<東京パラリンピックへの道>(20)NPO「ことばの道案内」 音声道案内で 安心街歩き

2019年5月31日 02時00分 (6月17日 10時56分更新)

「ことナビ」のルートに新たに加えた浮間舟渡駅近くのスポーツ施設の点字ブロックを確認する市川さん=いずれも東京都北区で

 例えば、JR埼京線浮間舟渡駅(東京都北区)の改札から徒歩四分のスポーツ施設まで。こんな音声が流れる。
 「改札口を背にして通路を正面十二時の方向へ五メートルほど進むと、左右に通る点字ブロックがあります。点字ブロックを右三時の方向へ二十八メートルほど進むと、右三時方向への点字ブロックの曲がり角があります」
 新宿区の認定NPO法人「ことばの道案内(略称・ことナビ)」が作成し、三月に同名のウェブサイトに追加したばかりの道案内だ。
 目が不自由でも、一人で出歩けるように。ことナビは、視覚障害者が音声読み上げソフトで聞いて、訪れる駅の情報や目的地への行き方を知るツールだ。任意団体として発足した二〇〇二年から、一つ一つの道を実際に歩いて点字ブロックの敷設状況などを調べ、分かりやすい案内を作ってきた。ウェブサイトでは現在、首都圏を中心に公共施設や商業施設への道案内二千六百ルートのほか、駅から出入り口までのルートを百六十駅分、計千八百ルート公開する。
 「自分が障害者だと認めるのは葛藤があり、白杖(はくじょう)を持てるかが一つの壁。自分も使うようになった時、近所に見られて嫌だと思った。すると、みんな引きこもってしまうんです。外に出ないと心も病む」。ことナビを立ち上げた古矢利夫さん(70)は語る。ことナビを生むきっかけは、仲間と開いた目の不自由な人向けのパソコン講座だった。場所を借りて講座を開いても、なかなか人が集まらない。「来てもらうにはどうしたらいいか」と考えたのが、手助けがなくても来られるような言葉での道案内だ。
 税理士として北区に四十年近く事務所を置く古矢さんが網膜色素変性症と診断されたのは三十代初め。やがて完全に見えなくなり、一九九三年に障害者手帳の交付を受けた。手帳を持ち、白杖を使う自分を認められず引きこもった時期もあったが、ことナビを始め仕事も続け、社会とのつながりを保ってきた。
 古矢さんには、晴眼者でことナビ顧問の塚本正明さん(75)が寄り添ってきた。保険会社を定年退職して数カ月後に心筋梗塞で倒れた塚本さんは「医者から歩くように言われ、どうせなら人の役に立つことを」と、視覚障害者のガイドヘルパーを始めた。そこで出会ったのが古矢さんで、以来、活動を支え続ける。
 昨年から古矢さんに代わり理事長を務めるのが市川浩明さん(50)。四十歳で緑内障を発症し全盲になった。七年前、たまたまインターネットで見つけたことナビ主催の街歩きイベントに参加し関わるように。「音声の道案内があれば、なんとか自分でたどり着ける。方向音痴の人もことナビを使うそうですよ」と笑う。
 今力を入れたいのが、東京五輪・パラリンピックの競技会場への道案内。会場はまだ改修工事中のところも多いが、英語版も公開しようと準備を進めている。「一九六四年の東京大会ではインフラが整備された。来年の大会では情報インフラとしてことナビを提供したい」と市川さんは話す。
 味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)や東京都障害者スポーツセンターなど大規模なスポーツ施設もある北区は二〇一五年、施設のバリアフリー化のための検討課題を報告書にまとめ、ことナビに点字ブロックを敷く際はどこにどう設けるのが良いかなど意見を聞き、工事を進めてきた。区の点字ブロック敷設状況が分かるデータベースも一五年から共同で制作中だ。
 市川さんは「東京大会が終わった後も優しい社会が続くか恐れている。長期的に見ていきたい」と考えている。ことナビでは活動に関わってくれる会員も募集している。問い合わせはメール=info@kotonavi.jp または電03(6278)9125=へ。 (神谷円香)

ことナビ創立者の古矢さん(中央)とこれまでの歩みを振り返る市川さん(右)、塚本さん(左)。手前左は調査で使う距離を測る器具

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