<SNSの誹謗中傷>(後編) 誰にでもリスクがある

2020年7月12日 05時00分 (7月14日 15時08分更新)
 今月は会員制交流サイト(SNS)で起こる誹謗(ひぼう)中傷がテーマ。前編では、被害の実態や、発信者特定に壁があり、被害者の救済が進まない現状を取り上げました。後編では専門家の意見を読みながら、誹謗中傷とどう向き合うか、考えを深めていきましょう。

書き込み“許可制”に 大阪大大学院人間科学研究科教授・三浦麻子さん

 先日、母校でもある勤務先の新入生交流会に行きました。ゆるキャラの着ぐるみ登場に驚き、「ここは最高学府です」とツイッターに投稿しました。一方、通信アプリ「LINE」の同窓会グループには「こんなことがあったよ」と楽しく紹介。経験をどこでどう共有するか、私たちは日常的に使い分けています。
 SNS、特にツイッターでは、いろいろなコミュニティーが混在します。冒頭のような「キャラクターの使い分け」や「仲間のルール」が通用せず、トラブルになりやすい。思わぬ方向から批判され、炎上することもあります。
 その上、非対面、つまり情報をやりとりする同士が互いを知らなければ知らないほど、発信側は抑制が取れ、好きなように振る舞いやすい。匿名でルールのない場でのコミュニケーションは、この「たがが外れる」ことで、本音が言い合えて理解が深まったり、面白い情報が得られたりする半面、普段そんなこと言わないだろうと思うようなひどいやりとりになることがある、「もろ刃の剣」なのです。
 特に中高生の皆さん、SNSで突然、悪意ある人に目をつけられるリスクを認識しておきましょう。それを防ぐ方法はただ一つ、許可していない人に書き込みを認めないよう鍵をかけることです。

抑止になる法整備を 弁護士・唐沢貴洋さん

 二〇一二年以降、インターネット上で殺害予告などの脅迫やさまざまな誹謗中傷を受けています。自宅の住所がネット上にさらされた時は荷物をまとめ、その日のうちに家を出ました。
 これほどの損害を受けても、日本の裁判では費用を回収できません。発信者特定に必要な弁護士費用は五十万〜八十万円。損害賠償を求める民事裁判を起こしてもわずかなお金しか受け取れません。発信者が刑事責任を問われることも、ほぼありません。
 「プロバイダー責任制限法」は被害者のためになっていない。法改正で被害者が使いやすく、犯罪行為が抑止されるようにしなくてはいけません。
 総務省の有識者会議での議論は、開示する発信者情報に電話番号を加えるというもの。新たな裁判手続きを設けようという議論もありますが、結局、裁判的なやりとりが必要になるのなら時間がかかるだけ。それより、ネットの接続業者らが対応部署を充実させ、請求がきたら誠実に対応すればいいのです。
 それがだめなら、削除や情報開示を迅速かつ公正に判断する第三者機関の設置も視野に入れていい。私個人は「あしたはあなたが被害者になるかもしれない」と注意喚起するしかないと思っています。

記者はこう考えた

 SNSに依存しすぎるとどうなるか−。自由学園男子部(東京都東久留米市)の高野慎太郎教諭への取材で聞いた「デジタルデトックス」なる言葉にはっとした。スマートフォンなどのデジタル機器を遠ざけて、毒を抜くという意味だが、「デジタルの世界には『毒素』が含まれるという無言の前提がある」と教諭は言う。
 SNSの誹謗中傷も、たまった毒素による弊害と考えると、付き合い方に無自覚ではいられない。解決策という名の特効薬が簡単には見つからないのも厄介だ。(福沢英里)

 来月のテーマは「学校の宿題」 身近だけど“嫌われ者”の宿題。目的やあり方について、考えます。

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