴があり得るという知見を重んじた。これは幅広い救済につながる英断といえよう。
 提訴から五年もたつ。原告の老齢化は進んで、既に十六人が亡くなったという。今年は戦後七十五年の節目でもある。残された時間はもう少ない。国は司法判断を重く受け止めなければならない。
 もはや控訴すべきではないし、できる限り救済する方策をとるべきである。「裁判所には心から感謝したい」と原告の一人は語った。今度は国が応える番である。

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