高野谷の狐 勇んだ若者、浜名湖で… 

2020年7月18日 05時00分 (8月13日 17時27分更新)

◆人をだまし裸に「俺が捕まえる」

 昔、昔の話です。
 高野谷(浜松市西区雄踏町宇布見)に悪い狐がすんでいました。谷の道を通る人をだまして、素っ裸にしてしまうのです。
 宇布見の村に住む伝助という若者は、元気いっぱいの若者でした。
 「狐にだまされるなんて、だらしがない。俺が高野谷に行って、いたずら狐を捕まえてやる」と言って、日が暮れると、一人で高野谷へ出掛けて行きました。
 伝助は、狐がいつ出てきてもいいように身構えながら歩きましたが、どこまで行っても見つかりません。
 「いたずら狐はただのうわさ話か。どこを捜しても気配すらしない」
 そう思った時です。「キャッ、キャッ」という鳴き声が突然聞こえてきました。
 「狐ならコンコンのはず。キャッ、キャッと鳴くのはどんな生き物だろう」と思っていると、雑木林から猿が出てきました。1匹出てきたかと思うと、その後、2匹、3匹と続きます。10匹を超えたころ、猿はみんなで輪を作って林から何かを引っ張り出しました。
 「こんな時間にあんなにたくさんの猿。いったい何をしているのかな」と思っていると、大きな船が見えてきました。
 船の周りを取り囲んだ猿が「キャッ、キャッ」と鳴きながら船を押します。林を下る坂のところまでは何とか動かせたものの、その後はどうにもなりません。
 「よし、俺も手伝うぞ」
 伝助が猿に交じって船を押すと、少しずつ動きだしました。猿も大喜びです。
 浜名湖の岸に着いた時、大波が襲いかかりました。伝助はぬれては大変と着物を脱ぎ捨て、最後のひと頑張りです。大波は何度も押し寄せましたが、裸の伝助は大丈夫です。
 「やったぞ。船がついに浮かんだ。みんな乗れ!」
 船が湖に浮かぶと、伝助はうれしさのあまり、裸のまま泳ぎだしました。
 いつの間にか東の空が明るくなり、夜が明けました。通りかかった村人が、伝助に声を掛けました。
 「朝早くから裸で泳ぐなんて、どうかしたのか」
 伝助は正気に戻ると、顔を真っ赤にしました。
 「船は?猿は?しまった。狐にだまされた」

<もっと知りたい人へ>
参考文献 児童向け「静岡県西部のおもしろい伝説」御手洗清


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