<学校の宿題>(前編) 何のためにやるの?

2020年8月3日 15時02分 (8月3日 15時13分更新)
 新型コロナウイルスの影響で、いつもと違う今年の夏休み。でも、子どもたちが宿題と格闘する光景は同じかもしれません。そもそも何のための宿題なのか、考えたことはありますか? 今月の「Dig!」では、身近だけれど“嫌われ者”の宿題の目的やあり方について、考えてみます。(北村希)

明治期から導入

 「三桁の筆算とか、やらないと忘れちゃうから復習しておいてね」。夏休みを控えた先月十七日、名古屋市平和小学校の四年生の教室で、水谷直文教諭が宿題を配った。
 「余裕じゃない?」「終わらなかったらどうすればいいの?」と子どもたち。四十四ページにわたる問題集と読書感想文に、自由研究。計算と漢字ドリルの提出は自由。休みは例年より約二週間短いが、宿題の量はほとんど同じだ。
 学校から解放された子どもたちが向き合う宿題。その歴史は明治時代にさかのぼる。愛知教育大の釜田史准教授(日本教育史)によると、一八八一年に夏休みが導入された際、学習リズムを崩さないようにと教員が課題を出したのが始まりとされる。
 現在のようなドリル形式で課されるようになったのは、紙や鉛筆が普及した一九二〇年代。進学先の高校や大学が次々に創設された時期で、親も子の学習内容の定着に宿題を求め、浸透したという。
 そんな親の意識は現在も変わらないようだ。親子向けの情報サイトを運営する「アクトインディ」の調査では、宿題が必要と答えた保護者は85%。主な理由は「勉強する習慣がなくなる」「習ったことを忘れてしまう」だった。

競争激化で増加

 一方、「ベネッセ教育総合研究所」の調査によると、小中学生が宿題に費やす時間も、教員が課す量も、年々増えている。釜田准教授は「ゆとり教育が終わり教科書が厚くなった上、全国学力テストや国際学力調査も始まり、国や県の順位争いが激化した。教員も課題を増やさざるをえなくなった」と分析。宿題の目的が「順位を上げるため」にすり替わってしまった面があるという。
 東京都千代田区麹町中学校の校長時代に宿題の廃止を決めた工藤勇一さんは「宿題は子の自主性を奪う」と話す。通知表を付けるために出す教員と、「評価が悪くなる」「先生や親に怒られるから」とこなすだけの子どもが増えていると指摘。「提出が目的になり、子どもの身になっていない」と危機感を抱く。
 最近では、増え続ける宿題が受験勉強などの妨げになるとの声に応え、有料で宿題を代行するビジネスも生まれている。「宿題代行屋Q」(沖縄県)によると、依頼が多い夏は約二百件の注文がある。

「やらんでいい」「訓練」…著名人も発言

 宿題をめぐる著名人の発言も目立つ。将棋の藤井聡太棋聖(18)は中学3年の時、「授業をきちっと聞いているのに、なぜ宿題をやる必要があるのか」と宿題を提出しない時期があった。担任と学年主任が「宿題は授業の一環で、授業を補完するから必要なこと」と説明すると、納得して提出するようになったという。サッカーの本田圭佑選手(34)は5月、ツイッターで「学校の宿題は嫌ならやらんでいいと思う。あのやってない奴(やつ)があかんみたいな空気が辛(つら)すぎる」と投稿。1万3000件の「いいね」が付いた一方で、「決め付けるのは無責任」などと議論を呼んだ。元プロ野球選手のイチローさん(46)は「大人になるとやりたくないことをやらないといけなくなる。宿題はその訓練」と話している。
 著名人の間でも意見が分かれる宿題。「何のため」を明確にすることが、宿題のあり方、取り組み方を考える出発点になりそうだ。

 <ゆとり教育> 無理のない学習環境で子どもたちが自ら学び考える力の育成を目指した教育。1977年に考え方が導入され、2002年から本格実施された。総合的な学習の時間や完全週5日制を取り入れ、学習内容も削減したが、学力の低下が問題になり、08年から「脱ゆとり」へと再びかじが切られた。

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